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幸湖日記  作者: 炎華
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62.壊すという使命


あれからどのくらい経ったのだろう。

私が罪を犯してから、100年か、まだそんなに経ってはいないのだろうか。

あまりにも長い月日、この中にいて、

もう、日時の感覚は無くなってしまった。


私の罰は、ここで、この時間の壁の中で250年を過ごすこと。

壁の外の10年は、この中の100年だ。

一人で、一人きりで過ごす。


壁の外と中での風景の違いはない。

ただ、時間の流れが違うだけ。

そして、外の人には、私の姿は見えない。


なる様は、私にここにある樹を見なさいと仰有った。

ここの樹は、『世界』そのもの。

一本一本が、一つの世界だ。


魂にはある程度自由があって、

自分で選んでその樹の中に入っていく。

ただ、その魂の修行のランクによって、

行ける世界の範囲が決まっている。


樹は、その中で暮らす人間、動物、植物などのあらゆる物質、

そして、それらが起こす事象によって成長する。

枝が伸び、葉が繁り、花が咲き、生長する。

ただ、根は、根だけは生長しない。

枝や葉が繁って、幹が太くなりすぎると、花は咲かなくなる。

それを放っておくと、その樹の存在が危うくなる。


なら、どうやって、根を育てるのか。

今、地上に出ている全て、幹、枝、花、葉を地面に埋める。

それを根とするのだ。

それを『収束』という。


『収束』が起こると、一時、地上には何も無くなる。

だが、ちゃんと若芽が出て、枝が広がり、同じ要素を受け継ぐ樹になる。


その『収束』の間、その樹の内部では何が起こっているか。

その世界を縮小させる事象が起こっているのだ。

世界が全くなくなるわけではない。

世界は続いていくが、ある程度、削られる。

そして、地上に出ている間は、変えられた事象が変えられなくなる。

歴史が固定するのだ。



ともちゃんと幸と私のいた滝桜の世界では、争いが起こった。

私たちは、寸前に『こちら側』に戻ってきていたが、

ただ一人遺った人と庭の子達を迎えに行って、世界の最期を見届けた。

この世界を愛していた者は皆、最期を見届けたかっただろう。

だが、そうはできない者も沢山いた。


『収束』が起こる覚悟をして、その世界に赴いた者も、

やはり、見届けるのはつらい。

迎えに来た者も、

見届けるために降りてきた者も、

死して加わった者も、誰一人背を向けて還ることはしない。

空に留まり、唇を噛みしめ、両手を握りしめ、目には涙を浮かべて

じっと炎に包まれる世界を見つめていた。


わかっている。

こうしないと、この世界が、この樹が無くなってしまうことは。

わかっている。

わかっているけれど。


やるせない気持ちが、胸を締め付ける。


ともちゃんと歩いた桜並木が、幸と見た桜の花が、次々炎にまかれていく。

電気の消えた暗闇の中、

花びらを散らし、炎を散らし、

私のソメイヨシノの花びらが、私の周りに炎と共に舞い上がってきたとき、

ふと『さくらさくら』が口をついて出た。


 さくら、さくら、


私一人だった歌声に、一人また一人と歌声が加わり始め、

気が付くと、そこにいる全員が歌っていた。

泣きながら、叫ぶように、嗚咽を漏らしながら、

『さくらさくら』の大合唱になっていく。



私は、この『収束』を起こす使命を受けた人物に心を馳せた。

今、どんな思いでいるのだろう。

命じられたことは、覚えていない。

降りてきたときに、忘れている。

けれど、確実に、この文明を縮小させる行動を起こす。

そして、全てが終わったとき、苦しみがやってくる。

あらゆる人を裏切り、後ろ指さされ、憎まれ、嫌われ、

敵は取ったと、大衆の歓声を背中で聞きながら、

心はズタズタに千切れ、足を引き摺り、苦痛にうめきながら還るのだ。

昔私が、そうだったように。



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