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第二十七話、『本音』

『日常』編 【4/6】

 ユシィに啖呵をきったまではいいが、『神殿会議』が終わって尚、ルナと二人きりで話すことは叶わなかった。


 神殿会議というのは、天空都市のこれからの未来について――政策やルール、予算の使い方など、街づくりについての会議を行う場だ。


 出席するのは僕とルナ。『牙』の団長ラーファと副団長アップ。里の長であったサノン、しっかり者のレイナ。子供の意見を代弁するアイリ、ノノ。あとは天族と獣族でランダムで四人ずつ招集する。

 もちろんユシィがいると纏まらないので呼んでない。


 今、最もホットな話題は『通貨の導入』についてだ。


 天空都市でのみ使える通貨『アルス』を導入するかどうかで、今は真っ二つに意見が割れている。

 これに関してはメリットデメリットの双方が大きいため、対立してしまっている形だ。


 ちなみに僕とルナは発言力が大きいため、なるべく中立で会議の公平さを保つ役割を担っている。


 今は商店は完全な有志でやって貰っている感じだ。

 しかしこれから先、商店街を発展させていく上でお金の制度は必ず必要となってくる。

 そうなってくると、仕事や給料といった概念も発生するし、貧富の差が生まれることもあるかもしれない。


 天族の里では完全役割性だったし、仕事やお金なんてものはなかった。

 その制度についてこれるのか、食い倒れるものも出てくるのではないか。

 もちろん食堂は無料にするつもりだが、厨房で働くものへのお金はどこからでるのか。

 誰もが働けるほどの仕事があるのか。

 税という制度も生まれ、上の者が下の者をこき使う階級社会になってしまうのでは無いか。


 そんな感じでいつも堂々巡りになって膠着する。

 サノンは反対し、ラーファは賛成している。

 この二人のどちらかが折れない限り決着はしないのかもしれない。



~~~



 会議終わり、既にお月様が顔を出す時間帯。

 流石にこうも会議続きだと肩がこる。

 僕は疲れ切った身体を癒そうと大浴場へ向かった。


 天空神殿には、アリストリアの最高峰の魔法技術が詰まっている。


 その一つに魔力の自動生成というものがある。

 魔力は炎や水へと姿を変えるが、そのまた逆も然りだ。


 雲の上の天空神殿には、常に強風が吹き付けている。

 それでもこの空中に浮かぶ大地が流されないのは、吹き付ける風を魔力に変換させているからである。


 それによって生み出された魔力が、天空神殿全体に無数に存在している魔道具に魔力を供給している、


 魔道具というものは魔法陣が描かれた道具のことだが、中にはユシィすらも意味が分からんと匙を投げるほど高度なものもあるらしい。


 広大な敷地を探検している最中、大浴場を発見した。

 アルカディア王族か、この屋敷の使用人が使っていたのだろう。

 驚くことに蛇口を捻ればお湯が出た。


 その付近で見知った男が数人。


「お前ら、こんな時間から風呂か?」

「うぉっ! って、なんだルノアかよ。焦ったわー」


 僕の声に肩を跳ねさせる三人。

 ボンド、スン、そしてレオだ。


「焦ったって……まさか覗きとかじゃねえよな?」

「馬鹿野郎。俺たちはそんな品のねぇ下劣な行為はしねえ!」

「そ、そうっすよ! ルノアさん!」

「僕たちはそんな最低なことはしません!」


 レオの発言に二人が首を縦に振る。


 天族のお兄ちゃん的存在だったレオ。

 男女比が3:7と言われているエルフ種だ。

 初めて僕たちが里に訪れた時に、魔族であるユシィに罵詈雑言をぶつけていたのもこの男だ。

 どうやら、里の人たちの不満を強めにぶつけることで、他の人たちが暴走することを抑えていたらしい。


 天空神殿への移住の際も一悶着あったが、その後はユシィに謝罪するなど関係は良好だ。


 口は悪いが、人一倍に熱い男だ。

 僕が生まれて初めてできた、東和民以外の男友達かもしれない。

 それにレオはあいつに似ている。小さい頃、僕と共に冒険者になることを志した親友――ゼンに。


 まあ、ゼンは僕より先に現実を見てしまったが。


「ボンドとスンはこの男に変な影響受けてないか?」

「そんな! 兄貴は僕達に夢を与えてくれるんです!」

「夢?」

「ルノア。お前も着いてこいよ」

「いや、僕これから風呂なんだけど」

