37.確率
じぃじがバスで来るか、タクシーで来るか。
確率は二分の一だ。
タクシーは病院の玄関の真ん前に停まるが、
バスは、ロータリーの端っこにバス停があって、
そこに停まる。
タクシーは、拾ったら一直線に病院まで来られるが、
バスは、電車とバスに乗り継ぐか、
バスからバスへ乗り継ぐかになる。
タクシーは高くつくが、早くて楽。
バスは安いが、乗り継ぎが面倒で、時間がかかる。
じぃじは、タクシーで来るな。
幸はそう判断して、病院の玄関のすぐ横に移動した。
「100分の1の確率だから、100回引けば1回は当たるはずなんだよ。」
ぱぱの声が言う。
「それはさ、
100回に1回は必ず当たると補償されてれば、でしょ。」
ままの声がそれに応える。
「それな。」
「このゲームのガチャは、それが補償されてないから、
配信終了になるまで当たらない確率の方が高いよ。」
「その原理で、
俺の所には『大和』が一生こないんじゃないかという思いに囚われてだな。」
「来てよかったね。」
にこやかに、ままが言う。
何つまらないことを話しているのだと、あのときは思ったけど。
「100回引いて1回必ず当たるとしても、
その1回がどこで当たるかっていうのが問題だよ。」
「運次第、ってとこだね。」
「そう!
運が良ければ、1回目で当たるけど、悪ければ、100回目で当たる。
その『運』っていうのは、何に左右されるかは知らんけど。
補償されてないガチャは、どう計算してるのかわからんけど、
なぜ100分の1の確率とか言えるわけ?
だって、分母は無限大だよ?
常に1回とかヒトケタの試行で当たりを引く人には関係ないだろうけど、
分子がいつも『無限大-1』だったら、
一生当たらないってことだよね。」
まま・・
なんだか、変なことを思い出した。
ままは、何をそんなに熱くなってたのか。
世の中、運のあるないで、かなり不公平だとでも言いたかったのか。
自分の運の悪さを嘆いていたのか。
でも、生まれてくるときに、運がよかったか悪かったかはあると思う。
生まれる前に、何か条件があるのかもしれない。
幸は、もうずいぶん前に死んだけど、
まだあの世に還ってないから、その記憶はない。
ままのお父さんとお母さんは、あの世に逝って戻ってきたから、
色々わかってるみたいだったけど、幸には何も教えてくれなかった。
あの幸の、『兵隊さんの夢』が前世の記憶だとしたら、
ままは幸が満足したから、あの夢をみなくなったと言ったけど、
本当にそうなのかはわからない。
幸が満足しなかったから、兵隊さんの人生を何度もやり直したのか、
何か条件があって、それを達成しなければ、
何度も同じ、正確には全く同じではないけれど、
人生をやり直さなければいけない、とか、あるのかもしれない。
幸は、病院に来る途中で会った三人のことを思い出した。
これからあの世に向かうだろう三人。
男の人二人と女の人一人。
男の人二人は、とても若かった。
20代後半くらい。
だけど、女の人はおばあさんだった。
そこから考えると、男の人二人が、女の人を迎えに来たのだろう。
ぱぱと、同じような服を着てた男の人。
なんて言ってたっけ。
「君も、来てくれてたんだね。
僕にはわかるよ。
君は本物だ。
誰かのために創られたものじゃない。」
どういう意味だろう。
本物・・ほんもの?
幸が本物かって?
当たり前だよ!
幸は本物だよ!
こうやって、色々考えてる。
それとも、誰かに創られた『幸湖』って、他にいるの?
あの人の言葉だと、
幸は、誰かを心配してこの世に来た、んだよね。
誰って、当たり前だけど、ぱぱかままのことだよね。
心配だったから、この世に遺って。
そこまで考えたとき、目の前にタクシーが停まり、
中からじぃじが降りてきた。
タクシー、当たり!
幸は心の中で思った。




