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Still Green  作者: 匡成 深夜
ミライのために
3/11

ミライのために 2

          

「今年の友チョコ、何にする?」 

「去年何だっけ?」

未来は首をかしげた。

 年が明けて登校すれば、まず話題になるのはバレンタインの友チョコのことだった。1年の時フミカ三姉妹は同じクラスになった。凸凹ながら友達になり、友チョコを交換したら偶然にも全員トリュフだった。それなら毎年、種類を合わせて交換しようよと私から言い出したのだ。

「トリュフだよ。未来はハートの形にミッキーの顔を彫って来たじゃない」 

 私と芙美子、それぞれ3つともミッキーの顔だった。袋の中で揺らせば笑ってるようで可愛かったけれど、ミッキーなのか猫なのか、言われなければよく判らなかった。当の未来は「そうでしたかねぇ…」と左ひじを右手で支えながら、アゴに手を当てる。

「フミちゃんのは?」

「芙美子のは、小さなチョコカップに1つずつ3色入ってて、チェックのラッピングテープで飾ってあった。抹茶が美味しかった~」 抹茶・ココアパウダー・ホワイトチョコがドット柄の紙製のトレイに可愛く収まっていた。

「未来。忘れたのかオマエ、私が心をこめて作ってやったのに」と芙美子が鼻を鳴らす。


 そういえば、と芙美子が上目遣いに見てくる。「2人はファミチョコしてる?」と訊いてきた。私も未来も「ファミチョコ?」と訊きかえす。

「ファミリーのファミ。今時、他人のオトコにあげる女子の方が少ないのよ?」

家族にということか。義理チョコの延長のようなものだったような気がしたけれど、あの地震以来「絆」が意識されるようになったし、あげる相手も女友達の次は「父親」だと芙美子は言った。私は男所帯だから気にならなかったけれど、確かに男兄弟がいない子でもほとんどに父親がいる。父親第2位説は嘘じゃないのかもしれない。


「特にミカ、あんたはカレシとのことで他高の子とか、家族に気を遣ってもらったんでしょ?私たちはいいからそっちにあげなさい」

「いいよ。芙美子たちにも作るよ」

「私は欲しいよぉ~」と言う未来は芙美子に机の下で蹴られた。「あぅ」と腰を折り曲げた姿勢で蹴られたところを手でさすり痛がる未来に申し訳なくなる。二人に作ってくると芙美子が怒りそうだから未来にはこっそり渡そうと思う。

友チョコはチョコクッキーになった。おやつ感覚で作れるし、余ってもおすそ分けできる。家族にもバレずに用意できる。凜乃には何かラッピングを可愛くしておけば喜んでもらえるはずだ。太ることを気にする子だけど我慢我慢のダイエットじゃなくて、凜乃曰く「一口ダイエット」で、少しだけ口にして我慢の反動が食事の時に出過ぎないようにしてるからきっと大丈夫だろう。


「これは僕たちになのかな」

 昨日の夜、学校から帰ってすぐにクッキーを作った。生地を作り、冷蔵庫で2時間寝かせる。私がドラマを見ているとビールでも取ろうとしたのか、冷蔵庫を開けた時それを見つけた父が言った。テレビの音量を下げながら答える。

「それはダメだよ。友チョコだから。お父さんには別に作ってあげるから、我慢してよ」

 男兄弟を含めず、「お父さん」と呼んだのはわざとだった。


「別に明日じゃなくたっていいよ。それに僕は友達用の余ったやつでいいんだけどな」

 ハナからそのつもりだった。母が名古屋に引っ越してから、食事は研一や兄嫁の(あかり)さんがほとんど引き受けてくれたけれど、掃除や洗濯は私がこなしていた。だから本当は凜乃には芙美子たちとも別の、特別に用意したかったけどそこまでの余裕がなかった。凛乃と同じになってしまった友チョコの余りを「あなたはそれで十分でしょ」みたいに言いたくはなかった。


 父は娘からの愛情が今にも欲しい感じだけど、私はそこまで毛嫌いはしていない。ホルモンバランスが崩れていた頃は父でなくても、さほど関わりのない人と話すのは変にイラついて億劫だったし、体型が目に見えて変化している頃も男家族の視線を敬遠していた時期があった。けれど、自分が十代女子という崇高な生き物だなんていうエゴはなかったし、ただ大きなお腹が見苦しかったり汗臭かったりしただけで、父が目を背けるべき存在とは思春期も、そして今も思っていない。


 生地を冷ました後、ゾウやうさぎの型を使って形を整える。それから爪楊枝でそれっぽく見えるように描いていく。

 去年の未来と似たようなものだけど、「ミカちゃんのクッキー、可愛い〜」と未来なら言ってくれる気がした。ほどよく茶色に色付いたクッキーを何枚か適当にとって紙袋に入れた。マスキングテープとか使っておしゃれに飾りつけてしまうと小腹が空いた時ラクに食べられない。できれば袋の口を開いたらさっと食べたい。経験則だった。袋を大きく手前に折り曲げて閉じると、「thanks」とニコちゃんマークを書いたメモを小さく貼った。


 私は4人兄妹の3番目の紅一点。兄たちが呼ぶ「ミカ」を使うので、弟にはお姉ちゃんと呼ばれたことがほとんどない。子供の頃からそうだった。すこし大きくなってやっと姉貴だ。でも私はコイツが兄弟の中で一番私に優しいことを知っている。


 弟の研一や兄たちには昨年の秋、正午から遠い場所への進学を考えてると言われた時、恋の行方に迷って凹んだ時に慰めてもらった。弱虫は自覚しているけれど、弱虫に甘えてばかりもいられない。そろそろいい加減、大人の階段を登り始めなくちゃいけない。


 凜乃には遊びに行った時が良い。年末は正午とのラストクリスマスがどうなるか不安で遊べなかったし、日に日に近づく正午との別れの日が胸を締め付け、何事にも上の空だった気がする。というか、久しぶりにどこか遊びに行きたい。

それよりも家族にどうやって渡すか悩んだ。夕食の後に大皿に取ってコーヒーと一緒に食べるのも良い。夕食と一緒に2枚ずつくらい透明のラッピングでそれぞれの席に置いておくとか、それなら結婚している長兄は帰省してきた時でいいかな。なんて考えたりした。

 だけど、今家に暮らす1人1人が食事もバラバラの時間帯になることも多いなと思い直して小分けにしておいた。会えたら渡して、会えなければ部屋に残しておくことにした。


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