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幸湖日記  作者: 炎華
36/73

29.この人生を繰り返すことになったら

ともちゃんのいる病院を左手に見ながら、先に進む。

あそこへ行きたいと願えば、すぐに行けるとは思うが、

もう少し、歩いていたかった。


ずっと真っ直ぐに行って、丁字路交差点で左に曲がって、

真っ直ぐに行って、また左に曲がる。

右側の山は、もう無くなって、

少し高くなっているが、住宅街に変わっていた。


もしかしたら、この人生を繰り返すことになるかもしれない。

この記憶があって、繰り返すならば、まだいい。、

真っ新な記憶で、この人生を繰り返すのは嫌だ。

幸の夢が、前世の記憶なら、

今のこの記憶を持って生まれかわることはない。


道具として生まれ、

母親の一部として育てられた上に、

顔が綺麗じゃないからと、冷遇される。

それを、繰り返す。

・・いやだ・・


何も、なかった。

自分を盛り立てるものさえ。

それを必死に探す自分が嫌だった。

何も無いのに、見栄をはる自分が嫌だった。

でも、そうしないと立っていられなかった。

ずっと、死にたかった。

ずっと、逃げ出したかった。

でも、逃げ出すことも、死ぬこともできなかった。

それさえ、できなかった。


  あれを、また経験するのはきつい。


もし、またやり直すとして、一体何が求められているのか。

どんどん不安が広がってくる。

耐えきれないんだったら、このまま消え去ることもできる。

何も感じなくなって、この大気、宇宙?の一部になる。

それも、いいかもしれない。

そして、もう何も感じなくなる。

そう考えたとき、ふと、ともちゃんの顔が頭に浮かんだ。


-ともちゃん。

私を初めて見たとき、可愛いと思ったと言った。

一目で好きになったと言った。

私は「嘘だ」と言った。

そんなはずはない、と。

その剣幕に、ともちゃんは驚いたように、

「本当だよ。」

と、言った。

-嘘だ-

今まで、私を『可愛い』なんて言った男性はいなかった。

綺麗な友達には、ニコニコして、いつまでも話してるけど、

私には目もくれないか、返答もおざなりで。

そこまで言うと、とても惨めな気持ちになって、

思わず涙が出てきた。


心の中で、

ずっと一緒にいたあの人でさえ、

私を可愛いなんて思ってなかった。

と、呟いた。


ともちゃんは、ふっと笑うと、

「それ、いつの話?」

と訊いた。

いつ?

小学校とか、中学とか、高校とか。

「だろうね。」

そう言うと、ともちゃんは、またふっと笑った。

「そいつらが、そのまま大人になってたら、

まだ独身か、ロクな女、嫁にもらってないから。

補償する。」

そう言い放って、ともちゃんは笑った。

その笑顔を見ていたら、

その言葉だけでも、救われた気がした。

それでも、友達に、何でも揃っている子がいたのは事実。

美人で、優しくて、頭もすごく良くて、お父さんは社長さんで、

性格も弱すぎず強すぎず、しなやかで、運動神経抜群で、

何でもこなせるスーパーウーマン。

そして、それを鼻に掛けることは一切なかった。


私はこの人生で、何を得ればよかったのだろう。

何が、試練だったんだろう。

私は、それを得たのだろうか。

それを乗り越えられたのだろうか。

わからない。

また、この人生をやり直すことになったら。


「お姉さん。」

ぼんやりと、そこに立ち止まっていることに気がついた。

横を車が通り過ぎていく。

ガードレールで守られている歩道は、少し幅が広くなっていた。

小高い丘の病院を見てから、無意識にだいぶ歩いたようだ。

視界は閉ざされて、また左側は住宅になっていた。

「お姉さん。」

それが私を呼ぶ声だとは気がつかなかった。

誰も、私が見えないはずだから。

「お姉さん。」

呼ばれた方を見ると、

新しい家に混ざって、少し古い家があり、

小さな緑の垣根の向こうの縁側に、

小さなおばあさんが座っていた。

「お姉さん。」

おばあさんは、私を見ていた。

念のため、周りを見回すが、それらしき人はいない。

「やっと気がついた。

そうよ、あなたよ。」

おばあさんは、そう言って笑った。



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