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幸湖日記  作者: 炎華
35/73

28.人間、顔なんだよな

今歩いているバス通り沿いには、商店はほとんどなく、

住宅が建っている。

ここからは見えないが、左側には、この道に沿って川が流れているので、

時折、住宅が途切れて、広い空き地が現れる。

反対の右側の少し奥には、いつも幸と歩いている山があって、

その斜面に生える樹木は、濃い緑に染まっていた。


小学校の前まで来ると、その緑が急に無くなっていた。

散歩の途中で、いつも下の町並みを眺めているところを、

今日は下から見上げる。


  幸は、どうしただろう?

  お義母さんの所に行ったんだろうか。


幸の顔が浮かぶ。


  どうやって説得するつもりなんだろう。

  お義父さんがいれば、お義母さんにも声は聞こえるのだろうか。

  例えそうだったとしても、お義父さんに妨害されるんじゃないだろうか。


ふん、とため息をつく。


  私が言うよりは、拒否されないだろうけど。



私は年上の男の人が苦手だった。

というか、男の人全般が苦手だった。

なぜなら、


  男の人は、顔が綺麗な女性とか、可愛い女性か好きなんだよな。

  子供でもそうだからな。


私は綺麗でも可愛くもなかったので、男の人からはかなり冷遇されてきた。

自分の顔が綺麗じゃないことも、可愛くないこともよくわかってる。

母親でさえ、

「美人は3日で飽きる。愛嬌のある方が飽きられなくていいじゃない。

小鼻が大きくて、これってすごくいいんだよ。」

と言った。

何が「すごくいい」だ。

そんな言葉は、何の意味もないし、慰めにもならない。

それどころか、暗に、「あんたはブス」と言っているじゃないか。


母は、私が勉強以外に興味を持つことを許さなかった。

思春期になって、にきびと肌荒れでボロボロの肌に悩んだとき、

クリームをお小遣いで買って、肌荒れの部分にだけ、こっそりつけていた。

それをある日、母に見つかってしまった。

母は、怒った顔と冷たい口調で、

「なに、こんなの塗って。

べたべたじゃないの。」

と、言いながら、ティッシュで無理矢理私の顔を拭った。

その後のフォローは何もなかった。

それどころか、

「なに、色気付いてんのよ。」

と、言い放ったのだ。

いや、だって、顔の作りは変えられないけど、

にきびと粉が吹いたような肌をなんとかすれば、

まだマシになるかもしれないから。

そんなことは言えなかった。

言えっこなかった。

余計怒られるだけだった。


確かに少し油分の多いクリームだったかもしれない。

それでも、自分で考えて選んだ物だった。

それを「こんなの」と言われ、その後のフォローもなく、

「馬鹿じゃないの。」

とでも言いたげな態度をされる。

その頃は、両親に怒られるのが怖かったので、

せっかく買ったクリームを、二度と使うことはなかった。


今でも、

娘の気持ちを考えてくれる母親だったら、どうだったんだろう、と思う。

「もう少し油分が少ない方がいいよ。」

とか、

「お母さんと選びに行こうか。」

とか、なったんだろうか。



この肌だけでもなんとかしようと思ったのは、理由があった。

その頃、友達に誘われて、バレーボール部に入った。

授業の一環としてのクラブ活動だったので、

本格的なものではなく、基礎的な形を学ぶ、というようなものだった。

私は、スポーツ系は苦手なので、文化系を選んでいたが、

通っていた中学は、スポーツに必要以上に力を入れていたので、

文化系のクラブはごくわずかだった。

そして、すぐにいっぱいになってしまう。

「大丈夫だよ!本格的なことはしないから。

打ち合いとかするだけだから、楽しいよ。」

そう誘われて、バレー部に入った。


しかし。

男子の先輩が、それぞれ未経験の部員に一人ずつついてくれたのだが、

私についた先輩は、無口で、いつもつまらなさそうだった。

可愛い友達についた先輩は、いつも嬉しそうで、

よく友達に声をかけていた。

ある日、そのいつも友達についていた先輩と、

私についていた先輩が交代したことがあった。

あんなに嬉しそうだった先輩は、ぶすっとして、投げ遣りに私に接した。

そして、無口でつまらなそうだった私についていた先輩は、

活き活きとして、笑ったり、声をかけたりして楽しそうだった。

