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ある王国の陥落  作者: みやぴー
第二章

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6/10

国王の独白


 人生の意味は何かと問われれば、その返答に(きゅう)するものが大多数であろう。しかし我がエルディア王国の国王たるもの、その使命はただ一つである。

 

 剣。

 それは、守るべきものを守るべく、敵の命を奪い、戦争に勝利し、国家の繁栄の礎となるべき道具。

 こと我が王国に眠る秘蔵の一品に関しては、我が王国のみならず、世界中で、真偽の程も定かではない噂や憶測、伝説が、まことしやかに(ささや)かれている。そしてその本当の在処(ありか)を知るものは、我が王国においても、一握りのみだ。

 

 我々一族の使命とはすなわち、この世にもたらされる最大級の災厄(さいやく)を打ち果たす、その力を持った剣を、正しき者に受け渡し、更には受け継いでいくこと。そのただ一点である。


 愚か者に受け継がれてしまえば、災厄を打ち果たせぬのみならず、その者自身が新たな災厄となってしまう。

 時代を超えて、慎重に、機を見て秘密裏に接触し、人となりを見極める。信頼に足る人物であることを確認した上で受け渡し、その役目が果たされた(あかつき)には再度、この王国で秘密裏に受け継いでいく。

 そういった使命を持つからこそ、この王国は、過去何十代にわたって、苦難の時期を乗り越えて続いてきた。


 だというのに今、眼下にいる、勇者と呼ばれているこの男に、それを奪われようとしているのだ。

 この浅慮(せんりょ)の極みのような男が、正しい者であるはずがない。


 どこかからかその在処を入手し、真正面から対峙(たいじ)してくるのであればまだ良い。我々もその全力を持って迎え撃ち、対話し、必要であれば受け渡すこともやぶさかではない。過去にはそうやって、災厄を打ち果たした者もいたと聞く。

 

 かつて剣が見つからないまま、災厄が膨れ上がった時代があった。その反省として、我々は存在する。

 正しき者に受け渡されるというのであれば、方法など問わぬ。役目を果たした後、回収すれば良いだけのことだ。


 なのになんだ。この男と、その引き連れてきた仲間たちは、我が王室を壊滅させるだと。その根拠がまた、根も歯もない噂話というのだから、笑止千万だ。

 卑劣なことに、攻め入る前に、我が部下のうち、私の信頼に足るものをことごとく毒殺して回ったようなのだ。許せぬ。何が人類の希望だ。

 私の蛮行だと。それがどういう理由からきているのかも知らずに。


 いや。これも私の力不足なのだろう。

 奴を(ののし)ったところで、何も始まらない。

 ただ綿々と受け継がれてきたこの使命を、私だけが果たせぬまま死ぬというだけだ。


 民が私を憎むのは当然だ。

 彼らから麦を取り上げ、息子を兵に取り、口を閉ざせと命じた。

 理由も告げずに、実りの少ない年であっても変わりなく。

 

 やりすぎたのかもしれない。

 どこを間違えたかなんて、今更気にしてももう遅いが、必要なことではあったのだ。

 この卑劣な男はしかし、(ちまた)に流れる流言(りゅうげん)を鵜呑みにして、背景を考えもせず、突撃してきたのだろう。

 何が勇者だ、その勇気は蛮勇か?罵倒したいが、適切な表現が見当たらない。


 もう、万事休すだと、そう報告を受けてしばらく経つ。

 遠くで聞こえていた戦いの音が、徐々に近づいてくる。

 それを聞きながら、露台(ろだい)から、玉座へ戻る。

 

 戦える者はみな、戦いに出ている。

 もう、ここに残るのは、わずかな部下のみだ。

 

 事ここに至って、生きる意味などあるのだろうか?

 秘密は告げまい。

 彼らに渡すものなど何もない。

 命が欲しいというのなら、奪われる前に差し出してやる。


 ああ、もしかして、もしかしたら、この秘密はもう明らかにされてしまっているのだろうか?

 彼らはもしや、誰かの差金なのかもしれない。

 それならもう、この使命から解放されてもいいのではないだろうか?


 公になってしまえば、その災厄は、自らを滅ぼすその剣を必ず奪いにくるだろう。

 この男たちは、ひょっとするとそうなのかもしれない。

 そうだとすれば、この世界はもう終わりだ。

 

 だが、まだわからない。

 無理やり自白させられるくらいなら、自害した方がましだ。

 剣にはもう一つ、秘密がある。それを守るのも、私の役目だ。


 あの部屋は、本物しか入れない。

 そう仕掛けを施したせいで、国庫が傾いた。しかしこの状況であればそれは正解であったわけで……。

 

 ここにきてまだ、こうして人類の希望を考えている自分に少し苦笑する。

 滑稽だな、失敗したのは自分なのに。


 まあ良い。この秘密を知る、もう一人がなんとかしてくれるかもしれない。うっかり口を滑らせて、張っ倒されたこともあったな。

 

 もう、死んでいるかもしれないが、奴の住む地は、災厄とは真逆の方向だ。

 希望はある。


 

 期待しているぞ、私は先に行く。


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