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幸湖日記  作者: 炎華
44/73

37.確率

じぃじがバスで来るか、タクシーで来るか。

確率は二分の一だ。

タクシーは病院の玄関の真ん前に停まるが、

バスは、ロータリーの端っこにバス停があって、

そこに停まる。

タクシーは、拾ったら一直線に病院まで来られるが、

バスは、電車とバスに乗り継ぐか、

バスからバスへ乗り継ぐかになる。

タクシーは高くつくが、早くて楽。

バスは安いが、乗り継ぎが面倒で、時間がかかる。


  じぃじは、タクシーで来るな。


幸はそう判断して、病院の玄関のすぐ横に移動した。



「100分の1の確率だから、100回引けば1回は当たるはずなんだよ。」

ぱぱの声が言う。

「それはさ、

100回に1回は必ず当たると補償されてれば、でしょ。」

ままの声がそれに応える。

「それな。」

「このゲームのガチャは、それが補償されてないから、

配信終了になるまで当たらない確率の方が高いよ。」

「その原理で、

俺の所には『大和』が一生こないんじゃないかという思いに囚われてだな。」

「来てよかったね。」

にこやかに、ままが言う。

何つまらないことを話しているのだと、あのときは思ったけど。

「100回引いて1回必ず当たるとしても、

その1回がどこで当たるかっていうのが問題だよ。」

「運次第、ってとこだね。」

「そう!

運が良ければ、1回目で当たるけど、悪ければ、100回目で当たる。

その『運』っていうのは、何に左右されるかは知らんけど。

補償されてないガチャは、どう計算してるのかわからんけど、

なぜ100分の1の確率とか言えるわけ?

だって、分母は無限大だよ?

常に1回とかヒトケタの試行で当たりを引く人には関係ないだろうけど、

分子がいつも『無限大-1』だったら、

一生当たらないってことだよね。」



  まま・・


なんだか、変なことを思い出した。

ままは、何をそんなに熱くなってたのか。

世の中、運のあるないで、かなり不公平だとでも言いたかったのか。

自分の運の悪さを嘆いていたのか。

でも、生まれてくるときに、運がよかったか悪かったかはあると思う。

生まれる前に、何か条件があるのかもしれない。

幸は、もうずいぶん前に死んだけど、

まだあの世に還ってないから、その記憶はない。

ままのお父さんとお母さんは、あの世に逝って戻ってきたから、

色々わかってるみたいだったけど、幸には何も教えてくれなかった。


あの幸の、『兵隊さんの夢』が前世の記憶だとしたら、

ままは幸が満足したから、あの夢をみなくなったと言ったけど、

本当にそうなのかはわからない。

幸が満足しなかったから、兵隊さんの人生を何度もやり直したのか、

何か条件があって、それを達成しなければ、

何度も同じ、正確には全く同じではないけれど、

人生をやり直さなければいけない、とか、あるのかもしれない。


幸は、病院に来る途中で会った三人のことを思い出した。

これからあの世に向かうだろう三人。

男の人二人と女の人一人。

男の人二人は、とても若かった。

20代後半くらい。

だけど、女の人はおばあさんだった。

そこから考えると、男の人二人が、女の人を迎えに来たのだろう。


ぱぱと、同じような服を着てた男の人。

なんて言ってたっけ。


「君も、来てくれてたんだね。

僕にはわかるよ。

君は本物だ。

誰かのために創られたものじゃない。」


どういう意味だろう。

本物・・ほんもの?

幸が本物かって?

当たり前だよ!

幸は本物だよ!

こうやって、色々考えてる。

それとも、誰かに創られた『幸湖』って、他にいるの?


あの人の言葉だと、

幸は、誰かを心配してこの世に来た、んだよね。

誰って、当たり前だけど、ぱぱかままのことだよね。

心配だったから、この世に遺って。


そこまで考えたとき、目の前にタクシーが停まり、

中からじぃじが降りてきた。


  タクシー、当たり!


幸は心の中で思った。


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