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こちら異世界探偵なんでも屋 ~結婚相談所、退職パーティー、夜逃げ屋、全てまるっと引き受けます!~  作者: めい茶


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幼馴染みには遠すぎる

 「この依頼、受けるは受けるが、具体的に動くのは明日からだ。それまでにお前もいろいろと考えてみろ」


 ロイドさんからそう言われて、私もいろいろ考えてみた。


 幸い、あれから新しい依頼は来なかった。

 春の爽やかな風を感じながら。

 いそいそと、なんでも屋の閉店作業をしながら。

 今日のご飯、オムレッツを食べながら。


 私は身分差と、十歳差の恋について、真剣に考えてみた。


 まず、身分差については問題ない。

 カイルさんは平民で、領主の娘さんは貴族。たしか伯爵家、だったような気がするけど。

 でも幼馴染みなんだから、そのくらいの身分差は乗り越えられる。


 いや! レッツ、乗り越えていこっ!


 となれば、問題になるのはやっぱり年齢差だ。

 二十六歳と十六歳は、まあ……ぎりぎり問題ない、ような気がしていたけど。


 十年前。

 カイルさん十六歳。

 領主の娘さん六歳。


「犯罪の臭いしかしませんね……」


 口に出してみたら、ちょっとだけ昨日の自分が恥ずかしくなった。


 ただ、断定するには早い。

 こういう時は、自分だったらどうかって考えてみるのが一番だ。



 カランカラン。


「おはよう」


「おはようございます」


 朝方、ロイドさんがなんでも屋に出勤してくる。

 気難しい変わった人だけど、挨拶だけは絶対に欠かさないんだよな。


「目のクマ、すごいことになってるぞ」


「がぉ!」


 そしてこの人は、朝私を見た瞬間、何かあればそこを容赦なく指摘してくる。

 ここで働き始めた頃は、それが嫌で仕方なかった。

 でも、よく考えたら、服だの寝癖だの臭いだの、そこまで気づくのは、たぶんちゃんと見てるからだ。


 ロイドさんがいつもの奥の席に腰を下ろす。

 私はいつものブラックコーヒーを持っていった。


「どうだ? いろいろ考えてみたか。お前なりに」


「そうですね。ちょっと待ってください」


 ジィーっとロイドさんを凝視してみる。

 若くなれ、若くなれ……はい、十年前のロイドさんニ十歳くらい。

 そこに現れる、八歳の可愛い私。ロイドさんは頭に手を置いてこう言うのだ。


『可愛いな、リリィ。将来は俺の嫁になれ』


 その告白を聞いて、私は……。


「うわっ、きっつ! 無理です。ごめんなさい」


「お前が頭で何を考えているかはわかった。だが俺は子どもには優しいんでな。今回は見逃してやる」


 それでも私のことが忘れられないロイドさん。

 まぁ、八歳の私は天使だったので、それも仕方ない。

 そこから始まる、ロイドストーカー。最悪だ。


「こ、怖すぎる……」


「だろうな。俺も容赦しない。目的は十年後でも必ず達成する」


 そう、だからカイルは、領主の娘を追いかけて、この町まで来た。


「身分違いも、年齢差も、相手の気持ちも、全部ハンマーでぶち壊しに……」


「その可能性が高いな。ただ、想像だけで決めつけるのはプロじゃねぇ」


 ちょっとカッコいいことを言い、ロイドさんはピシッと机に置いてあった紙を弾く。

 その紙はクルクルと回りながら、私の前でピタッ。


 こ、これは……シークレットロイドメモ! 

 そこに書かれていた、衝撃の内容は……。


 カイル・ベルマン

 服装、仕草に不可解な点なし。

 領主の娘の名前を一回も言わない。かつ具体的な想い出話もなし。

 一方的な自分の思いを語っているように感じる。

 「幼馴染みみたいなもの」これにリリィは何も反応せず。バカなのか、わざとなのか。

 依頼主見送り後も恋愛妄想継続。結論、バカ。


 ガビーン!

 

 私、バカだった!?


「こういうのを使えるメモって言うんだ。な、いろいろなことがわかるだろ?」


「ぐ、ぐるるるぅぅ……」


 野生の動物が、どうして敵を声で威嚇するのかわかった。

 腹に怒りを溜めて、それを爆発させるため。


 グルルルキュゥ……


 溜め込んでいたと思っていた怒りは、何も食べていないお腹だった。


 私はロイドさんに言い返すことができず、逃げるように事務所キッチンに駆け込む。

 たしか、少し前に買ったパンがあるはず。


「あった! ロイドさんも食べますかぁ?」


「俺はいらねぇ。昼は外でランチにするから、食べすぎるなよ」


 年頃の女の子にむかって、食べるすぎるなよって。

 そんなに食い意地張ってるように見えるか私。


「パン一個ですから! パンミューダ、使いますからね!」


 最近開発された、魔石を使って温めるパン焼き。

 今までにない、画期的かつ斬新なそれは、あっという間に世間に……広まらなかった。

 だって、ただでさえ魔石って高いのに、パンを焼くためだけのものにお金なんて出さないよね。


 チーン!


 軽快な音が鳴り、しっとりふわふわパンが目の前に現れた!


「うんまぁ! ロイドさんこれ! しとふわです!」


 パンミューダはロイドさんが、どこからか貰ったのか買ったのか、持ってきたもの。

 使ったら感想を伝えろと言われている。

 なので毎回、美味しいって伝えているけど。


「あのな。毎回パンの感想言ってどうするんだよ」


 美味しく食べていると、ロイドさんが入口に肘をかけて、こっちを見ている。

 パンの感想以外何を言えと?

 首をかしげると、大きなため息。


「はぁ……。魔石の消費量、それに対するパンの焼き具合。鉄、ガラスの熱量、もろもろの耐久性。毎回同じパンじゃなくて、いろいろなパンで試す」


 それを先に言えよ! 「感想言え」でそこまで察せると思うな!


「ロイドさん。言葉、足りなすぎると思うんです。いくら察しのいい私でも限度があります」


「お前のこと、察しがいいと思ったこと一度もない」


 私はパンを口に含みながら、ふっと笑う。

 あまりの美味しさに、笑ってしまったわけではない。


「午後に行くところ、当ててみせましょうか? ランチの場所じゃなくて、依頼のほう」


「絶対無理だからやめとけ。察しが悪いのがバレるぞ」


「ま、ロイドさんが決めてることなんで、私が当てたら……変更しちゃいますよね」


「いいだろう。そういうことなら、行き先を紙に書く」


 さっとメモ帳を取り出し、さらさらと行き先を書くロイドさん。

 パンを食べ終えた私は、上品に口を拭き、ビシッと指をさす。


「領主のやかたぁぁぁ!! 領主と娘に会うぅぅ!!」


「うるせぇ!! 普通に言え!!」


 思わず叫んでしまった。

 それくらい確信があったのだ。


「あ、べつに当たってたからって謝らなくていいですよ。今後、察しが悪いなんて二度と言わないでいただければ」


 ロイドさんは何も言わず、さっき書いたメモ帳を見せてくる。


 そこに書かれていたのは……。


 行先『火薬・危険物取扱い・バルム火薬店』

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