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第六十七話、『それぞれの戦い』

『駆動要塞』編 【9/10】


 僕はアークの死体の傍らに落ちていた聖剣を拾い上げる。


『本当につまらない決着だったね』

「いい加減、口を閉じろ下郎。お前は僕が必ず殺す。震えて待ってろ」

『アヒャヒャヒャ! いいね、やってみろ人間!』


 イプシロンの洗脳は確かに脅威だが、さっきのラーファを見る限り、アークのように時間をかける必要があるようだ。

 そして憑依できるのは一人か一つの物体のみ。駆動要塞に憑依している今、その脅威はないに等しい。


 問題は、どうあのニヤケ面を切り裂くかだ。


「――なんだ!?」


 駆動要塞が今までで一番大きく揺れる。

 そして揺れが収まり、何故か急激に気温が下がった。


『クソ! なんだこいつら! もう鬱陶しい!』


 駆動要塞が止まったのか?

 みんなが上手くやってくれたのかもしれない。


『……そうだ。面白い物を見つけたから、君たちに見せてあげるよ』


 通路の両端の壁が、扉のように上にスライドする。


 その中には、無数の人型の石像が佇んでいた。

 それらは一斉に動き出した。

 単純な命令式によって動く、感情のない石の番人。


『三千体のゴーレムだ! 行け! 侵入者どもを殲滅しろ!』

「三千体……ッ!? まずい、ラーファたちと合流しなきゃ!」


 しかし、行く手を大量のゴーレムたちが阻んだ。


 すうっと伸ばしてきた巨大な腕を避け、背中に描かれた魔法陣を破壊すると、石像は瓦解した。

 まさかゴーレムと延々と戦わさせられるユシィとの特訓が、こんなところで生きるとは。


『この程度で俺っちを止められるとでも思ったか! 目障りな蛆虫どもめ! 全員、踏み潰してやる!』


 不穏な揺れが、徐々に大きくなっていく。


「そんな、まだ止まらないのか!」


 駆動要塞が再び歩を進ませ始める。

 まずい……どうすれば止められるんだ。



 そして、駆動要塞での戦いは最終局面を迎える――。



 そうだ。ユシィなら何とかできるかもしれない

 まずは仲間たちと合流しよう。

 ゴーレムなら倒せる。でも――あまりにも数が多い。


「鬱陶しい! さっさと僕に道を開けろ!!」


 一気に突破しようと無闇に突っ込む。

 直後、ゴーレムの目が赤く不気味に光り、何かが頬を掠めた。

 頬が焼け爛れ、背後の壁の一部が溶けている。


 高熱の光線……こんな能力まで。


 薄暗い空間にいくつもの赤い眼が浮かんだ。

 防御不能のレーザービーム。まずい、避けられない――


 身構えたその時、幾つものゴーレムが同時に沈んだ。


「ルノア様! ご無事ですか!?」

「ラーファ……皆!」


 意識を取り戻したラーファを筆頭に、獣族で構成された一番隊が加勢する。


「先程は敵の術中にハマり、大変な失態を……この償いはいずれ必ず!」

「だったら生き残れ! この戦い、僕たちが必ず勝つぞ!」

「はい!」


 ゴーレムが壁の奥から次々と湧いてくる。

 妙に通路が狭いと思ったら、こんなもの内蔵してやがったのか。


「ユクシア様が中心部でお待ちです! おそらく制御システムの近くにはゴーレムが来ないのだと思います!」

「ルノア様はいち早くユクシア様と合流を! 護衛はお任せくださいまし!」

「分かった! 背中は任せたぞ!」


 僕は振り返らず、ユシィのいる中心部へと走った。

 背中を任せ、前方のゴーレムたちを薙ぎ倒していく。


 制御システムのある中心部へと辿り着くと、ゴーレムは追跡してこなかった。

 どうやら、制御システムには近づかないように設計されているらしい。


「ユシィ!」

「生きておったか、流石は我が主様じゃ」

「何とかしてこの駆動要塞を止められないか!? 何か、一発逆転の策は!」


 ユシィは珍しく神妙な面付きで、水晶の前で頭を悩ませた。


「……あるにはある。理論上は可能な策がの」

「――本当か!」


 流石はユシィだと、思考を放棄して頼る。


「駆動要塞には街や集落を避ける機能があるといったじゃろ。なら簡単じゃ。バロア王国を認識させれば、駆動要塞は動かんようにロックがかかる」


 イプシロンは物理法則に逆らわなければ物体を動かせると言っていた。

 つまり、その物体がしてもおかしくない範囲でしか操れないということだ。


 石は転がせても、変形させて歩かせることはできない。

 駆動要塞の脚にロックがかかれば、歩かせることはできないということだ。


「でも、どうやってバロア王国を認識させるんだ!」

「この魔法陣に地形の情報を書き加える」


 ユシィは重なっている大量の魔法陣のうち、一つの魔法陣の上に立った。


「じゃあ頼む! 書き加えるのにどれくらいかかるんだ」

「3日じゃ」

「……え? なんとか、5分……いや10分以内に終わらせられないか?」

「妾にも無理じゃ。魔法式が複雑すぎて、計算に時間がかかりすぎる。だから言ったじゃろ。理論上は可能じゃとな。他の魔法陣を書き直す手もあるが、一番確実で早いのがこの手じゃよ」


