真紅い薔薇
少女の名はセレナという。
セレナは、エメラルドのような緑色の美しい瞳を持ち、膝程までに伸びた金色の髪の毛を2つに結ってた可愛らしい少女である。しかし、その少女は、人にしては余りに美し過ぎた。なにより、耳が恐ろしい程に長く、先が尖っているのである。人間ではないことは誰の目にも明白であった。
そんなセレナには、血の繋がった家族が居ない。いや、居たのだがセレナは認めていないだって、そいつらは、セレナをゴミを見るような目で見るのだ。"心"があるセレナを、除け者にするのだ。だから、嫌いだ。だから、認めない。しかし、そんなセレナには、親切にしてくれる義姉がいた。
***
「おねぇさん!亅
耳の尖った小さな少女___セレナは、小さな人間の集落に住んでいた。
「なぁに?」
おねぇさんと呼ばれた女性は、おっとりとそう返す。
「あのねぇ、今日、お友達ができたの!」
セレナは喜びに満ちた顔でそう言った。
「まあ、良かったわね!」
「あのね、あのね。その子と、明日森で遊ぶ約束をしたの。だから、そのぉう……」
セレナはモジモジと、躊躇いがちに、でも、喜びを隠し切れない様子で言った。
「明日、遊んで来ても良いですかぁ?」
「もちろんよ!」
女性は、間髪入れずに答えた。セレナは人間ではなかったがために、友達が1人もいなかった。そんなセレナに友達ができたのだ。女性はその事が余程嬉しかったらしい。
セレナは幼いながらに複雑な気持ちであった。
***
「お菓子も持った。飲み物も持った。お気に入りの服を着た。髪も結んだ。……よしっ!」
「随分と張り切っているのねぇ」
「えへへぇ……うん」
セレナははにかみながら答えた。
女性も嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。しかし、女性の顔が急に険しくなった。
「セレナ、良い?よく聞いて。」
「うん?なぁにぃ?」
「最近、"真紅の薔薇"の活動が活発になってきているの。」
「そ、そうなの?」
セレナは驚いたような、怖がっているような、曖昧な様子で言った。
「そうなの!!だからお願い。何か少しでもいつもと違う事があったら、すぐに逃げなさい。私は、貴方にまで居なくなってほしく無い。」
「うん……はぁい。すっごく気を付けますっ!」
「ありがとう。さっ!時間がもう無いわっ!早く行かないと遅れちゃう!」
女性は穏やかな表情に戻りそう言った。
「きっ、切り替えはやぁ。 うん!行ってきます!!ばいばい!」
そう言って、セレナは駆け足で家を出て行った。
***
("真紅の薔薇"って、最近多い殺人事件のことだよねぇ)
セレナは森に行く途中、お姉さんに言われた事を思い返していた。
(なんでも、魔王軍が関わっているって噂があって、集落の人もみんな怯えてたなぁ)
"真紅の薔薇"は、都市部から外れた小さな集落にまで噂が広がる程有名な話であった。
(死体のすぐ側に、血に染まった白い薔薇があるのが特徴……だったっけ?きょーみ無いし、あんまり覚えてないなぁ)
セレナはぼっちであったがために、この手の噂に疎かった。
「まぁいーや。どーせなんも無いでしょ。」
そう結論付けて森へと足を進めた。
***
「今日、楽しかったな。」
セレナは軽い足取りで家に帰っていた。
「そーいえばおねぇさんがめっちゃ心配してたけど……もう家だし、やっぱり何にもなかったなぁ。心配しすぎだよねぇ。」
セレナは玄関の扉を開けた。
「ただいまぁ!」
「……………」
おかしい。
いつもならすぐに返事が来るのに。
「あっ、あのねえっ、今日、凄かったんだよ、?」
「…………」
沈黙。
「ねぇって!聞いてる?」
「…………」
嫌な予感がする。
「もしかして、どっかに出かけてるのかなぁ?」
まるで、自分に言い聞かせるように言った。
「…………」
返事は無い。
重い沈黙がその場を支配する。
何故だろう。リビングの扉が少し開いている。
何故だろう。鉄の匂いがする。
何故だろう。
何故だろう。何故だろう。何故だろう。
私には分からない。
分かりたくなんてない。
頭に浮かんだ最悪な想像を必死に振り払う。
勇気を持って扉をそっと押す。
頭に浮かんだの最悪な想像を否定して欲しかった。
でも
現実は
あまりに無情だった。
視界に真紅のナニカが写る。
「あっ…」
言葉にならない声が静かな部屋に響く。
「なんで…… ?」
そこには真紅い薔薇が咲いていた。
***
私は1人になった。
お姉さんが死んでしまってから、すぐに王都から騎士団が派遣された。
その時のことはあまり覚えていない。ただ、どうでも良かった。あれだけ大切だったのに死んでしまったらどうでも良くなった。だってもう居ないんだから。
「前とは、もう違う」
だって、"心" があったはずなのに、無い。否、壊れてしまった。そう感じるたびに改めて自覚する。
(私は人間ではない。)
だから。魔王軍を憎まない。憎めない。もし私が人間ならば、復讐に身を委ねただろう。でも、私はどこまでいっても人外だった。
憎い。悲しい。寂しい。
そんな感情も上っ面をなぞっているだけだったのかもしれない。そう思うことすらも心底どうでも良い。全部他人事の様に感じる。
ーー人間と、仲良くするのよ。ーー
ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。あぁ、そうだね。なら、精一杯人間になりきらないと。憎いふりを。悲しいふりを。寂しいふりを。この場に居ない奴が言っていたことなんてどうでも良いけど、どーせ暇だし、そうするのも面白いかもしれない。
少女は人間ではなかった。
感情が希薄なエルフであった。
「人間と仲良くする、感情的なエルフ。いいじゃん。面白そう。やるからには徹底的にやってやろうじゃん!」
それもこれも彼女にとってはただの暇つぶしである。
***
対魔王軍人材育成学院。
その名の通り、魔王軍に対抗する人材を育てるための場所である。そのため、魔王軍に恨みを持つ者がこぞって入学したがるらしい。
「わたしも魔王軍に恨みを持っているなら入った方が自然かなぁ?」
ギルドの壁に貼られた貼り紙を見ながらそんなことを呟いた。
「入学条件は……っと」
セレナは驚きに目を見開いた。
_____魔王軍に恨みを持つ者_____
____種族、年齢は一切問わない。____
「ふーん?」
セレナの口元がニンマリと上に上がっていく。
「私にピッタリじゃん!」




