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第六十九話、『絶望の襲来』

『終焉の足音』編 【1/8】


 イプシロンが討伐されたことで、駆動要塞は再び永き眠りについた。

 そして、3000体のゴーレムの内、稼働していた1000体近くのゴーレムは掃討された。


「ルノア様……なのですよね?」


 立ち尽くし涙を流すルノアに、ラーファは不安そうに問う。


「何言ってるんだ、僕は僕だよ」

「そう、ですわよね。失礼致しました。ルノア様が別人のようにお強くなられていたので」

「聖域に接続したんだ。無尽蔵の魔力と、莫大な魔法知識を得られた。……でも、無力な僕の本質は何も変わっていない」


 ルノアは自らの無力を呪うように弱々しく微笑んだ。

 神滅刀ヘイムダルは、光の粒子となって形を失わせ、ルノアの右手の甲へと『英雄の紋章』が刻まれる。


「そうだ。アップのことだけど」

「勇敢な最期でしたわ。わたくしなんかのために命を落として、本当に馬鹿だとは思いますが」

「生きてるぞ」

「…………え?」


 そう告げられ、ラーファはそんなことはないと思った。

 身体を貫かれ、目から光が失われるところを見ていたからだ。


「あと数秒遅れていれば治癒はできなかった」

「治癒って、あのときルノア様はなにも……」

「無詠唱魔術だよ。無陣魔法とも言えるけどな」


 魔法陣も詠唱も介することなく魔法を発動させる、アリストリア時代に提唱された魔法形態の究極。

 それを体現したものは初代アルカディア王と、魔神のみ。

 ユクシアはその領域に足を踏み入れかけたが、完全に習得できてはいなかった。


「傍にいてやってくれ。もう少しで目覚めるだろうから」

「はい! ありがとうございます!」


 ラーファは深深と頭を下げ、アップの元へと走っていった。


「目覚めた時、好きな女が傍にいてくれた方がいいに決まってるもんな」


 ルノアは一人、ルナを想って寂しげに呟いた。

 いつからだろうか。隣に誰もいない朝を迎えるのが苦痛になったのは。


「さて。ここからが正念場か。ルナを返して貰うぞ、ゼクス」


 そして新たな戦いが始まる。

 覚悟を胸に、ルノアは歩き出す。


「――――ッ!」


 その直後、激しい悪寒が背筋を這った。

 ルノアの全身が、あるいは本能が、今すぐに逃げろと警笛を鳴らしていた。


「なんで……ここに。――奴らが、来た」



〜〜~



 駆動要塞、外部。

 完全復活したユクシアと『病災』のサリエラによって、ゴーレム掃討戦で負傷した海族たちの治癒が施されていた。

 幸いにも死者は0人。ゾルマの指揮と戦士団の連携により誰一人欠けることはなかった。


 しかし、手足をレーザーで切断された者は少なくない。

 命魔法を唯一不得意とするユクシアには、切り落とされた手足を生やすことはできなかった。


 それでも団員が命を落とさず治癒魔法を受けているのを見て、ゾルマはほっと一息ついた。


「すまないな。お前らだって疲れてるだろうに」

「気にするでない。部下を癒すのも妾の役目じゃ」

「悪いが俺にも信頼してついてきてくれる仲間がいる。団長としてお前の部下にはつけない」

「なんじゃと青二才が調子にのりおって……ッ!」


 ユクシアとゾルマと間で独特な空気感の会話が交わされる。

 部下と認めた相手に否定されたことが屈辱だったようだが、ユクシアはつまらなそうにするだけだった。