「なんだよ。お前もこの裏技知ってんのかよ。案外、お前もムッツリだな」


 何か知らんが腹立つな。

 茶化してきたレオは、そのまま男風呂に入っていった。

 なんだ。あいつらも普通に風呂に入るだけか。


「お前ら……ここからは無言だぞ」

「分かってるっす! アニキ!」


 脱衣所で服を脱いでいると、服を抜かずに大浴場に入っていくレオたち。

 それにこの時間ではライトが消えているが、何故かそれを付けようともしていない。


 まあ、僕は月を見ながら入るのも好きなので構わないが。


「お前ら何してるんだ?」

「しーっ! 静かにしてろよ」


 三人が同時に人差し指を口元に立てる。

 レオたちは何故か壁際に椅子を置いて座っていた。


 すると向こう側――女風呂のライトが灯った。


『すご! 貸切みたいですね!』

『この時間は男子もいないから気が楽だよ』


 アイリとレイナの声だ。

 二人も会議に参加していたからこんな時間なのか。


 元々一つだった大浴場を二つに区切ったせいで、声がダダ漏れだ。

 まさか。とは思ったが、案の定レオたちはその声に耳を澄ませていた。


「お前な……」

「俺たちは覗きなんて下劣なことはしねえ。男は黙って妄想するんだよ。男子禁制の花園であの子がどこから洗うのか、どんな会話をするのか、どんなムフフなことが起こっているのか……な」

「あほらし」


 なんのドヤ顔だよ。

 僕はもちろん不参加だ。

 女の子の会話を盗み聞きするなんて不埒なことしない。


『ルナちゃんってやっぱりスタイルいいよね』

『そうかな?』 

『そうだよ。小柄だから胸も大きく見えるし』

『マジマジと見ないでよ! 恥ずかしいでしょ』

『恥ずかしがる顔も可愛い~! これがあやつのものになると思うと腹立たしいな』


 気づけば僕の足が止まっていた。

 この声……ルナだ。

 それにアイリと、お調子者のノルンもだ。


 何だこの感覚。

 扉の向こうに裸の女の子がいる高揚感。

 ガールズトークを盗み聞きしているという背徳感。


 レオがこちらを見ながらほくそ笑んでいる。


『ねえねえ! ところで、ルナちゃんはルノア君とどこまでいったの?』

『ど、どこまでって?』

『とぼけないでよー。二人って恋人同士なんでしょ?』

『ち、違うよ。誰がそんなこと!』

『えーウソ~。絶対両思いなのになぁ』


 これは僕が聞いちゃいけない会話な気がする。

 そうは分かってるが、足が動かない。


『じゃあ、ルノアさんのこと、どう思ってるんですか?』

『……どうって?』

『その、異性として好きなのかってことです』

『どうなんだろ。最初にこの世界で目覚めて、私が初めて会ったのがルノアだったから。この気持ちが何なのか分からないんだ』

『手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、えっちなことしたいとか、そういうのはないの?』

『ノ、ノルンさん……!』


 一段と踏み込んだ質問にアイリが慌てる。

 これ以上聞いているのは、人として男として最低だ。

 そうは分かってるんだけど、気になる。


『……そういうのは、ちょっと……ある』

『それが恋なんだよ。可愛いな~ルナは』

『ちょっと揶揄わないでよ!』


 聞いてしまった。

 それも多分かなり恥ずかしいことを。

 僕はルナのことを、どう思ってるんだろう。


「あれ? ルノア様、こんな時間にライトもつけずに何してるんですか?」


 と、見回りに来たアップが怪訝そうに訊く。

 普通に女子風呂まで届く声で。

 うん。最悪のタイミングだ。


「ルノア……? まさか聞いてたの……?」


 焦りを含んだルナの声。

 その直後、水飛沫の音がして誰かが走っていった。


「ルノア君のバーカ!」

「盗み聞きなんて失望しました!」

「ルナを追いかけろ人でなし!」

「勝手に他人の本音聞いといて、自分は黙りなんて最低ですよ!」


 アイリとノルンの厳しい叱責が飛ぶ。


 レオが親指を立ててキメ顔をしている。

 カッコつけてるけど、全部お前のせいだからな。


「えっと……私、なんかまずいことしましたか?」

「いや、良い機会だよ。見回りお疲れ様」


 状況が呑み込めないアップに声をかけてから、僕は着替えてルナを探し始めた。

 やはり一度、ルナと話し合うべきだろう。


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