12.なんで『うさぎ』なんだろう
「昔さ、カード会社のCMに、あったんだよ。」
幸にもたれたまま、ままが言う。
「『おじいちゃん こんにちは 元気でよかったです。』
って、おじいちゃんの所へ家族で遊びに行ったんだろうね。
孫がそう言うの。
すごく嫌だった。
『わーい!おじいちゃん!きたよ!』じゃ、だめなの?って、
観る度に思ったよ。
小学生の子にあんなこと言わせるなんて、嫌な親だと。
わざわざ孫の心をおじいちゃんから遠ざけてるようなもんだと思った。
こんなことを言わなきゃいけないおじいちゃんって、
とても厳しい怖いひとなんだなって、絶対思う。」
ままの声は震えていた。
そう、たぶん自分もそうだったから。
それも、自分だけに課せられたことだったから。
「お祖母ちゃんが危篤のとき、
従妹は一目会いたいと、一生懸命だったよ。
私の両親は先に行ってたけど、私は行かなかった。
お祖母ちゃんが亡くなって、お通夜の日に行った。
仕事があるから行けない、とお母さんには言った。
休むとうるさいから、って。
案の定、一日だけ休みをもらって、帰ってきた翌日に仕事に行ったら、
『ご愁傷様』でもなんでもなくて、
『あなたが昨日休んだから、すごく忙しくて、大変だったんだから!』
って、言われたよ。
祖母の葬式だって言ったはずなんだけどね。」
ままは、うっすら笑った。
「それもどうかと思うけど、
お祖母ちゃんの死顔を見てるとき、
お母さんが、言ったんだ。
『お祖母ちゃん、あんたを待ってたんだから。』って。
嘘だって思った。
待ってるわけないよ、と思った。
そんなの、お母さんの希望だよ。
そんな風に見えただけだよ、って思った。」
ままは、少しの間、黙り込んだ。
そして、またゆっくり話し始める。
「もし、それが本当だったとしても、
『今更』だよ。
なんで、死ぬ寸前に、『どうでもいい存在』の私に会いたいなんて思うわけ?」
ままの声は、どんどん小さくなっていく。
「そんなの、お母さんの希望だよ。」
小さな小さな声で、ままは最後にそう言った。
声だけじゃなく、体も、心まで頼りなくなってしまった『まま』を、
今にも消滅しそうなままを、
幸が、せめてぱぱが来るまで護らないと。
幸はそう決心して、心の中で頷く。
ままは、なんで死んでまで、生きているときのことを辛く感じるのだろう。
もう、終わったことなのに。
幸にもたれながら、ままが呟く。
「なんで、『うさぎ』なんだろう。
なんでわざわざ食べられる方を選んだんだろう。
なんでもなれるなら、前世になったことのあるものになれるなら、
捕食者になりたかった。
虎とか狼とかライオンとかヒョウとか。
何でもいいから、食べる方になりたかった。
いつもいつも、私が選ぶ方は遠回りの、間違った道で。」
あまりにも弱々しい声だった。
「進んでみて、だめだと思ったらすぐに違う道に移ることもできるのに、
いつもいつも間違った方を選んだということを認めたくなくて、
違う道に移るのも怖くて、
長い距離を歩いてから、もう進めないぎりぎりまで歩いてから、
ああ、やっぱり間違えたんだって。
そして、やっと違う道に移る。
その繰り返し。
そして、この、私の人生は終わった・・・」




