宮殿の宴
我が国が隣国、エルディア王国に勝利したという知らせは、遠征に出た将軍がこの宮殿に帰ってくるよりもずっと早く、あっという間に国じゅうに広まりました。
それでもその知らせを隣人よりも早く知ることができたのは、私がこの宮殿で給仕を担当する女官だからでしょうか。
おかげでお友達の驚く顔を見ることができました。役得です。
しかし、そういったイベントが起きると、私たちは平時に増して、格段に忙しくなります。
大小様々なお祝い事、それに社交も活発になります。
隣国に勝利したということは、そこを治める貴族たちがこの国から選出される可能性が高いものですから、上級官吏たちがそわそわするのもわかります。
私めのような末端の給仕に関しては、良いことがあるかはわかりませんが、少々お給金に色をつけていただけないものかと、期待している次第でございます。
国にとっては特大の嬉しいニュースですから、もちろん将軍の帰還を待って大々的なパーティーが行われるのでしょうが、本日も戦勝を祝したお祝い事を行う運びとなっております。
非公式の会ですが、むしろ上級官吏のみが集まることで、普通のパーティーで聞けないようなこぼれ話を耳にできるのも、この役職の良いところ。
プロ意識がないなどとは言わないでください。ここで得た情報は、もちろん他言無用としておりますので。そうでなければ私の首は、いくらあっても足りません。
遠征に出ているのとは別の将軍様が、すでに酔っ払って官吏たち相手に管を巻いております。
「聞いたかよ!あの辺境伯……名前はえーっと、ギルベルトって言ったっけか。自分の領地が攻め込まれるのを横目に、戦いもせず逃げ出したらしいぜ!」
あらあら。あちらにはそんな情けないお貴族様がいらっしゃったのですね。
「情けないこと、この上ありませんね」
「だろぅ?それに比べて俺らの……」
あの方は相当な女好きと伺っております。巻き込まれてお手つきされてはたまりませんので、お皿を下げて次のお料理を取りに向かいます。
独身ならあるいは……しかし彼らは既婚者であるどころか、妾も複数人。あまり近寄りたくはありません。
「それでな、ボイドの言うとおりにしてみたらよ。もう全部筒抜けよ。天才だよ、あいつは……副将昇進、待ったなしだな」
「奴がおめえの上に立つ日も近いな」
「うるせえ」
どうやら秘密部隊をたくさん送り込んでいたようです。全て筒抜けだったようですね。
我が軍には天才軍師でもいたようです。
将校たちが褒め称えています。
「ええ、ですから国境から西のこの平原までは私の息子に……」
「ダメだ、それだと我らの取り分が少なくなってしまうではないか」
こちらのテーブルでは、もう治める領地の分割について話し合っているようですね。
上級官吏たちは基本的に貴族です。
その息子たちはいずれどこかの土地を治めるか、もしくは国に仕える将来が待っていますが、やはり一国一城の主というのは魅力的なのでしょう。
欲に忠実なことです。
お父様方は、一族繁栄のために頑張ってください。
「なあ……これで良かったのか?」
おや、ひそひそ話をしているお二人がいますね。
気になります。
「いや、よくない。これは、本当に良くない」
周囲に聞こえないようにこっそり話しているようですが……残念。このメアリー、地獄耳なのです。
しかし一体、このおめでたい日に、何が良くないのでしょう。
「大体、みんな勘違いしているんだ」
何を勘違いしているのでしょうか。
「だよな……いつまで持つと思う?」
「もう、正直いつ崩壊してもおかしくないと思う」
「今日にでも、夜逃げするか?」
「逃げるったって、どこに……」
借金か何かでしょうか。借りたものは返さないといけませんよ?
しかし肝心なところが聞こえてきません。
お料理をお持ちしながら、できるだけ足音を落として近寄ります。
「この国のけっか……コホン、どうもありがとう」
残念、気づかれてしまいました。
言いかけていた言葉が気になりますが、これ以上は怪しまれてしまいます。
その後はつつがなくお勤めをこなし、お片付けの後、上司からは戦勝祝いとして、今月のお給金に賞与が付与されることを伝えられました。
嬉しいことです。
二人組の内緒話が少し心に引っかかっておりましたが、追加収入への喜びで、このことはすっかり忘れておりました。
エルディア王国とは真逆に位置する国境を守っていた結界が崩壊し、閉じ込められていた災厄と呼ばれる魔王軍が我が国に攻め入ってきたのは、その2日後のことでした。




