54.妹
「お前、医者だろう!」
「医者だって、助けられない命はあるんだよ!
まして、こんなに酷くやられてしまっては。」
ボク達を助けてくれた『その人』は、医者に言われて眉を顰めた。
「途中で煙草なんて吸ってなければ、間に合ったのに。」
妹の治療をしてくれている人は、『医者』というらしい。
ちらっとその人を振り返って、すぐに妹の治療を続けながら、
「でも、この子と烏が騒いでなければ気が付かなかったんだろう?
気付かずにそのまま行っちまったら、そっちの子だって烏の餌食だったぞ。」
と、『その人』の手の中に納まったボクに視線を移す。
「ああ。」
『その人』は、ボクをそっと手のひらで包んだ。
「ああ、そうだな。」
ボクは、いいんだ。
ボクが、代わりにあいつにやられればよかった・・
下が薄緑、上が白い壁で囲まれた小さな部屋で、
医者という人は妹とボクの治療を始めた。
後で知ったのだが、『医者』というのは、職業の名前だそうだ。
でも、そのときは、ボク達の治療をしてくれた人が、
『医者』という名前の人だと思っていた。
「あまり自分を責めるなよ。お前、そういうとこあるからな。」
妹の上に屈み込み、こちらに背中を向けたままで『医者』が言う。
「今晩がヤマだな。だが、たぶん・・・そのときは、あきらめてくれ。」
「・・・ああ。」
『その人』の、ボクを包んだ手が少し震えている。
そして、少し力がこもった。
「にゃあ。」
と、ボクは鳴いた。
妹のそばに行きたいよと言ってもがいた。
ああ、と気が付いて、『その人』はボクをぐったりしている妹の傍に置いた。
妹は目を閉じたままだった。
体のほとんどを白い布にぐるぐる包まれて、目を閉じていた。
左の目尻に血がついていた。
ボクは、そっとその血を舌でなめた。
「にゃあ。」
と、小さい声で鳴いた。
その声が聞こえたのか、妹はうっすらと目を開いた。
ボクを見ると、少し口を開く。
そしてやっと掠れた声で、小さく小さく
「にゃあ。」
と鳴いた。
助けてやれなくて、ごめん。
何もできなくて、ごめん。
今も!今も、こんな風に泣くだけしかできなくて、ごめん。
妹はじっとボクを見詰めて、ゆっくり目を閉じた。
そして、一つ大きく息をすると、小さく
「にゃあ。」
と、鳴いた。
それから、妹の目は二度と開くことはなかった。




