インテリジブルな答え
セレナと少女は試験が行われる大聖堂にやってきていた。
「これで、受験者は全員ですか?」
軍服を着て、大きな杖を手に持った男性は、セレナ達の方を見て、呆れたようにそう言った。
「はい。これで全員です。」
男性のそばに立っている柔道服を着た背丈の高い女性がそう答えた。
「では、試験を開始する!」
男性が大きな声を出し、試験の開始を宣言した。
試験は、街の外れにある森に巣食う竜を討伐するというものだった。
「ルールは全てこの紙に書いてある。ここに置いておくから勝手に持って行け。」
男性は、ぶっきらぼうにそう言って、修道服を着た女性と共に、大聖堂を後にした。
「なんか、感じ悪ー」
セレナがそうポツリと呟くと、それに反応する声があった。
「仕方ないですよ。彼は騎士団の団長様です。最近は魔王軍の活動が活発ですので、忙しいのでしょう。」
気付けば、セレナのすぐ側に、とても小さく、黒く長い髪をおさげに纏め、眼鏡をかけた可愛らしい少女が立っていた。
「また、ちっちゃい子だ。」
セレナがそう呟くとーーー
「はぁ?」
黒髪の少女の顔が急に暗くなり、怒気を孕んだ声でそう言った。
「うぇっ、ごっ、ごめんねぇ……」
少女の静かな怒りを前にしては、そう謝ることしかできなかった。
「いえ、お気になさらず。」
先程とは一変して、にこやかにそう答えた。この少女はもしかしたら二重人格かもしれない。
「では、先ずは自己紹介をしましょう!」
少女は手をパンっと叩いてそう言った。切り替えが早いのは良いことだ。
「私は リン と申します。諸事情により性はございませんのであしからず。」
少女……いや、リンは穏やかな表情でそう言った。
「あたしは、セレナだよ!」
セレナは満面の笑みでそう言って……
(ヤバい!性って何?苗字のこと?考えてなかったよぉ!性がないのは、不審に思われちゃうかなぁ?)
否、性はあるのだが、セレナは両親のことが嫌いだ。故に、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「あっ、えっとぉ、性は………オーロラだよ!私は、セレナ・オーロラ!」
咄嗟に頭に浮かんだ言葉を性ということにした。そのとき、リンの顔が一瞬曇った気がしたが、恐らく気のせいだろう。
「っ……では、そちらの方は?」
すっかり置いてけぼりにされていた少女は、またしても杖を握り、光が文字を形どった。
<私はパロール・ウブリエです。宜しくお願いします。>
「はい。こちらこそ。」
リンは、話さないパロールを不審に思うでも無く、和やかにそう答えた。
「さて、自己紹介が済んだところで、お二人は、まだルールを確認されていないようですね。」
「うんっ!そうだよぉ!」
セレナは、元気一杯に答えた。
「ではまず、このルールが書かれた紙を見て下さいますか?」
そう言われて、セレナとパロールは差し出された紙を見た。そして、
「…………読めない。」
そこには、うにょうにょとした何かが書いてあったが、セレナには読めない。読み書きが苦手であるから読めないのだと思ったが、パロールもコクリと頷いている為、これは、そもそも読めないものなのだろう。周囲に目を向けても、読めないと、困っている人が大勢いたことからも明白だ。
「やはり、お二人でも駄目でしたか。私も読むことができず、困っていたのです。」
悲しそうな顔をしてリンがそう言った。すると、パロールが少し迷ったような顔をして……そして、スッと手を挙げて、文字を書いた。
<私なら、読めるかもしれません。>
……と。
***
この世界には魔法とは別に、生まれ持った加護がある。それは沢山の種類があり、同じものは二つと無いと言われている。また、血縁関係にある者は、加護も似ていたりと、様々な特性があるのだが、まだ深くは解明されていない超常現象である。パロールも、その加護を扱うことができた。
《コトバノチカラ》
それがパロールの持つ加護である。
***
<………読めました。>
「えぇっ!凄いっ!何をしたのぉ?」
セレナは驚いて、パロールに顔をグイッと近づけた。すると、パロールが戸惑ったような顔をしたのでリンに宥められた。解せぬ。
「加護を使ったのですか?」
<はい。あまり深くはお伝えできませんが、私の加護は、そういうものですので。>
「よくわかんないけどぉ、なんかすごいねぇ!」
1人だけ著しく知能指数が低い気がするが、気にしないでおこう。
「それで、いったい何が書いてあったのですか?」
リンがパロールに、そう尋ねた。するとパロールは、苦虫を噛み潰したような顔をして、説明してくれた。
***
紙にはルールだけで無く、合格条件や、注意事項が書かれているらしい。
1:外部に頼ってはならない。
外部……つまり、この試験に参加していない者を頼ることはできない。試験なのだから当然である。
2:森を壊してはならない。
これも当然だ。いくら外れにあるとはいえ森を壊してしまっては、街にも被害が出る可能性があって危険だ。
3:竜を召喚してはならない。
これも当然。そんなことができる者がいるのかは疑問であるが、それでは不正が容易になってしまうし、敵を増やして街に被害がでたらどうするというのだ。
4:ルールを破ってはならない。
念押しされた。破る奴いないでしょ。
合格条件
・竜を討ち取ること。
・ルールを破っていないこと。
注意事項
竜は全部で5匹である。
ルールを破った者には厳しい罰則が与えられる。
***
セレナはその内容を聞いて、恐ろしい事に気が付いてしまった。リンも苦い表情をしている。パロールの表情もきっと、この事に気が付いてしまったからだろう。
「ヤバい事になりそぉ……」
セレナは憂鬱げにそう呟くのだった。