「駆動要塞がバロア王国前で止まったということは、ルノアは目的を達せたということなのか?」

「知らん! じゃが、聖域には接続できたのじゃろうな。膨大な魔力が渦を巻いておる。あやつ――アルカディア王に似ておる」


 ユクシアは『魔力眼』で駆動要塞を凝視する。

 少なからず、ルノアの身に尋常ではない変化が訪れたのは明らかだった。


「そうか。ならば説教しにいってやろう。あいつは見ず知らずの大多数のために、俺たちを危険に晒したんだ」

「一応、警戒はしておけ。先程までの我が主様はもうおらんやもしれんしの」

「……どういうことだ?」

「聖域はそんな便利な道具ではないということじゃ。古来より何かを得るには、何か代償を支払わねばならんと決まっておる」


 ユクシアが冗談めかすように意味深長なことを言った。

 聖域とは何なのか、聖域の中には何があったのか。

 好奇心の塊であるユクシアですら、知ることを恐ろしいと感じる領域だ。


「警戒などしない。俺とルノアは共に死線をくぐった友だからな」


 ゾルマはそう得意げに話すが、ユクシアは反対方向の何もない茂を睨んでいた。

 否――その奥のゆっくりと接近してくる何かの気配を、ユクシアは直前に感じ取った。



『戦勝ムードのところ悪いが。お前らはここで終わりだ』



 熾烈な戦いが終わり、神殿騎士団は身体を休ませていた。

 そんな戦い疲れた彼らに絶望を突きつけるように、その男は大胆不敵に姿を現した。


「ボスがちんたらしてるせいで、もう事が終わってんじゃねえかよ。ダリィな。何考えてんだか、うちのボスは」


 燃え盛るような烈火の赤髪を靡かせ、その男は気だるそうに頭をかいた。


「誰だ貴様は。今の発言はどういうつもりで言った?」

「魚人……まあ、いいか。――東和の坊主はどこだ?」

「ルノアを知っているのか……。質問に答えろ! 貴様は何者だ!」


 並々ならぬ気配を感じ、ゾルマは警戒心を強める。

 周囲の仲間も異変に気づき、立ち上がって武器を構えた。


 数々の敵意の視線に晒されて尚、その男は髪をかきあげて不敵に微笑む。


「俺は四聖神が一人、南方統括軍大将『朱雀』ヴァニアル=オルフェウス。――正義の味方様の登場だ」


 その名乗りに、ゾルマは警戒を明確な敵対へと切り替える。

 世界連合が介入してくる可能性はルノアが教えていたが、そのような動きは今まで一切なかった。


「ボスの命令だ。大人しく投降したら命は取らねえよ」


 ヴァニアルの背後から、ぞろぞろと甲冑の兵士たちが足並みを揃えて進軍してくる。

 南方統括軍の数は神殿騎士団の比ではなく、こちら側は戦闘後の疲労も蓄積している。


「ユクシア。今すぐに転移陣を作れるか」

「無理じゃ。せめて1分でも、あれば即席の転移陣くらいはつくれるが、それでも範囲は狭いし全員など到底運べん」

「……なら、敗走の準備だ。ルノアだけでも天空神殿へと転移させろ。あいつさえ捕えられなければ、こちら側の勝利だ」


 戦力差を見て、ゾルマは勝ち目のないことを悟る。

 南方統括軍のみならユクシアと七災魔皇で撤退させられるかもしれないが、ヴァニアルが別格すぎることがゾルマには分かった。


「妾は良いが、うぬらはどうするつもりじゃ?」

「1分くらいは時間を稼いで見せる。天下の世界連合様は、降伏すれば命だけは助けてくれるとルノアが言っていた。俺たちは所詮、ルナとやらと同じ状態になるだけだ。――すぐに英雄が助けに来る」


