(2-3) 母、秋江の苦悩・・・
冬になると、信行は毎週上越方面のスキー場に滑りに行った。ある時、毎回立ち寄る肉屋のコロッケ売り場に寄ると、店のおばさんが、女性から手紙を預かり、その手紙を信行に渡した。手紙を書いたのは、石打駅で数回すれ違った女性だった。手紙の内容は、スキーを教えて欲しいと・・・そしてスキー場で待ちわせをする。その事がきっかけになり、2人は恋に落ちていった。ある時久美子は「私、農家の長女なの・・・」
深刻な表情で言った。
母の秋江が階段の下側から「久美子!電話よ」と声を掛けた。
久美子が受話器を取ると受話器の向こうから、聞き慣れた声が聞こえた。
「久美子さん、壱五郎です」
電話の主は、二重壱五郎だった。
「電話を掛けてくるのはお断りしたはずです」
「それは、分かっています。でも、僕は、久美子さんの事をあきらめ切れないのです。僕を避ける理由だけ教えて下さい」
二重壱五郎は電話の向こうで懇願するように言った。
「私もそれは申し訳なく思います。でも、無理なのです。お願いです。もう電話はこれで最後にして下さい」
「お願いです、一度会ってください!」
「ごめんなさいもう無理なのです・・・」
壱五郎の言葉を遮って、美子は最後の言葉を言った。受話器を置いた。そのあと正面の壁に向かって
「ふぅ~」
ため息をついた。そのあと、台所に行き、母の秋江に、少し強い口調で。
「お母さん、お願い!壱五郎さんからの電話は取り次がないでね」
「久美子、二重さんはいい人なのに・・・」
父の修造以上に無口な秋江は「いい人なのに・・」と言ったあと、口を閉ざした。
母の秋江が「いい人なのに・・」と言った理由は・・・
久美子の家族や親戚が参加する花見の集まりに呼ばれた壱五郎は、無口な修造と酒を飲み交わしていた。花見がお開きになり、家に帰ると修造は・・
「壱五郎君はいい奴だ・・・」
日頃、余計な事を喋らないし、人を褒めたりしない修造が壱五郎を褒めたのは修造にしては、珍しいことだった。
話はかわり、久美子は、母の秋江の事を同じ女性として尊敬出来なかった。その理由は、父親以上に無口で、感情を表に出さず、修造の言葉に従い、黙って修造のあとをついて行くだけの女性だったからだ。そんな母を久美子は、子供の頃から嫌いだった。
そのこと以上に嫌いだった大きな理由は、親戚の集まりでいつも、叔母達の指示にコマネズミの様に動き回り、理不尽な要求にも黙って従っていた。
秋江は本家の嫁なのに、分家の嫁や他の家に嫁いだ叔母達の理不尽な言動や指示に黙って従う母に不満を持っていた。
久美子が中学生の頃、反抗期でもあったのか強い口調で秋江をなじったことがあった。
「お母さん!!お母さんは、ロボットなの?叔母さん達は、陰でお母さんの悪口を言ってたのよ!」
久美子は泣きながら不満をぶつけた。その時も秋江は久美子の言葉を呑みこむように黙って聞いていた。
二重壱五郎から電話が掛かって来た数日後「ポツリ」と喋った母の苦悩を知り、公美子は絶句し、泣き崩れた・・・
続く
(注、この物語は、フェクションであり、名前等の名称は、作者の創作により書かれています。万が一、実在したり、現存したりした場合、ご連絡頂ければ、速やかに対処いたします。尚、地名等は、リアル性を持たせる為に実在の駅名、土地名を使用していますのでご了承ください)




