(2-2)久美子の過去・・・
冬になると、信行は毎週上越方面のスキー場に滑りに行った。ある時、毎回立ち寄る肉屋のコロッケ売り場に寄ると、店のおばさんが、女性から手紙を預かり、その手紙を信行に渡した。手紙を書いたのは、石打駅で数回すれ違った女性だった。手紙の内容は、スキーを教えて欲しいと・・・そしてスキー場で待ちわせをする。その事がきっかけになり、2人は恋に落ちていった。ある時久美子は「私、農家の長女なの・・・」
深刻な表情で言った。
久美子は父の修造が大好きだった。小学生の高学年まで一緒にお風呂に入り、修造のゴツゴツした手を触りながら
「私、大人になったら、お父さんと一緒に美味しいお米を作る!」
「お父さんも久美子と一緒に美味しいお米を作りたい・・・」
「うんっ!お父さんの手助けを一生懸命する!」
そんな久美子の優しい言葉に修造は目頭が熱くなった。
久美子は、優しい修造とふれあううちに、農家の跡取りを自覚した。将来は、婿養子を迎え、修造が耕している広大な田んぼを継ぐ気持ちが芽生えた。今ではそれが当然だと思っている。
久美子が今まで付き合った男性は、長男だったり、医師だったりと、婿に入る可能性がほぼ無い男性だった。
久美子はその男性達と付き合っている時、キスまでは許したが、肉体関係は、拒否した。
その中で一人、次男がいた。その男性とは、一番長く付き合い、愛した。名前は
「二重壱五郎」
壱五郎は、新潟市内では名の通った自動車修理工場の次男だった。壱五郎とデートをしたあと、久美子は車の中でキスを許した。だが・・・
「久美子さん、あのホテルに入ろう・・・」
何回もラブホテルに誘うのだが
「今は駄目なの・・許してください・・」
毎回、拒否をした。その理由は、結婚を意識しだした頃、二重壱五郎が突然。
「オヤジが市内に土地を買ってくれたので、その土地に家を建てて、久美子さんと一緒に住みたい・・・」
プロポーズらしき事を言った。その時も久美子は、他の場所に嫁ぐ気持ちがない事をアピールするように
「私、農家の長女だから、家を出てお嫁には行けないわ。でも来てくれるなら・・・」
遠回しに婿養子に来てくれるなら考えると伝えると言うと。
「僕が婿に?それもありかな?」
二重壱五郎本人は、冗談で言ったのだが、久美子はその言葉に期待した。
ある日、二重壱五郎が、整備工場の常務に昇進したと言った。
「僕は父親の片腕になって、もっと会社を大きくしたい」
二重壱五郎が熱く夢を語り出すと、反対に久美子の心が離れていく。そして、二重壱五郎が、新潟の整備工場を離れられないと分かった時、久美子は、壱五郎との交際を止めた。
25歳まで、誰にも体を許さなかった、身持ちの固い久美子がなぜ、信行に体を許したのかは、本当の所、誰も分からないが、信行が・・・
「次男」と云うことと、冬になると、熱心にスキー場に通い、一途に練習をする様子と、真面目で誠実な性格を知り、信行なら養子に来てくれると考え、久美子なりの「かけ」に出たのだろうか?
続く・・・
(注、この物語は、フェクションであり、名前等の名称は、作者の創作により書かれています。万が一、実在したり、現存したりした場合、ご連絡頂ければ、速やかに対処いたします。尚、地名等は、リアル性を持たせる為に実在の駅名、土地名を使用していますのでご了承ください)