 つまり、打つ手がないということだ。

 三日も耐えられるはずがない。


「うぬよ。あの王国は諦めろ。運が良ければ、精々数百程度の死者に終わる話じゃ。今から次元の扉に触れておれ。妾たちの目的はそれで達せられるじゃろ」


 イプシロンは聖域を開けないといっていた。

 僕が次元の扉に触れていれば『神滅刀』は手に入る。

 それで僕達の目標は達成できるのだ。


「ルノア様……」


 重苦しい空気に包まれる。

 まだ外では皆が戦ってくれているのに。


 ――いや、諦めてたまるか。


「……いや、まだ手はある。要は5分以内に、地形情報を書き加えればいいんだろ」

「だから、無理じゃと言っておるだろ」

「いや、あるじゃねえか。そんな無謀を可能にするチートが。――聖域だよ」


 聖域の力なら、それを可能にする演算能力が得られるはず。


「しかしルノア様。それは矛盾しているのではありませんか?」

「いや、多少座標が間違っていたところで、聖域には接続できるんだと思う。それに世界地図という大きい目で見てないから、正確な座標かなんて分からなかっただろ」

「つまりバロア王国の付近であれば、聖域を開くための条件は満たされると」


 アップからの確認に頷く。

 しかし誰もが顔を曇らせたままだ。


「でも、この作戦には問題がある。次元の扉とこの魔法陣が離れていることだ。聖域に触れてから、ここに移動するんじゃ遅すぎる」

「それに関しては問題はない。妾に策がある。じゃが、本当の問題はある程度バロア王国に近づける必要がある。ということじゃろ」

「ああ。出来るなら寸止めレベルに駆動要塞を接近させたい」


 しかし、例え駆動要塞を止められたところで、そのままの惰性に任せて突っ込んでは元も子もない。


「だから、何とかしてバロア王国の直前で数秒間、駆動要塞を足止めして欲しい」


 完全に沈黙させられなかったとはいえ、先程は30秒近く駆動要塞は止まっていたので可能性はある。


「妾に言わせれば、成功率はゼロに近い。そもそも聖域については不明なことばかりじゃ」

「だからこそ、絶対に可能性がないとも言いきれないんだろ」


 ユシィはそれでも否定的のようだ。

 呆れたと言わんばかりにため息をつかれる。


「うぬは無鉄砲なバカじゃの。……じゃが、悪くはない! その作戦に妾も乗ってやろう!」


 その逞しい笑顔にほっと胸を撫で下ろす。


「ではわたくしたちは、ゴーレムからルノア様をお護りすれば良いのですね」

「ああ、頼りにしてるぞ」


 ラーファたちも決意を固める。


 そして最終作戦が始まった。


 ユシィは転移魔法で外部に脱出し、僕たちは再びゴーレム蠢く通路へと飛び込んだ。

 ここに来る前にかなり倒したはずだが、通路はすでにゴーレムでごった返していた。


 僕一人ではこの通路すら突破できなかっただろう。

 それでも背中を預けられる仲間がいると、目の前の敵だけに集中できて戦いやすかった。


 そして次元の扉のある部屋に近づくと、ラーファたちが僕に背を向けた。


「ルノア様は自分の成すべきことに集中なさって下さい! わたくしたちでここを死守致します!」

「……分かった。絶対に死ぬなよ」

「ええ、勿論ですわ。わたくしはこれからもルノア様にお仕えしなくてはいけませんから」


 僕はラーファたちを通路に残し、走り出した。


「わたくしの我儘に付き合わせてしまって、申しあけありませんね」

「何言ってるんですか。ラーファさんがいたから、私たちは立派に戦えたんです。だからその背中を任せられるのは、私でありたい」

「そうですか。損な性格してますわね、アップは」

「私だけじゃないですよ。ここにいる者、全員がラーファさんのことを慕っています」


 どこか照れくさそうな横顔を見て、アップは満足気に前を見据える。

 アップがラーファに恋心を抱いていることは、本人以外は全員が知ってあるため、他のメンバーは微笑ましく眺めていた。


「ここから先は一歩たりとも通しませんわよ!」

『はい!』


 ラーファたち一番隊の戦いが始まった。



〜〜~



 駆動要塞、外部。

 ミュウの氷結魔法により駆動要塞は氷の棺に包まれた。

 雲間から太陽の光が差し込み、氷の粒を含む大気が輝いた。


