74 特訓の成果
あれから二週間ほど私たちの特訓は続き、レベルもすごく上がった。
その間に、レイラさんがカフェの件を進めてくれて、新たに二店舗、この皇都にオープンした。
カフェには男爵家からヒルダとマリーが加わって、私には嬉しい変化だ。
今日は私とローゼさん、レイラさんの三人でテーブルを囲み、コーヒーやデザートを楽しんでいる。
アイスを運んでくるヒルダを見て、レイラさんが微笑む。
「綺麗だわ、ヒルダ。私もその素敵なドレスを着てみたいわ」
「ありがとうございます、奥様。でも、思い付きで働きたいなんておっしゃらないでくださいね」
ヒルダの言葉に、ちょっとだけ顔を逸らしたレイラさんは、目的のアイスを美味しそうに味わった。
「今の私なら、店員に混ざっていてもおかしくないわよね?」
私とローゼさんに同意を求めるレイラさんに、ローゼさんが返す。
「ご自分がどれだけ注目されているか、お分かりですか?」
今日もカフェは満席で、レイラさんは一人注目を浴びている。
ご夫人や令嬢たちが、いろんな噂をしてるのが聞こえる。
私も行動的なレイラさんに、一言いった。
「レイラさんが店に出ちゃったら、ここがレイラさんのお店になっちゃいますよ」
「あら、それはいけないわ。ここはいずれエストさんのお店になるんですもの。そのことは私もバルマードも応援してますよ」
レイラさんは天然成分豊富なので、一緒にいるのは楽しい。
私たちは午後のコーヒータイムを楽しんで、公爵家へと戻った。
夕食の後、バルマード様の執務室に集まった私たちは、バルマード様を驚かせた。
「もう、そんなに強くなってるの?」
レオさんがバルマード様の愛剣オメガを手にして、うっとりしたように答える。
「この剣のおかげで、私はレベル55という高みに至ることができました」
ミハイルさんも、ウィル君もそれぞれの武具を愛おしそうに眺めて続けた。
「私もレベル53という、信じられない結果に驚いています」
「僕もみんなと一緒に、レベル57まで上げることができました」
バルマード様は一体どうやったのって感じで、次は私を見てくる。
「ははは、エストちゃんもすごいことになってるよね?」
「自分でも驚きですが、レベル60まで上がっています」
私の言葉にバルマード様が目を細める。
「そこまで上げるにはかなり苦労するものだけど、よく頑張ったね」
そんなバルマード様に、少し恥じらうようにヒルダが続けた。
「私もその、レベル73に上がっています」
そこにレイラさんがちょっとだけ拗ねたように呟く。
「それはヒルダは頑張っていましたよ。でも、私も頑張ったつもりなのに、全然上がらないなんて」
そんなレイラさんを、ローゼさんがなだめる。
「これで、お母様の望みも叶ったのではないでしょうか?」
「そうですね。これだけ強くなれば、多少の問題は何とかなるでしょう」
この特訓の最中に私たちは【鑑定】のスキルも手に入れた。
でも、私の中に宿る【時の権能】はどうすれば成長するのか不明のまま。
ただ、神聖魔法の威力が大幅に上がったことで、想像以上にレベルアップしたんだ。
バルマード様がおもむろに席を立つと、レオさんたちを穏やかに見つめた。
「レオ君は久しぶりになるけど、ウィルもミハイル君も一度、私と剣を交えてみるかい?」
その言葉に三人は歓喜するけど、これがかなりの試練だった。
私たちは、公爵邸にある特別な訓練場に向かった。
青白い光を放つその部屋は、以前レオさんとバルマード様が訓練していた時に一度訪れたことがあり、どこか冷たく神秘的な雰囲気に満ちていた。
壁一面が青い金属に覆われているのを見て、ミハイルさんが目を丸くして呟いた。
「部屋一面がアダマンタイトに覆われているとは⋯⋯」
バルマード様は、部屋に置かれた訓練用の青い剣を手に握り、軽やかに構えた。
「さあ、みんなまとめてかかってきなさい」
レオさんは「さすがにオメガをバルマード様に向かっては使えません」と返すけど、バルマード様は穏やかな笑みを浮かべ、「私は君たちの成長が見たいんだよ」と答え、剣を軽く構えた。
最初に動いたのはミハイルさん。
鋭い斬撃を繰り出し、盾で守りを固めながら隙のない攻撃を仕掛ける。
すると、バルマード様は剣を軽く振るだけでその斬撃をいなし、明らかに手加減した一撃でミハイルさんを後退させた。
「なんという速さ!」
ミハイルさんが目を輝かせ、感嘆の声を上げた。
次にウィル君が飛び出し、剣に炎の魔力をまとわせ、灼熱の斬撃を放つ。
バルマード様は一歩も動かず、剣を軽く振り抜いてその炎を切り裂き、魔法の力を霧散させた。
「さすが、お父様!」
ウィル君がその鮮やかな動きに目を奪われ、感心したように叫んだ。
すかさず、レオさんがオメガを振り上げる。
剣から放たれたまばゆい剣閃が、空間を切り裂いてバルマード様に襲いかかる。
でも、バルマード様は動じることなく、剣を一閃。
オメガの剣閃を鮮やかに両断し、余裕の笑みを浮かべた。
「やはり、まだ足りませんね!」
それから三人がどれだけ一斉に攻め立てても、バルマード様を一歩も動かすことはできなかった。
息を切らし、床に腰を下ろした三人。
尊敬の眼差しでバルマード様を見上げると、バルマード様は剣をそっと置き、静かに歩み寄った。
「君たちは確かに強い。だけど、その強さに感覚が追いついていないみたいだね。いくらでも付き合うから、遠慮しないで言ってほしい」
その言葉は温かさに満ち、バルマード様が手を差し伸べると、三人がその手に自分の手を重ねた。
互いの信頼が交錯するその瞬間は、静かで心温まるものだった。