41.遠い記憶
『そこ』から帰ってきたとき、達成感はまるでなかった。
-疲れた-
体も精神も、ぼろぼろだった。
眠りたい
もう、眠る必要も無いのに、そう思った。
そのまま永遠に、眠ってしまいたい。
重い足を引きずって、ようやく辿り着いたそこは、
満開の花をつけた桜並木だった。
「お帰り。」
包み込むように優しい声が、私を出迎える。
声の主は、舞い落ちる桜の花びらを受けながら、慈悲深く微笑んでいた。
「ありがとう。」
こくりと小さく頷きながら、声を出さずに唇だけで、
「はい。」
と応える。
顔をあげて、その存在に微笑もうとした瞬間、一筋目から涙が零れた。
声の主は、私の前まで来ると、頬に手をあてた。
「つらかったね。」
その言葉に、目を閉じて応える。
閉じられた瞼に押された涙が溢れて、頬と顎を伝って落ちていく。
「今は、ゆっくり休むといい。」
そう言ってから、気が付いたように声の主は言葉を続けた。
「それとも、どこか行きたい所がありますか。」
目を開け、声の主を見る。
その背景の桜並木と舞い散る花びらを見ながら、
頭に浮かんだのは、あの幸せだった日々。
「・・・・に、行きたいです。」
声の主の顔が曇る。
「でも、あそこは、もう。」
頭を垂れ、私は『その人』に言った。
「わかってます。
何かを変えたいわけじゃない。
ただ、幸せだったあの時に戻りたい、だけ、です。」
途切れ途切れに言うと、
しばらく悲しそうに眉を顰めていたそのひとは、
「わかりました。いっておいで。」
と、私を抱きしめた。




