第三十五話 帰路
エミラッシェは疑問を抱いている。
フィリアの気持ちの変化がよくわからなかったから。
気がついたら朝だった。
いつもと違う部屋で目覚めて、ここが逆毛の霊獣団だということを思い出す。
服も着替えていないらしく、おそらくだが、昨日の食事の途中で寝てしまった為に寮に放り込まれたのではないだろうか。
「......ロビーに行ってみよう。」
ロビーでは昨日の騒ぎが嘘のように、全て片付けられていた。
「起きたか、ヴィンデート。」
「おはようございます、ハルセンジアさん。」
「今は......、六時だな。八時になったら帰るので、食事と挨拶は済ませておけ。」
「わかりました。」
食堂で朝食を食べていると、アンネリアが入ってきた。
「おはよう、ヴィンデート。昨日は私が気がついたら寝ていたからびっくりしたわ。」
「おはよう、アンネリア。......それは、すみません。」
いいのよ、と言いながら、アンネリアは朝食を運んで俺の隣に座った。
「えっと、八時になったら帰るので、早めに食事を終わらせておきます。......アンネリア、ありがとう。」
「ふふっ、敬語がごちゃまぜになっています。......私からもありがとう。」
少し寂しそうな顔をするが、相応しくないと思ったらしいアンネリアは、緑の瞳を細めてすぐに笑顔になった。小さく手を振られたので、俺も振り返してみる。なんだか、笑顔が込み上げてきた。
「ハルセンジアさん、準備を終えました。」
七時半。ギルドの人達にお礼をし、荷物をまとめてロビーへ戻った。
ハルセンジアさんはディンビエラさんと話をしていたらしく、ロビーに入ってきた俺を同時にちらりと見た。すぐに会話を締めくくり、ハルセンジアさんは俺に対応する。
「少し早いが......、出発するか?」
「はい、早めに着きたいので。」
「ああ......、もう行ってしまうのでしょうか。」
「ええ、わざわざ泊めて、食事も振る舞ってくださり、ありがとうございます。」
ディンビエラさんは、惜しそうにがっかりした顔になるが、すぐに笑顔に戻して敬礼する。俺達も敬礼を返すと、俺らも笑顔が込み上げてきた。
......やっぱ親子だな。
そう思いながら、俺は逆毛の霊獣団及び、デート・ガルディアの街を出た。
「どうする?平原を突っ切るか?」
「いいえ、森へ迂回しましょう。」
流石に本気で言ったわけではないだろうが、真面目に答えておく。万が一にも突っ切る事になったら危険だからだ。道中ではレレティックが出現したが、苦戦することもなく撃退し、気がついたら森に入ろうとしていた。
「早めに昼食にしよう。ここなら比較的安全だ。」
森に入る一歩手前で停止し、俺は保存食を取り出してハルセンジアさんに五~六個渡す。俺もそのぐらいの量を手にして、一つずつ食べていく。全て食べ終わったところで、馬車を森の中へ進めた。
まだ昼ではないからだろうか。行きの時は神秘的に感じたこの森も、今は少し不気味に感じる。草木が揺れ、辺りの小さめの魔獣が逃げ出していく。
「なにか不気味ですね。」
「魔物の気配だな、気を引き締めろ。」
「初めての魔物......。ここにいるのは下位とはいえ、魔獣よりも強いから魔物と分類されているでしょうから、少し恐ろしいです。」
その時、空気が重くなる。
資料にあった。魔物の魔力がこのような空気を作り出すと。
つまりここの近くには、いるということだ。
「この雰囲気......、敵対反応だ。」
後ろから足音。馬車から身を乗りだし、後ろを確認する。
そこには、四足歩行の巨大な黒い塊。二、三メートルだろうか。
しかし、見える耳の内側はピンクに染まっており、目は三つ。それぞれ、シアン、マゼンタ、イエローの色。毛が黒く染まっているせいで、それらがより際立って見える。
「いつの間に!?こいつはビシュレックライガだ!」
「ハルセンジアさん、馬を固定して下さい!戦闘態勢に入ります!」
そして呟く。[ステータスオープン]。




