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幸湖日記  作者: 炎華
19/73

14.幸たちのこと

「まま。久しぶりにお散歩に行こうよ。」

ばぁばが、ぱぱ達のおうちの鍵を閉め、

自分の家に帰って行くのを見送った後、

暗い顔のままを誘った。

「行けるの?

だって、山の上は。」

「行けるよ。

ままと幸が、ぱぱを待っているあの場所は、

『生あるもの』は来られないようになってるの。

ままが階段を登ってきたとき、

後ろが水でいっぱいだったでしょう?

あれを越えてきて、最後に、幸が造ったのは花びらの橋だったけど、

『橋』を渡って初めてあそこに来られるんだよ。

だけど、それを越えて来たものは、もうどこにでも行ける。

ただし、姿は生きてるものには見えないけどね。」

「そうなんだ。」

「わかったら、行くよ!」

ままの返事を待たず、山に向かって走り出した。

「あっ!ままをおいていくなぁっ!」

後ろからままの声がしたが、かまわず走る。

だが、階段の途中で、ままに追い抜かれた。

「どうだ!みたかぁ!うさぎの駿脚!」

「にゃにを~!」

山の上まで全速力の競争になった。

「うさぎの勝ち~。」

階段の一番上でままが振り向く。

そのしたり顔ときたら。

汚い!

ままが人間だったら、絶対負けないのに。

でも。

元気になってよかった。


幸が頂上にたどり着くと、ままはくるりと向きをかえ、

階段から真っ直ぐに伸びた道を歩き出した。

その道は、何日か前、おじいちゃんとおばあちゃんが歩いて行った道だった。

おじいちゃん達は、この道をたどって、彼岸に渡った。

ままと幸は、この道をたどって、現世と交差する道に出る。

90度に横切る道に出ると、

「ああ、懐かしいね。」

ままは大きく息を吸って言った。

「幸が歩けなくなってから、ほとんど来なかったしなぁ。

でもさ、視界の高さが全然違う。」

そりゃあ、そうでしょ。

人間のままの身長は150センチ。

うさぎのままは、20センチくらい?

まだそんなでもないが、もっと草が生えてくると、

ジャングルを行く探検隊の気分が味わえるようになる。

頭の上以上に繁った草の中を、かき分けかき分け・・・

「行こうか。」

ままは幸に笑いかけた。


ままが懐かしがって周りを見ながら歩いているので、

この間に、幸たちのことをお話ししようと思います。


幸は、『ウェルシュ・コーギー・ペングローブ』という種類の犬として、

この世に生まれてきました。

お父さんの名前は『フォレスト』。

お母さんは『ハート』。

幸湖さちこ』という名前は、ままがつけてくれました。

でも、幸の真実の名は『ベゴニア』。

血統書とかいうのに載せるのにつけられた名前だと、

ぱぱが前に言ってました。

幸は、4月1日に兄弟2、姉妹1の合計四匹で生まれてきました。

その二ヶ月後、

人間のぱぱとままの所に、車に揺られて来ました。

主に、幸を育ててくれたのはぱぱでした。

ぱぱとままが幸に初めて会いに来たとき、

ぱぱは大きな病気をして、退院したばかりでした。

そして、おうちでお休み中だったので、

ずっと幸の面倒をみてくれてました。


十歳を少し過ぎた時に、変性性脊椎症というコーギーには珍しくない病気になりました。

最初は上手く立てないくらいだったのが、

だんだん後ろ足に力が入らなくなってきて、

四本の脚で歩けなくなって、お外に行くのが怖くなりました。

その時にずっと一緒にいてくれたのは、ままでした。

ままに抱っこされて、お外に行くのは怖くありませんでした。

幸は十キロちょっと体重があったので、

あまり長い間は抱っこできなかったけど、と、ままは後に言ってました。

「ごめんね。」

と。

ぱぱは、前脚だけでもお外を走れるようにと、

コーギー用の車椅子を買ってくれましたが、

お外に行くこと自体が怖かったし、

車椅子に、すごく違和感があったので、

それを使ってお外を歩くことは、あまりありませんでした。

お外に行ったその日は、夜からお腹がぴーぴーになって、

三日くらい治らないこともありました。


体がなくなったとき、ハートママが迎えにきてくれたけど、

ぱぱとままが、幸の亡骸をぎゅーっと抱いたまま、

声をあげていつまでもいつまでも泣いているのを見て、

ぱぱとままのオマモリとして傍にいることにしました。


ぱぱの名前は、『とも・・』うーん。

ばぁばもままも『とも』とか『ともちゃん』とか呼んでいるので、

『とも』の下はわかりません。


ぱぱのお父さんとお母さんは生きていて、

お父さんとはあまり会ったことはないけど、

ぱぱが言うには、犬が嫌い(怖い?)なんだそうで、

幸には会いに来てくれませんでした。

お母さんは、幸によく会いに来てくれました。

自分を『ばぁば』と呼んでいたので、

幸も『ばぁば』と呼んでました。


ままの名前は『みなみ』。

事故で死んで魂になったとき、

幸たちがいつもいる階段の一番上まで来るのに、

『うさぎの方が人間より楽に登れるんじゃないか。』

みたいな、邪な考えを心に浮かべたばかりに、

『うさぎ』の姿にかわってしまい、今もなお『うさぎ』のままです。

時々、人間の姿が重なって見えることがあって、

幸は少し戸惑うことがあります。


ままのお父さんとお母さんは、もうこの世にはいなくて、

つい最近まで、ままの傍にいましたが、

ままの『みなみ』としての人生が終わったので、

先にあの世に逝きました。

幸はままのお父さんを『おじいちゃん』、

お母さんを『おばあちゃん』と呼んでました。


人間の後ろには、必ず誰かが一人以上ついていて、

あれは、なんて言うんだろう?

「『守護霊』じゃないのかな?」

と、ままは言ってました。

「でも、ご先祖様が守護霊になるって聞くけど、

自分の親もなるのかな?」

と、首を傾げてました。

そういえば、ぱぱの傍には、ぱぱに似た人がいて、

幸を見ると、にっこり笑って、頭をなでなでしてくれました。


ままの守護霊が、おじいちゃん達だったら、

おじいちゃん達が来る前は、誰が守護霊だったんでしょうね?


魂は何度も生まれ変わってくる、と、おじいちゃんは言ってました。

おじいちゃんとおばあちゃんは、

一度、死後の世界に行ってから、こっちに戻ってきたので、

色々わかっているようでしたが、

まだあの世に逝ってない幸に、あまり詳しくは語ってくれませんでした。

「逝けば、わかるよ。」

と、いつも言われました。


ままと幸は、今、意識不明の重体で病院にいるぱぱが来るのを待ってます。

ぱぱがここに来るということは、この惑星がくれた体を離れたということです。

ぱぱが来たら、みんなで『虹の橋』を渡ります。




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