途中で、いつも友達についている先輩が、

私についている先輩に何か話しかけると、

またいつもの先輩が私の相手になった。

そして、いつものように、つまらなさそうに、私に接した。

友達相手に替わった先輩は、先程の不機嫌さはどこへやら、

途端に笑い声をあげ始めた・・


  なんで、覚えてるかなぁ。


ふん、と笑いが出た。


それ以上にひどかったのは、高校一年の体育の男性教師だった。

特に体力測定などもせず、

生徒のやりたい球技などを、毎回やるだけの体育だった。

なので、ほとんどテストの点で、成績がつくようだった。

だが、私の成績は、絶対評価100点満点の、50点だった。

高校一年の体育は全部評価は50点だった。

テストの点は、90点以上だったのに、だ。

教えてくれた友人の成績は、ちゃんと80点以上の評価がついていた。

授業も実技も真面目に受けていた。

その証拠に、

二年になって、女性の教師に代わったら、

途端に80点以上の評価がついたのだった。


なぜ、そんな極端に違う評価なのか。

考えられるのは、私が男性教師の好みじゃなかった、ということだろう。

そういえば、クラスの女の子達は、可愛い子、綺麗な子が多かった。


  見てくれだけで評価を決めることしかできないんだったら、

  教師なんかにならなきゃいいのに。

  下についた生徒が大迷惑だよ。


頭の後ろで指を組んで、空を見上げる。

幅をとって歩いても、誰の迷惑にならないので、そうしてみた。

そうしないと、やってられない気分が抑えられない気がした。

相変わらずの青い空に、そのせいで目立つ真っ白な雲が浮かんでいた。


  結局、そういうことだよ。

  人間、顔なんだよな。


そう言い切ってしまう自分が情けないと思いつつも、


  顔が綺麗じゃないっていうだけで、

  なんでこうも精神砕かれて

  生きていかなきゃならんの?


と、憤りを感じる。


  やっぱり美女とイケメンは、どこへいっても得するしな。


ただ、大学生になってからは、顔で差別されることは無かった。


  理系だったしな。

  白衣着て、男も女もなく実習して。

  毎日、忙しかったけど。

  楽しかったな。

  少なくとも、あのときは、

  顔がなんだとか意識させられることはなかったよ。

  周りに、顔だけで差別する人間がいなかったのかな。


それだけは幸いだった。

その頃から、容姿で態度を変える人には出会わなかったように思う。

私が気がつかなかっただけなのかもしれないが。

いや、でも、たぶん。


  まぁ、いいや。

  もう、体、ないし。


ふと気がつくと、既に十字路の小さな交差点にたどり着いていた。

ここを右側に折れると、急な上り坂になっていて、

いつも幸と散歩する山の道と交差する。

左側は川の方へ行く道で、車が一台通れるか位の道幅だった。

今日は真っ直ぐに進む。

信号が青になったので、横断歩道を渡る。


本当は、年上の男の人が苦手な理由は、他にあるのだが、

また思い出すのも嫌なので、止めておく。


あの世に逝っても、この記憶は消えないんだろうか。

いつまでも遺るんだろうか。

幸に殺された私は、あの世で幸を恨んでいたんだろうか。

ともちゃんに殺された幸は、ともちゃんを恨んでいたんだろうか。

それとも、そういう経験として、積み重ねられていくだけなんだろうか。

それとも、その経験を、そういう気持ちを経験するために、

この人生があったんだろうか。

あの世に逝ったら、本当の私に戻って、

『みなみ』の記憶を取り込んで、自分の一部とするんだろうか。

幸の話とお父さんが言ったことから考えると、

そうとしか思えない。

あのときは、何を言ってるのかわからなかったけど、

きっと、そうに違いない。


だったら。

幸は、ともちゃんを恨んではいないのだろう。

恨んでいたら、またともちゃんの傍にこようなんて、思わないだろう。

あの世の魂は、誰かを、何かを恨むなんてことはないのかもしれない。

還ってからすぐには、現世の記憶が大きいのかもしれないけど、

でも、いずれまた、何かに生まれかわって、

何か新しい経験を積むのかもしれない。


  でも、それは、なんのため?


突然開けた左側の、遠い小高い山の上に、

ともちゃんのいる病院が見えていた。




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