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(5)久美子の実家と越後駒ヶ岳

冬になると、信行は毎週上越方面のスキー場に滑りに行った。ある時、毎回立ち寄る肉屋のコロッケ売り場に寄ると、店のおばさんが、女性から手紙を預かり、その手紙を信行に渡した。手紙を書いたのは、石打駅で数回すれ違った女性だった。手紙の内容は、スキーを教えて欲しいと・・・そしてスキー場で待ちわせをする。その事がきっかけになり、2人は恋に落ちていった。ある時久美子は「私、農家の長女なの・・・」

深刻な表情で言った。

スキーシーズンが終わった。信行と久美子は順調に付き合っていた。ある日、久美子から電話が掛かって来た。その会話の中で、夏休みの話が出た。信行が旅行に行きませんか?聞くと、大丈夫だと答えた。


信行は登山も好きだったので、登山は?と聞くと、私も山登りが好きで、登山道具を持っていると云った。信行が日帰り登山はどこの山が良いのだろうか?と聞いた久美子は山登りで日帰りは大変なので泊まりでも大丈夫だと言った。


「本当に泊まりでも大丈夫なの?」

「うん・・・大丈夫だよ・・」


信行は再度確認した。

久美子の家に近い山の方が良いと思ったので。


「上越の山は?」


久美子は越後三山のどれかの山に一度登ってみたかったと答えた。越後三山の事を調べて、その中のどこに登るかを決めてから連絡すると言って電話を切った。


翌日、書店に寄り「越後の山々」と云うガイドマップを購入した。ガイドブックには・・・・


「越後三山は、新潟県魚沼市と南魚沼にそびえる山々の総称で、八海山、中ノ岳、越後駒ヶ岳。そして、三山全域が越後三山只見国定公園に指定されている」


越後駒ヶ岳の標高を調べると「2003m」だった。信行は、越後駒ヶ岳に決めた。ガイドブックの内容をメモした。

数日後、信行は久美子に手紙を書いた。



「拝啓 久美子様   夏休みに登る山は、越後駒ヶ岳でいかがでしょうか?登山道も整備されて様ですし、もし天候が悪化した時は、避難小屋もありますのでご安心ください。宿泊は、奥只見の銀山平の宿が良いと思います。


今回、久美子さんと登ることになったので、会社に通勤するとき、駅の階段を駆け足で上ったり、休日に家の近所の土手を早足で歩いたりして体力強化に努めています 信行より」


書いたその日の内に手紙を投函した。数日後に久美子から返信が届いた。手紙には


「信行さんと同じです。とても楽しみにしています」


信行が待ち望んだ夏休み当日になった。一日目の予定は、久美子を迎えに行き、その足で、奥只見銀山平の宿に泊まり、翌日の早朝に越後駒ヶ岳に登り、登山後、再び同じ宿に泊まる予定になっていた。


信行は、友人に借りた車で長岡に向かった。待ち合わせ場所は、久美子の家から歩いて5分ほどの距離だった。その場所に行く方法は、久美子の手紙に書かれていた。


関越高速道路を長岡で降り、悠久山方面に車を走らせた。その近辺は広大な田んぼが広がり、稲穂の青さが綺麗だった。


久美子が書いた地図の指示通り走ると。地図に書かれた神社が在った。側道に車を停めて神社の方を見ると、久美子がいた。車を見つけると、信行に向かって手を振った。


「待った?」

「私も来たところ・・・・」

「久しぶりだね」

「うん・・・」


久美子は信行に会えた嬉しさを隠すように小さな声で返事をした。荷物を後部座席に置き、助手席に乗り込んだ。


「天気が良さそうで良かったよね」

「うんっ!1週間前から新聞の天気予報ばかり見ていたわ」


嬉しそうに言った。

進んで来た道をそのまま直進すると、久美子は


「その信号を右に曲がって」


奥只見方面はこのまま、直進で行けるはずなのだが、指示に従い、右に上がった。

曲がった先には、田んぼが広がっていた。その時久美子が・・・


「車を停めて・・・」


信行は、久美子が忘れ物をしたと思った。


「なにか忘れ物?」


久美子は首を横に振り、田んぼの先に見える住宅に指をさした。


「あれが私の家なの・・・」


指をさした先には、防風林に囲まれた敷地の中に大きな家が建っていた。敷地の広さに信行は・・・


「凄い家に住んでいるのだね・・」

「あの周りの田んぼも全部お父さんのものなの・・」


久美子がお父さんの「もの」と言ったのが気になった。久美子は、自分の家を見せると、さあ、行きましょう。と言った。

車を運転しながら


「手入れが大変でしょ?」

「父も母も働き者なの。日が昇ると田んぼに出て、暗くなるまで働いているわ」


久美子さんも手伝うの?と尋ねると、忙しい時は手伝うと言った。その後


「私は長女だからこの土地を守らないと駄目なの、農家の長女だから・・」

「えっ?弟さんは?」

「2人姉妹なの・・・」


久美子は再び


「私が長女だから、この土地を守るしかないの・・・」


信行は、久美子の言った意味を深く考えなかった。



続く・・・・

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