61.待ってたよ
みなみままと争って虹の橋を登り、階段を見下ろせる場所まで走った。そう、みなみままが苦労して登ってきた小さな丸太と土と砂利で作られたあの階段だ。階段の向こう側は、幸達が生きていた頃に住んでいた町が見えていた。良く晴れた日だった。空がとても青かった。生きているときに住んでいた家の、屋根も小さく見えていた。
先に到着していたままは、階段を見下ろしていた。
ままの視線の先には、ともぱぱがいるのはわかっていた。でも、ままはあまり嬉しそうじゃなかった。じっと下を見たまま、手を振るでもなく、言葉を発するでもなく、ただ見詰めていた。
ままのそんな様子を不思議に思いつつ、階段を見下ろすと、一匹の白い、いや、薄い灰色の毛並みの猫がこちらを見上げていた。少し口角が上がっていて、とても嬉しそうだった。額から頭の上にかけて逆三角形の模様があって、その脇に細い線が一本ずつ入っていた。そこだけが濃いグレーだった。あ、それと黒い大きな両目の脇にも、濃いグレーの細い線が入っていた。体は薄いグレーで、光の加減によっては、銀色にも見える。そして、尻尾は、先が曲がった、いわゆるかぎしっぽだった。
銀色の体。
頭のクラウン。
かぎ、尻尾。
なんだろう?懐かしい気がする。
「ままの言った通りだったね。でもさ、なんで、ぱぱもままも人間の形で来てくれないの?」
ままの左隣に並んで、猫のぱぱを見ながら、ままに話しかける。だが、ままの返事はない。
「まま?」
ままは身動き一つせず、ぱぱを見ていた。
「まま?どうしたの?」
幸の声に気が付いて、ままははっとして幸を見た。
「どうしたの?ぱぱがきたんだよ、嬉しくないの?」
ままは、もう一度ぱぱを見下ろすと、なんでもないというように、首を振った。
そして、
「やっぱり猫だったでしょう?」
と、明るく言った。ほらね、当たったでしょう?と言いながら、幸を見る。
「ぱぱのことなら、何でもわかるんだから。」
と、自慢げに言いながら、階段を見る。猫のぱぱは向きをかえると、こちらを見ながら階段を再び登り始めた。一段一段と軽快に登る。その後を水が追い掛けるように登ってきて、ぱぱが蹴った階段を水の中に沈めて行く。それは再び、生者の世界には戻れないようにする仕組みらしい。ままが登ってきたときもそうだったらしい。
ぱぱの進む早さに合わせて、ままも、幸も虹の橋の始まりの所まで走った。3匹が同じ速度で走る。ぱぱは上へ、幸達は下へ。階段と虹の橋は平行になっていたので、離れていた距離がだんだん近くなっていった。階段を90度に曲がった所に虹の橋の先端があった。
先端を挟んで、ままと幸はぱぱと向かい合った。しばらくの間、誰も何も言わなかった。いつものように、風が葉を鳴らす音だけが聞こえていた。やがて、ままが言った。
「待ってたよ。」
うん、と、ぱぱが頷いた。
「ありがとう。」
「待ってたよ。」
幸も言った。うん、と、再びぱぱは頷く。
「待たせたね。」
と、言って、ぱぱは頭を少し下げた。そして再び上げたとき、目尻に涙が滲んでいた。
それを見て、幸も涙が出てきた。恥ずかしくなって横を向くと、うさぎのままは既に大量の涙でぐちゃぐちゃだった。
ぱぱが虹の橋に足を掛けた瞬間、ぱぱを追ってきた水がざーっと音を立てて消えていき、何事もなかった様に、階段が再び現れた。それを見て、ままが
「ごめんね。」
と言った。そして、
「ありがとう。」
と言った。
水が引いたということは、ぱぱは、もうあちらには帰れない、ということだった。
「いいんだ。みなみのせいじゃない。俺が、決めたことだから。」
猫のぱぱは、うさぎのままの頭に自分の額を擦りつけた。
「うん。」
と、ままが答える。
その様子を見て、ほっとした途端、頭に浮かんできたものがあった。
おにいちゃん




