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束の間の常しえ  作者: 武井一仁


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第一章 時空を超えて・・・④

気を落ち着かせ、ゆっくりと瞼を開く。

すると目の前に、ちょこんと座り直したチャトがいた。

友也を一心に見つめ、声を出さずに鳴いた。


『空耳なんかやないで』


それは——なんと、脳内に響いた。


「えっ……なに?」

『時間がないんや、友也』


間違いない、その声は脳内に——テレパシーという言葉が思い浮かんだ。

まさか——


「チャト、だよな? 猫なんだよな?」

『そやけど、そうやない』

「……」

『僕の名前は優翔(ゆうと)、友也の子孫や』


(ダメだ、幻聴まで。今夜は早く寝てしま……)


『聞いて! 夢でも幻聴でもないから。僕はな、友也の5代あとの孫なんや。来孫らいそんいうやつやな』

「俺の……子孫?」


思わず声が裏返る。

耳にしたことがあまりに突飛すぎて、頓珍漢な質問が口をついた。


「俺の子孫が、なんで関西弁を?」

『え、そこ? そんなん知れへんわ。関西の居住区で生まれ育ったから、生まれつきやん』

「……」

『僕な、2163年——22世紀からやって来てん』

「マ、マジか……」

『やっと理解でけた?』


理解など出来るはずもない。思考も全く追いつかなかった。


「俺の、子孫は、猫なのか——?」

『そうやないって、この猫の身体を借りてるだけや』


そう言うとチャト、いやチャトの身体を借りた優翔は、部屋の宙を見つめた。

何とそこに、霞のような黒い影が現れ、だんだんと実体化していくではないか!


「え、円盤?」


友也の口があんぐりと開いた。そこに現れたのはまさしく空飛ぶ円盤だった。

しかも直径30センチ程の超ミニチュアサイズだ。


『僕の乗ってきた、タイムリープ用のマシンや』

「タイムマシン?」

『うん』

「って、これが?」

『そう』

「この小さいのが?」

『そうやで』

「ああ……俺の子孫って、小人なのか」

『だからちゃうって! ねえ友也、お願いやから少し黙って話を聞いてくれへん?』


チャトは1歩、2歩と詰め寄りながら話し始めた。


『タイムリープしたのは、僕の幽体だけや』

「幽体——?」


またもや声がひっくり返った。


「そう、幽体や」


出来の悪い生徒に言い聞かせるように、チャトは言葉を選んで話し始めた。

それによると、どうやら幽体だけタイムマシンに乗って、この時代にやって来たのだとか。

肉体の方は、未来のカプセル内で人工冬眠しているそうだ。

その方が機動的に動けるし、何よりも安全なのだと言っている。


『幽体がマシンの外に出ることはあらへんねん。せやから万が一なにかあった時は、緊急装置が作動して、僕を22世紀に強制送還してくれるんや』


それが時空管理局の提示した絶対条件らしい。


『それに、子供の身でタイムリープすると、いろいろと不都合が多いねん』

「子供って、いくつ?」

『12歳』

「え——っ!! 俺より10個も下かよ」

『あっはっは、ちゃうちゃう! 148歳違いや」


あまりの衝撃に、思わず目を瞠る。開いた口が塞がらないとはこのことか。

友也は暗算を諦め、チャトをまじまじと見据えた。


この子は関西弁をしゃべり、自分の子孫——しかも5代もあとの子孫だと言っている。

だが目の前にいるのは、どう見ても茶トラの子猫でしかない。


「ねえ、もし仮に、君が本当に俺の子孫だとして——君の、本当の姿って見ること出来る? 写真とか、なんでもいいんだけどさ。どうも猫のまんまだとピンとこないし、それで笑われても気味が悪い」

『それもそうやな』


宙に浮かんだ円盤の下に、淡い光が浮かぶ。

続いて少年のホロスコープが現れた。


『優翔やで!』


にっこり笑う優翔は、色白で目がくりっとした、利発そうな顔立ちである。

両頬のえくぼが印象的だ。

確かに、自分の子供の頃に似てるな、と思った。


『改めて、よろしくな、お祖父ちゃん!』

「お、おじい——っ」


目まいがした。後の言葉が続かない。


『どないしたん?』

「やめろっ、お祖父ちゃんはやめてくれっ! 友也でいい!」

『あはは、そうやんな! 見た目がちゃうし、僕も呼びづらい』


言った本人は屈託なく笑っているが、友也にしてみればそれどころではない。

いきなりじじい呼ばわりされたのである。

息を荒げて、食い入るように抗議の目を向けた。


そんな友也を尻目に、友翔は話の先を続ける。

その内容は驚くべきものだった。


21世紀の後期頃から学校というものが無くなったそうだ。

全ての教育がリモートで行われ、基礎教育が終わると専門課程に移行する。

進路も自由に選択でき、教科ごとにステップが設けられる。

学習ペースも自分で決められるので、優秀なものは年齢に関係なくステップアップしていけるシステムらしい。

だから優翔のように、実力次第では若干12歳でも博士号が取得出来るのだという。


改めて、目の前の優翔を見直した。確かに利発そうだ。


「理学博士、なのか?」

『そうやで』


自賛するでもなく、平然と言ってのける優翔が凄いと思った。


「このマシンも優翔が作ったのか?」

『まさか! 宇宙飛行士やからって、ロケットを作る訳やないやろ』

「あ、そうか」

『僕は研究をしとるだけ。もっともタイムリープ自体は、結構前から実現化されてるで』

「そうなの? はあ、凄え……たったの150年で、こうも時代は変わるのか」


呆けたようにつぶやいた言葉が、まさしく時代に取り残された老人のようだと思えてしまった。

ちょっとショックだった。


『自分の時代の150年前を考えてみぃ? ちっとも不思議やない』


なるほど——150年前といえば明治の初期、科学技術的には新橋・横浜間に鉄道が開通したばかりである。

しかも蒸気機関車だ。

それが今では宇宙に進出しているのだ。

言われてみれば、ちっとも不思議なことではない——少し、安心した。


『じゃあぼちぼち本題に入ろか?』

「本題?」


優翔は小さく頷くと、真顔に戻り、その先を続けた。

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