「やっぱ。いつ見てもヤベェな」

「さっすがミュウちゃんね。おつかれー」

「うっ……暑いから抱きつかないで」


 シャラールに抱きつかれミュウが顔を顰める。


「それに……まだ、終わってない」

「え? だってもう――」


 ミュウの予感は的中し、氷塊にヒビが入る。

 そして、駆動要塞は氷の棺を破壊して動き出した。


「こいつまだ動くのか!」

「もう! どうすれば止まるのよ!」

「弱音を吐いても仕方ないのだよ! もう一度止めるまでだ!」


 徐々に加速する破壊の神獣。

 その巨体からいくつもの岩の塊が産み落とされる。

 それは地上で人型へと移行した。


「なんだこいつら」

「ゴーレム!? ホント意味分かんないんですケド!」


 外へと放たれたゴーレムの命令は、駆動要塞付近にいる生命の排除。

 つまり、このままバロア王国に突撃すれば、約3000体のゴーレムが街へ放たれることになる。


 ゴーレムの目が不気味に光り、レーザーが木々を焼き切った。

 ただそれだけで、その場の全員がゴーレムの脅威を理解した。


「そいつらを街へ近づけるな!」


 ゾルマがそう叫ぶが、恐怖で動けなくなるものがほとんどだ。

 ゴーレムに慈悲などない。腰の抜けた魚人の前に立ち、目を赤く輝かせる。


「逃げろ、お前たち――ッ!」


 次の瞬間、影の塊が落ちてきてゴーレムを一掃した。

 触れたものを崩壊させる陰魔法。ユクシアの得意魔法の一つである。


「ユクシア様!」

「なんじゃ、この体たらくは。妾の部下ともあろう者が揃いも揃って情けない」

「も、申し訳ありません」

「まあよい。主様からの命令じゃ。駆動要塞を王国の直前で足止めさせろ、以上」


 わざわざ直前で止めろという意味不明な命令に、全員が疑問を抱いた。


「妾と七災魔皇で城壁の前を陣取り、直前で駆動要塞を止める。他のものはゴーレムの処理じゃ。――文句のあるものはおるか?」


 珍しく凄味のあるユクシアに、魔族の誰もが疑問を飲み込んだ。

 その様子を地上から眺め、ゾルマは槍を天に掲げて、誇り高く戦う意志を示した。


「なら、俺たちはゴーレムを一掃する! だが、死にたくないものは離れていろ! 咎めはしない!」


 ゾルマは一人で駆け出し、ゴーレムの群れへと突っ込んだ。

 しかし、一人では限界がある。すぐに四方を囲まれ、無慈悲なる赤い目がゾルマを睨みつけた。


「一人でなんて、水臭いじゃないですか!」


 三番隊が加勢し、ゴーレムを次々と沈めていく。

 そして副団長のアルベルトが、ゾルマの前で同様に槍を天に掲げた。


「俺たちは戦士であり、あなたの部下です。団長が戦うというのであれば、地獄でもお供します!」

「よし。ならばついてこい! 戦士の誇りに誓って、一体足りとも残さず駆逐するぞ!」


 ゾルマたち三番隊は駆動要塞を追い始めた。

 その巨体から産み落とされ続けるゴーレムを一掃するために。

 レーザー光線は射出までに時間はあれど、防御不能で与えれば身体など簡単に焼き切れる。



 全員が生き残れる保証などどこにも無い。

 気を抜ければ致命傷の、ゴーレム掃討戦が始まった。



〜〜〜



 それぞれの場所で、それぞれの戦いが繰り広げられている。

 一人になった僕は急に心細くなった。


「いや、一人なんかじゃねえよな」


 場所は違えど、皆が一緒に戦っている。

 今更巻き込んだなんて、そんなことは思わない。

 誰もが自らの意志でここに立っている。


 作戦の要は僕だ。

 僕が成功させなければ、皆の戦いは敗北に終わる。

 皆の思いが、無駄になってしまう。



 だから、僕の戦いを始めよう。



 聖域に接続し、駆動要塞を止める。

 しかし、それはほんの序章にすぎない。

 この作戦が成功した暁には、僕は『神滅刀』を手に入れることになる。


 それは世界で唯一、《終焉を齎す者(ロキ)》を滅ぼす力――終焉に抗う力を得るということだ。

 そして同時にルナを殺す役目を担うことになる。


 これは新たな戦いの狼煙となる。

 


 僕はその日――聖域の扉を開いた。


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