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幸湖日記  作者: 炎華
34/73

5月8日

幸に

「行ってくる。」

と言って、家を出た。

ともちゃんの病院まで行きたいと思えば、

あっという間に行くことはできるのだろうが、

急がなくちゃいけないのはよくわかっているのだが、

歩いて行こうと思ったのは、

やっぱりもういられなくなった、

自分の住んでいた場所を見ておきたいという気になったからだろう。

階段の上から、見ていた町を。


家を出て左に行くと、バス通りにぶつかる。

そこを今度は右に曲がり、あとはずっと真っ直ぐだ。

その通りは、幸といつも散歩する山の道と平行になっている。

そんなに大きな通りではないが、車通りは多い。

なので事故も、わりと多かった。

その一つに、ともちゃんと私も入ってしまった。

「『死亡事故発生場所』の看板が立てられるかもね。」

と、呟いてみて、少しおかしくなった。


  当事者がまだこんな所にいて、事故のあった通りを歩いてるなんてね。


幸い、まだ人間の形のままだった、

戻るときは、突然なんだろうか。

少なくとも、ともちゃんに会うまでは、人間の形でいたい。


前から年配の女性が歩いてくるのが見えた。

肩からエコバッグを提げている。

近くのスーパーに買い物に行くのだろう。

前を見ているが、避ける気配はない。

私の方が、少し横によって、女性をやり過ごした。


  本当に見えてないんだな。


女性を見送りながら、思う。


  どんな人が、幸や私を見る事ができるんだろう?


霊感のある人は、勿論だろう。

でも、お義父さんは、今までは何も見えなかったし、聞こえなかったという。

急に霊の声が聞こえるようになる理由。

私が霊になったばかりのとき、すぐ近くにいたから?

いや、だったらお義母さんだって。

私が触ったくらいだから、お義母さんの方が聞こえる様になるはず。


  なんでだ?


考えに夢中だったので、前から自転車が来ている事に全然気がつかなかった。

だが、自転車はそのまま私を通り抜けていった。


  お?


後ろを振り返って、やっと自転車が通り抜けて行ったということを理解した。


  本当に避ける必要ないんだ。

  わかってはいたけど、なんだかねぇ。


だからといって、車とか電車の前や横を通り抜ける気はなかった。


  もし、運転士さんが霊が見える人で、

  慌ててブレーキをかけるようなことがあったら、

  やっぱり大迷惑だしなぁ。

  車の運転手さんが、見える人で、

  突然横切ろうとした私に驚いてハンドルをきってしまい、

  対向車に突っ込んだり、歩行者に突っ込んだりしたら。


腕を組んで、立ち止まる。


  それで死んだ人に、恨まれたくない。


大きく「うん」と頷いた。

やはり、生きているときと同じように行動しよう。

そこで、はたと気がついて、再びおかしくなった。


  死んだ後まで、何の心配をしているんだろう。


呆れて上を見た。

私がいなくなっても、変わらない青い空がそこにはあった。


  私一人がいなくなっても、

  世の中はまわっていくんだなぁ。

  全然変わらないんだな。


それが当たり前なのだ。

「それでいいのだ。」

大きな声で言ってみた。

ちょうど通り過ぎたバスが、私の声をかき消して行った。






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