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メロディ・オルグレンの葬儀はすぐに行われることになった。
参列者が多いため、ペネロペは身代わりだと万が一にでも気付かれたらいけないと参列はできなかったが、葬儀前に死に化粧を施されて花に囲まれたメロディと対面を許された。
綺麗な白いドレスを着て、化粧を施され、髪も綺麗に編み込まれたメロディはとても綺麗でやっぱり天使のようだった。この人の身代わりを自分がやっていたなんて信じられない。
そして死も信じられない。だって、目を瞑って眠っているかのようにしか見えないのだから。
しばらく、ぼんやりと彼女を眺め続けた。
これから冷たい土の下に彼女が眠るなんて想像もできない。
信じられなくてメロディの手をそっと握った。池に張った氷の表面を撫でた時のような冷たさがペネロペの手を襲う。
何度かメロディの手を撫でた。でも、彼女の手が温かくなることはなかった。
冷たさだけがメロディの死は現実だと伝えてくる。でも、まだ信じられなかった。だって、彼女は今にもパッと目を開けて微笑んでくれそうじゃないか。
扉が開いて、目の周りを赤くした公爵が入ってくる。
夜会とは違って今日は当たり前だが喪服姿だ。珍しいため、しげしげとその姿を眺めてしまう。
よくよく考えてみれば、彼は家族を全員失ってしまった状態だ。
実の母も早くに亡くし、継母も亡くし、実の父親も亡くして爵位を若くして継承したのだから。それはシスコンにもなるだろう。そして大切にしていたメロディもいなくなってしまった。
ペネロペは初めて目の前の公爵が食事中にマナーをいちいち指摘してくる小姑公爵ではなく、孤独になってしまった公爵なのだと認識した。
第二王子といる時間の方が最近は長くて考えていなかったが、公爵だって大変だっただろう。若くして爵位を継承したが、義理の妹は病弱。そして第二王子が王位を狙うことになり、妹では婚約者の役目を満足にこなせない。しかし、妹は第二王子が好きだった。
さらには妹のことだけでなく、家臣や領民のことまで考えないといけない。
妹のことと公爵家のことを何度も天秤にかけただろう。第二王子の後ろ盾になっておけば、彼が国王になった場合に公爵家は安泰で恩恵を受けられる。第一王子が国王になったら悲惨だっただろうが。そして、苦肉の策がペネロペをメロディの身代わりにすること。
公爵は苦心をおくびにも出していなかった、少なくともペネロペの前では。高位貴族も王族もペネロペとは全く違う大局を見て国のことを考えている。もっとペネロペの様にお金が目的であるような私利私欲で動いてくれていたら、周囲をもっと恨むことができたのに。
公爵は小言を言う訳でもなく、メロディに近付いた。
そういえば、あの夜会での事件以来小言は減った気がする。メロディのことで手一杯なのかと思っていたが、彼なりに罪悪感を抱いていたのだろうか。
「メロディは……寝込んでばかりで普通の生活ができなかったが……少しでも幸せだっただろうか」
「それはもちろんです。こんなに悲しんでくれるお兄様がいるのですから」
私の言葉が意外だったのか、公爵は弾かれたようにメロディから視線を上げた。
「……公爵家の力でも病気を治せず、第二王子の婚約者の座しか守ることができなかったのに? しかも、身代わりまで立てて利用されることを許してまで……」
メロディは後妻の子供だからか、公爵とはほとんど似ていない。髪色が違うとここまで印象が変わるのか。
「第二王子のやったことも、身代わりをさせたことも人道的かと言われたらそうではないと思いますけど……でも、メロディはあの王子の婚約者でいたかったんです。生きている間に他の令嬢が一瞬でも王子と婚約して欲しくなかった。公爵様はその願いは叶えたじゃないですか」
「そのせいで、お前は遭わなくていい目に二度も遭った」
「多分、もう大抵のことでは驚かないと思います。でも、メロディは幸せでしたよ? 彼女は第二王子の婚約者としてずっと生きていましたし。私、メロディのために男性パートだってバルコニーで踊りましたし、それに、私たちがメロディが亡くなってこんなに悲しいのは愛していたからです。公爵様が泣くのもメロディを愛していたからです。こんなに愛されていた人が不幸だったわけがありません」
言い切った後で、これまで出てこなかった涙がボロッとペネロペの両目から落ちた。
ペネロペがこれまで泣かなかったのは、遺体を前にしてもメロディの死がまだ夢みたいだったからだ。
でも、公爵と悲しみを共有してしまってメロディが亡くなったと認めてしまった。認めてしまったら、もう止まらなかった。
「メロディは可哀想な病弱な公爵令嬢じゃ、なかったはずです。ちゃんと愛されていた人だから、メロディに懺悔するのはやめてください」
メロディといて一時は自分が大嫌いだった。醜い嫉妬をして比較しておかしな優越感を抱いていたから。
でも、バルコニーで無様なダンスをした自分、そして夜会でメロディの名誉を守るために行動した自分のことは、ペネロペは好きだ。胸を張って言える、好きだ。
今、情けなくボロボロ泣いている自分のことも好きだ。
公爵はペネロペとは違って、片目からつうっと涙を落とすように綺麗に泣いている。
公爵は近付いてきて、なぜかペネロペを抱きしめた。
「……ありがとう」
抵抗しようかとも思ったが、温かい腕とその言葉で報われた気がした。メロディもペネロペも。
ペネロペはもう我慢せずに公爵の胸で泣いた。公爵の喪服のことは今は考えなかった。だって、この世界で間違いなく同じ悲しみを公爵と共有できていたから。
家令が呼びに来るまで私たちはそうしていた。同じ悲しみと痛みを感じていた。
第二王子も葬儀には参列した。
そしてその二週間後に、第一王子は塔に幽閉されることが決まった。




