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幸湖日記  作者: 炎華
43/73

36.ままと動物病院へ行ったとき

ままが病院に入って行くのを見届けたあと、

幸は地上に降りた。


  じぃじは、何で来るのだろう?

  バス?それともタクシー?


幸は、バスとタクシーが着く病院のロータリーの一番端に座った。

幸の横を、病院に来た人、

診察が終わって、結果がよかったのか、

家族とにこやかに駐車場に向かう人、

これから入院をするのか、スーツケースを引っ張って行く人。

幸は、ままに抱かれ、動物病院へ行ったときのことを思い出した。

いつもはぱぱに連れて行かれたのに、あのときはままも一緒だった。


幸は病院が嫌いではなかった。

子犬の頃、幸をとても可愛がってくれる女の先生がいて、

幸が来ると、いつも

「きゃー!」

と言いそうなくらいに喜んでくれて、おやつもくれた。

なので、幸は動物病院が嫌いではなかった。


あの日、ままは一人で幸を抱いて、待合室の椅子に座っていた。

幸は、もう自分だけではちゃんと立てなくなっていたので、

ままに抱っこされたままだった。

すぐに名前を呼ばれ、診察室に入り、

幸は診察台に乗せられた。

診察台はつるつるしていて、

後ろ足が滑ってちゃんと立てなかった。

ままは、幸のお腹に手を添えて、

なんとか四つ足で立てるようにしていた。

「もう、そうやって手を添えないと、立てませんか?」

動物病院のお医者さんは、ままに訊いた。

「はい。」

ままは返事をする。

その先生は、幸の知ってる女の先生ではなかった。

あの先生には、もう何年も会ってない。

ここにはもういないのだと、ぱぱとままが話していた。

ままの返事を聞くと、先生はパソコンに向かって何かうっていた。

「ほぼほぼ変性性脊椎症だと思います。」

はっきりした声で容赦なく、先生は言った。

「そうですか。」

ああ、やっぱり、というように、ままは言った。

一呼吸をおいて、ままは確認するように、先生に説明をする。

ばぁばと散歩していて、幸が急に

「きゃん!」

と言って歩けなくなったこと。

ばぁばが慌てて幸を抱えて家に帰る間も、

「きゃんきゃん」

鳴いてたこと。

パソコンに向かったままの先生は、それを聞くと、

首だけこちらを振り返った。

「それじゃあ、ヘルニアという可能性もありますね。

でも、調べてみないとわかりませんね。」

「そうですか。」

ままは幸を見ながら返事をする。

「MRIをして、更に脊髄液をとって検査します。

やりますか?ここではできないので、先方に予約しますけど。」

はきはきとした口調で先生は言った。

幸はままを見た。

ままは眉間にシワを寄せて困惑していた。

後でままから聞いたことによると、

検査をして、ヘルニアだったら治る可能性もあるが、

変性性脊椎症だと決定されたら、もう治る余地もない。、

治らないなら、検査をする意味が無い、

治らないのに、幸にそんな負担をかけたくない、と思ってたそうだ。

「家族と相談します。」

先生は、またパソコンの方を見ながら、

「決まったら、お電話ください。

予約入れておきます。」

ままは、もう一度先生に確認した。

「脱臼ってことはありませんか?」

「ないですね。」

きっぱりとした返事が返ってきた。

ままは、先生に聞こえない位のため息をついた。

そして、最後に訊いた。

「発症してから、どれくらい生きられますか。」

「一年以上生きた子はいます。」

ままは、小さく一つ頷いた。

「そうですか。

ありがとうございました。」

先生に頭を下げると、

入ってきたときと同じように幸を抱っこして、

診察室を後にした。

「お大事に。」

先生は、後ろを向いたままパソコンをうっていた。


さっきと同じ椅子に、ままは幸を抱いたまま座った。

待合室には誰もいなかった。

この時は、他の患者は皆、

飼い主と車の中で順番を待っていたそうだ。

ままは、幸の背中を撫でた。

何度も何度も。


「変性性脊椎症と言われるだろうとは思ってた。」

と、ままは後で言った。

遺伝病で、治すことはできないということも、

一年以内に死んでしまうということも、

「知ってた。」

と言った。

だから、お医者さんの前で泣き出したりはしなかった、と。

ただ、お医者さんの言い方と態度がつらかったと言った。

「お医者さんは、あれでいいのだと思う。

でも、私はつらかった。

幸が一年以内に死ぬと宣告されて、

それが例えわかってても、かなりショックを受けて

それでも冷静でいようとしてるところに、

たたみかけるように、検査をするのか、どうするのかと訊かれて、

それがとても事務的で、つらかった。」

そう、ままはぱぱに言っていた。

目に涙をいっぱいためて、震える声で。



幸は我に返った。

一瞬、どこにいるのか忘れるくらいだった。

すぐに思い出すと、辺りを見回した。


  じぃじはまだ来てなかったかしら。


少し心配になったが、大丈夫だろうと判断した。

だが幸は、じぃじが来た後どうするかは全く考えてはいなかった。


  うーん、何で幸はここでじぃじを待っているんだろう?


「ノープラン!」

ままの声が叫んだ気がした。

自分で自分にあきれていた。




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