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幸湖日記  作者: 炎華
11/73

8.ずっと会いたかったんだよ

「こういうことだったんだ。おばあちゃんが言ってたのは。

幸が、いなかったばかりに。

まま、ままは。」

幸湖さんは、目を閉じ俯いた。

「それは違うよ。」

階段の一番上に座って、

幸湖さんが初めて会ったときよりもずっと若くなったおばあちゃんは、

幸湖さんの頭をなでた。

「さっちゃんがいても、いなくても、こうなる運命だったんだよ。

あの子は、近いうちにこちらに来る運命だった。

病気だったのは知ってたでしょう?」

幸湖さんは頷いた。

「でも、幸がいたら、きっと事故には遭わなかった。」

「そうね。」

幸湖さんを膝に乗せ、その背中をとんとんしながらおばあちゃんも頷く。

「事故に遭わなかったら、ぱぱまであんな風にならなかったよ。」

項垂れ、幸湖さんが言う。

とんとんをなでなでに替えながら、

おばあちゃんは幸湖さんを宥めるように言う。

「ぱぱは、事故に遭ったことはよかったと言ってるよ。」

まっすぐ降りる階段の突き当たりには、現世の町が広がっている。

階段は、その手前で右に曲がっていた。

桜の花びらが、二人と一匹の上に、舞い降りてきた。


「生きていくのはね。」

桜の花びらを手のひらに受けながらおばあちゃんが言う。

「修行なんだよ。」

「修行?」

「そう。」

幸湖さんはおばあちゃんを見上げる。

おばあちゃんは目を細め、現世の街並みを見たまま、続ける。

「何かを得るために、生まれて来るの。

それは技術だったり、心の中の何かだったり、ね。」

「ふーん。」

幸湖さんは、考える。

幸は、何か得ることができたんだろうか、と。


「おばあちゃんは。」

「うん?」

「ぱぱがこっちに来るって言いだすって知ってたの?」

おばあちゃんは、目を閉じて少し笑った。

そして深く頷く。

「二人の様子を見てたらね。

それにあのぱぱの性格だったらね。」

やっぱりね。と幸湖さんは思った。

風に吹かれ、桜の花びらが降るように舞う。

誰も口を開かなかった。

その美しい光景を、二人と一匹はただ眺めているだけだった。



「さあ、私達は行くよ。」

ふいにおばあちゃんが言った。

そして、後ろの、やはり初めて会ったときよりも若くなったおじいちゃんを見て微笑む。

幸湖さんを降ろすと、ゆっくり立ち上がった。

「あの子によろしくね。」

幸湖さんは、おばあちゃんを見上げた。

「おばあちゃん。ままに会って行かないの?

ぱぱはまだだけど、ままはもうすぐここに来るよ。」

おばあちゃんは、少し困った顔をして、

後ろのおじいちゃんを振り返った。

おじいちゃんも少し困ったような顔をして、

おばあちゃんを見る。

「昨日、会ったから。」

幸湖さんに目線を移して、おじいちゃんが言う。

「心細そうで、子供みたいだったよ。」

おばあちゃんが笑って言う。

「あとは、さっちゃんにお任せするね。」

「ちゃんとあの二人を連れて来てくれよ。」

おじいちゃんが、幸湖さんの頭をくしゃくしゃと撫でながら言った。

「うん!まかせて!」


桜の花びら舞う道を歩いていく二人の背中を、幸湖さんは見えなくなるまで見送っていた。

幸湖さんはとても寂しくなった。

ずっと、ずーっと一緒にいたから。

二人の姿が見えなくなったとき、幸湖さんは、訊き忘れたことを口に出して言ってみた。

「おじいちゃんとおばあちゃんは、何をみつけたの?」

桜の花びらが幸湖さんの頭にのる。

それを振り落としながら、幸湖さんは思った。

ぱぱとままが来たら、あっちで訊いてみよう。



  同じ造りなんだろうね?

  だったら、そこを左に曲がったら後は直線コースで。


  はあはあ

  またそこがきついんだよ。


  はあはあ

  ほんとに登り切ったら終わりなんだろうね。

  更に先があったら還るからね。


  はあはあ

  やっと頂上が見えてきた。

  ここが、前のと同じ造りだったら、の話だけど。


  はあはあ

  よかった、同じだったらしいよ。

  あ、あと一段・・・

  

  えっ?


頂上には、ずっと前に死んだコーギー幸湖さんが子犬の姿で立っていた。

じっと見つめるうさぎの前に、

桜の花びらが、間を隔てる水の上に舞いおりた。


  さっ、ちゃん?


「まま!」

突然沢山の桜の花びらが降るように集まってきて、

幸湖さんとうさぎを隔てる水の上に橋をかけた。

「ずっと会いたかったんだよ。でも、なんでうさぎなの?」


https://34592.mitemin.net/i538655/

挿絵(By みてみん)


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