涙
俺たちは道端で立ち尽くしていた。
こんな時間じゃなければ、通行の邪魔になっていたことは明白。
そして、そうでなければ傍目に『ケンカでもしてるのか』と誤解されるような、やや困った状況に置かれていた。
ヒナは、彼女の体験を語り終るや否や手で顔を覆ってしまい、その表情を見ることは出来ない。
俺はというと、いろいろな感情が頭の中を渦巻いていた。
通りで遅かったはず。かなりボリューミーなストーリーがあったんだな…
なんかイヤな感じしたけど、そうか、あいつヒナに気があったのか。
しかもあいつ、人の彼女に手ぇ出しやがってムカツク!
そんなあいつをグーで殴るって、相当だよ。ヒナも怒るときは怒るんだな。
こんなふうに視点を変えると、普段のヒナからは解らない一面…ヒナの考え方が垣間見れた気がする…
そして----
そんなに想ってくれてて、嬉しい。
この気持ちは、正直に伝えておきたい。
熱く火照った顔が夜風にさらされて少し治まってから、顔を覆ったままのヒナに声をかけた。
「ヒナ」
「………なに…?」
返事されなかったらどうしようかと思っていたが、籠った声で応えてくれた。
「ありがとな」
「………っ!」
ハッと上げたヒナの目は、街灯が反射してキラキラ輝くように潤み、今にも壊れてしまいそうな不安定な表情をしていた。
とくんと音が聞こえそうなくらい、俺の胸が小躍りしする。
俺はまたさっきのように彼女の頭を撫で、照れくさい笑顔で続けた。
「いろいろと…ありがとな。俺、嬉しいよ」
「ま…前田く…んっ!………っ!」
「うわっ!ちょっ……、泣くな泣くな!」
「うん…っ、が…がんばって…みる……っ!」
「あああ、そうだ!鼻!鼻つまんでこらえろ!」
「は…鼻!?こう?はだつだんで…?」
最後は『鼻つまんで…?』と言いたかったらしい。
こんなので泣くのをこらえられるのか俺自身何の裏付けもなく言ってしまったが、ヒナは信じてそれを実践して俺に見せている。
そんなヒナがいじらしくて…
気付いたら俺の手は、ヒナの頭を引き寄せて胸に抱え込んでいた。
無論それは、泣くのをこらえようとするヒナにとって、大いにその邪魔をしてしまったわけだが。