 ゾルマはヴァニアルと対峙し、海神槍を天に掲げた。


「……悪いな、お前ら。また俺と共に地獄へ着いてきてくれ」

「構いませんよ。その地獄も住みやすいかもしれませんし」

「少しばかり風が強いらしい。ガラスや石片が飛んでくるから危険だ」

「なら俺たちが風よけになります」


 三番隊がゾルマの元へと集まってくる。

 幾人は片腕を失ってなお槍を握り、片足を失ってなお立ち上がった。

 満身創痍であろうと、戦士は決して背を向けない。


「ルノアを任せたぞ、ユクシア」

「うぬのような無鉄砲は嫌いでない。益々、妾の部下にしたくなってきたわ」

「軽口はよせ。――行くぞ!」

『おお!!』


 ユクシアが飛び上がり、ゾルマを筆頭に三番隊が走り出す。

 その気迫に南方統括軍は怯んだが、ヴァニアルは気だるそうため息をついた。


「はあ……分かんねえかな、勝ち目なんてないって。――お前らは下がってろ。俺一人で十分だ」


 ヴァニアルは深く息を吐き、腰を低く抜刀術の構えをとった。

 そして目をカッと見開くと、突撃した三番隊全員が目の前に『死』を感じ取った。


「――――ッ!?」


 すでにここはヴァニアルの間合いだ、と。


「舐められたもんだな。1分稼ぐ? 10秒も持たせねえよ」


 血のような真紅の刀身をもつ魔剣グラムは、その斬撃を物理手に飛ばすことができる。

 魔剣グラムに間合いなど存在しない。存在するとすれば、ヴァニアルの視界すべてだ。


 視界良好な草原で、ヴァニアルの前に出るということは。

 ガラス片や石片の吹き荒れる嵐の中に身を晒すことと変わりない。


 ルノアから事前にそのことは聞いていた。

 対処法があるとすれば、抜刀のタイミングで防御の構えをとること。


「来るぞ!」

「蹴散らせ、グラム――」


 ヴァニアルが抜刀すると同時、三番隊の全員が斬撃を身体に受けた。

 対処法など存在しない。魔剣グラムの斬撃は、不可視にて不可避の一撃である。


 しかし、ゾルマを含む数人は倒れなかった。

 不屈の精神と頑丈な肉体で、それでも進み続けた。


「くっ――また来るぞ!」


 無慈悲に二撃目が飛来する。

 魔剣グラムが斬撃を飛ばせるのは、抜刀時だけでない。

 抜刀した後、すぐさま引き返すように振るったのだ。


 その斬撃を喰らい、三番隊がバタバタと倒れていく。


「ぬおおおお!!」


 だが、不可視の斬撃をゾルマは弾いた。

 ついに海神槍の間合いに入り、全身全霊で振りかざす。


「運が良かったな。あと少しお前が強ければ、殺さざるを得なかった」


 魔剣グラムを振るう予備動作はなかった。

 しかし気がついたときには、ゾルマの大きな身体には十字の傷が刻まれていた。


「…………遠いな、世界というのは。ルノア……お前が相手にしていたのは、こんなにも……強大、だったのだな」

 

 苦しむ仲間たちの声を聞き、ゾルマは意識を失った。

 その瞬間、三番隊はヴァニアルの前に敗北した。


「こいつらの処理はお前らに任せた。俺は東和の坊主を探しに駆動要塞に入る。ったく……殺すななんて、ボスはダリィこと言うよな」


 ヴァニアルは駆動要塞に向かって一人走り出した。

 南方統括軍の誰一人それについていくことはなく、その場に倒れていた者の治療と拘束を行い始めた。


 ルノアは駆動要塞の内部にいながら、計り知れない脅威が接近していることを察知した。

 しかしアークとの戦闘で満身創痍な上、聖域との接続はルノアの身体に多大な負荷をかけていた。


「早く……助けに行かなきゃ」


 この地点で蓄積した疲労にルノアの身体が耐えられなくなった。

 膝をつき、全身が鉛のように重くなる。


「見つけたぞ、我が主様!」

「ユシィ……まずい、パンドラが来たぞ」

「パンドラ? 何を言っておる。来たのは『朱雀』じゃ」

「…………ヴァニアルが?」


 ユクシアは疑問符を浮かべるルノアを置き去りに転移魔法陣を描き始める。

 即席のため、一度に送れる人数は少なく、一方通行のため戻ってくることもできない。


「ユクシア様!? 何故、転移魔法陣を……」

「『朱雀』が来たんじゃ。こやつだけでも天空神殿に送り届ける。うぬらも入れ。時間がないんじゃ」

「そんな……」


 ラーファはまだ意識の戻らないアップに肩を貸しながら、一番隊全員で転移魔法陣の中に入った。


「それにしても何なんじゃあの化け物は! この時代にあのような者がいようとは」

「ユシィでも勝てないのか……」

「何を言っておる! 本調子の妾ならあんな小僧に遅れなど取らんわ! じゃが、今日一日で魔力を使いすぎた。今の妾は負けはせんが勝てもせん」


 ユクシアが勝てないと明言した。

 それだけでヴァニアルの脅威は十二分に伝わる。


 魔力を使い果たせば、魔族は無力だ。


 四聖神最強は誰かと問われれば、全員がヴァニアルの名を挙げるだろう。

 シャリティアはルノアに、他の三人が束になっても勝てるか分からない一番の危険人物だと告げていた。


「待て……じゃあ、三番隊と四番隊は? 七災魔皇って言っても、ユシィと同じで魔力を使い果たせば無力なんじゃ……」


 そんな悪い予感は、分かりやすい形となって目の前に現れた。

 魔剣グラムに血を滴らせ、薄暗い通路をヴァニアルは淡々と歩いてきた。


「チッ……手こずらせやがって。やっと会えたな、ルノア・アルカス」


 戦闘が始まって僅か1分足らず。

 三番隊と四番隊はいとも容易く壊滅させられた。

 まだ転移魔法陣の準備は整っていない。


「なら、次はわたくしたちですわね」

「やめとけ。お前らじゃ役不足だ」

「ルノア様。アップを頼みますわよ」

「やめろ、辞めてくれ! 僕はお前らのことを犠牲にするために救ったわけじゃない!」


 ルノアの嘆き虚しく。一番隊がヴァニアルに襲いかかる。

 しかし魔剣グラムの前に為す術なく、次々と斬り付けられ、バダバタと倒れていった。


「よし! 転移魔法陣の準備ができたぞ!」

「待て! 皆がまだ戦ってる! 僕はもう失いたくないんだ!」


 ラーファが誇らしげに微笑んで倒れる光景を最後に、ルノアとユクシアとアップの三人は転移した。



「あ……ああ……なんで」


 伸ばした手は虚しく空を掴み、ルノアは崩れ落ちた。

 作戦の成功の代償はありにも大きかった。

 聖域への接続と引き換えに、神殿騎士団は崩壊した。


ぶっちゃけめちゃくちゃ行き詰ってますが、ここから最終章的な感じです。

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