戸惑い~彼女の視点
前田君と帰ろうとしていた放課後の廊下、聞きなれた声が私に呼びかけてきた。
「ヒナ先輩!」
廊下の向こうから、声とともにバタバタと駆ける足音が近づいてくる。
演劇部の一年後輩、津島君。
今年三年になった私はほぼ休部状態なので、彼に会うのは久しぶりだった。
「今、帰りっすか?」
「あ…うん、そうだよ」
私より少し高めの身長の彼とは、首を上げることなく視線を合わせられる。
津島君は私の一歩後ろに立っている、私より頭一つ半高い身長の前田君を少し見上げるようにして目礼すると、再びこちらに視線を戻した。
「ずっと聞きたいことがあったんですけど、なかなか会えなかったんで…。ちょっとだけ、いいっすか?」
「…え…?」
それって『今ちょっと付き合って』的な?
『今お時間いいですか』的な?
前田君が傍らにいて、放課後の廊下を帰り支度で歩いてて…
見てわかんないかな。
出来立てほやほやカップルが、どきどきワクワク、仲良く二人で下校するんだって。
あくまで表情を崩さずに首を傾げて尋ねる。
「これから?」
「…今逃すと、いつになるわかんないし。あ、でも俺と会う予定入れてくれるならそれでもいいっすよ」
(はぁ…?)
悪びれる様子もなくにっこりと笑いながら言う。
良く言えば、純粋で何も考えてないだけなのかもしれない。
悪く言えば、自分のことしか考えてないんだろうと思う。
どこをどうやりとりすれば、津島君のために私のスケジュールを開けることになるんだろうか。
くらくらする…
くらくらしながら、少し前田君を振り返って見た。
私の視線に気づいても、見つめ返す顔は無表情のまま。
ポーカーフェイスで、どう思ってるのかわからないけど、どうやら私が津田君にどう返事するのかを待っているように感じる。
前田君を待たせるのは、とても心苦しかった。
(ごめんなさい、本当に申し訳ない…)
でも今ここで済ませないと、この津島君のためにスケジュールを開ける流れになりそうで、それだけは何としても避けたかった。
と。
本心はこんな風に考えていたわけだけど、このままのストレートな感情はなんだか自分が嫌な人間みたいに思えて…そんな風に思われたくなくて。
(隠さなければ)
少し八方美人だと自覚している私はいい人を演じてしまう。
軽く溜息を吐くと、振り返って前田君にきちんと向かい口元で手を合わせて言った。
「ごめんね、下駄箱のところで待っててくれる?」
「ん?ああ…いいよ、じゃ先行ってる」
手を軽く上げて前田君はそのまま廊下を進んで行った。
(本当に、ごめんね。すぐ終わらせるから待っててね)
私なりに、キッと睨むような視線で津島君に向き直る。




