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幸湖日記  作者: 炎華
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52.青い空とひとつひとつの世界

これから、250年の間、ここでひとりきりで過ごす。

景色は全く変わらないのに、時間の流れだけがゆっくり動くようになる。

閉鎖された時間の牢獄。

それが私に下された罰。


「一度、その世界に行くと決めて、全てが整っているのに、

止めてしまうことは、大きな大きな罪なのです。

貴女は、自分で決めたことを、寸前で止めてしまった。

怖くても、苦しくても、気が狂いそうでも、その世界へ行かなければなりません。

自分で決めたことなのですから。」


  ・・・はい。


「皆、そうしているのです。

終わった生が、思い出すだけでも気が狂いそうなくらい酷いものでも、

回復に時間がかかったとしても、再び学ぶことを選ぶのです。

また生を全うしにいくのです。」


  ・・・はい。


「貴女が大切に想っている二つの、いえ、お二人は、

貴女よりずっと長い時を過ごしています。

貴女より、苦しい生を何度も何度も全うしているのですよ。

彼らに、聞いたことはありませんか。」


    「操縦していた戦闘機のエンジンが急に止まってねぇ。

    ・・・じめじめした熱帯の森の中で、二人に会うの。

    だけど・・・」


「思い出しましたか。」


  ・・・はい。


    「何度も繰り返したけど、ままを救うことは、できなかった。

    いつも、思うんだ。

    エンジンが止まらないで、あのまま艦に突っ込んだ方が、

    たぶん、途中で撃ち落とされただろうけど、

    その方がずっと楽だったかな、って。」


  ・・・さっちゃん。



ここには、この空間には、様々な花の咲く木が無限にあった。

まだ小さな若木も、てっぺんが見えないような巨木もある。

全てに花が咲いていた。

まだ小さいのに溢れるばかりに花をつけているものもあれば、

大きな巨木なのに、ほんの一握りの花しかつけていないものもある。

それらは、整然と並んでいるのだが、

途中で蔓を出して、隣の木に巻き付いていたり、

隣同士の木が枝を出し合って、手を繋ぐように絡んでいるものもある。

花の形、色は様々で、

見たことのある花もあれば、全然知らない花もある。

自分の周りを見回して、一通り木々を眺めた後、私は上を見上げた。

空は黒かった。

こんな黒い空を見て、これから長い時を過ごすのか。

そう思うと、気が滅入った。

そっとため息をつくと、

見透かしたように、今まで私に話しかけていたそのひとが言った。

「貴女の好きな空を思い浮かべてごらんなさい。」

そのひとは、艶やかに微笑んで、頷いた。


  私の好きな空。

  青くて、真っ白な雲がぽっかり浮かんでて、

  たまに灰色の雲に覆われるけど、そして雨が降るけど、

  また青い空に戻って、夜になると星が・・・


そこまで考えると、胸が苦しくなって、涙があふれてきた。


  これは、『あの世界』の空だ。

  私の大切な。

  桜・・

  染井吉野・・

  滝桜・・・

  もう、戻れない世界の・・


「おやおや。

貴女は私達の子供達の中で一番の泣き虫ですね。

ご覧なさい。」

そう言って、そのひとが手を挙げると、

黒い空を、眩しい光が覆った。

目を開けていられなくて、固く目を閉じた。

「もう大丈夫ですよ。目を開けてご覧なさい。」

その声に、おそるおそる目を開くと、

青い空がそこにはあった。

白い雲がぽっかり浮かんでいて、ゆっくり流れていた。

「いかがですか。

貴女の望んだ空でしょう?」

こくりと私は頷いた。

空から目が離せなかった。

それはまさしく、私が心に描いた『あの世界』の空だった。

夜になれば星が瞬くだろう。

雲に覆われて、雨が降るときもあるだろう。

「なる、様。」

そのひとは、優しく微笑んだ。

「貴女はここで、長い時間を過ごすのです。

これくらいはいいでしょう。」

「・・・ありがとうございます。」

私は空を見ていた。

ずっと見たいと思って、見られなかったもの。

ずっと心の中に大事にしまってあったもの。


「なる様。

私はここで何をすればいいのですか。」

しばらく空を見ていた後、訊いた。

自分で考えてと言われるかもとも思ったが、思い切って訊いてみた。

そのひとは、ふっと笑顔を緩めると、

「これらの木の全てを見る事です。」

と、言った。





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