(3-9)カッコよく滑っているか見て欲しい・・・
<< 第1章4話 をお読み頂くと信行目線の場面になります。是非お読み下さい。宜しくお願いします。>>
丸山食堂を出ると久美子は信行の指示で、軽い準備体操をした。
準備体操のあと、信行は久美子に、僕は、人に教えるほど上手ではないので、一緒に練習しながら滑りましょうねと言った。
リフトに乗り、ゲレンデ上部から信行が滑りだすと、久美子は後を追った。
先に信行が止まって、あとから滑って来る久美子の滑りを見た。久美子は信行のすぐそばに止まり、笑いながら。
「ねっ!下手でしょ」
「いえっ変な癖がないので、基本練習を積めば格段に上達しますよ」
「こっちのターンの時、内側のスキーを持ち上げてスキーを揃える癖が・・・」
「右ターン左谷足の局面ですよね。あの程度だと簡単に直りますよ」
信行は少し考えたあと、基本練習の課題を「プルークボーゲン」と言った。その理由は、左右均等なターンを安定した姿勢、安定した速度で滑ることで、スキー操作が格段に上がると信行は説明した。
だが、久美子は、その名前を聞いた事があるが、どの様な技術なのかは、よく理解出来なかった。思わず「プルークボーゲンって?」久美子は聞き返した。
久美子の返事に信行は「えっ?」一瞬驚いた表情をしたが、難しい事を考えないで、僕の真似をして気楽に滑って下さいと言った。
そのあと、信行はスキーをV字に開いてゆっくり滑り出した。
久美子は、必死で信行の後を追ったが、信行のターンと同じ軌道をトレースして行くと、不思議な事にスピードをコントロール出来、左右均等でスムーズなターンで滑れた。
信行は急にゲレンデの横に止まり、なにか考え込んでいる。久美子も信行の横に止まった。
しばらくして「僕の後に着いて滑ってください」と言うと、さっさと滑り出した。信行は先ほどと同じV字でゆっくり滑ってくれた。
久美子は、信行の後を追いながら、この場面は何処かで体験したことがあると思った。それは夢の中だったのか、現実なのか思い出せないが、たしかに過去に経験した場面だった。
その場面は、この日の夜に思い出した。その部分は、夜のシーンで書きますので、お待ちください。
お昼は、丸山食堂で食べた。信行は、申し訳なさそうに久美子に謝った。
「西郷さんに上手に教えられなくて本当に申し訳なく思ってます」
「えっ?凄くよい練習になってます。信・・ぁ!田中さんの後を追うとスムーズにターンが出来ます」
久美子は、思わず信行さんと言いそうになり、慌てて田中さんと言った。その後久美子に信行が驚く事を頼んだ。
「午後、僕の滑りを見て欲しいのです」
「田中さんの滑りを・・・私が?」
「実は、僕も西郷さんと同じで、右ターン左外足の時、スキーの上に上手に乗れないのです」
「えっ?田中さんも私と同じ?、私には良いお手本ですが・・・」
久美子は、信行の言っている意味が理解出来なかったし、自分より巧いスキーヤーにアドバイス出来るとは思わなかった。
午後ゲレンデに出ると久美子に説明を始めた。
「西郷さんと僕が右ターンが不得意な原因の根源は同じだと思います。難しい事を考えず、午前中の練習を繰り返します。ただ僕は発展形に進みます。僕の滑りを見て、滑りが変わったか客観的に見てください」
「客観的に?」
「そうで、技術的うんぬんより、滑りが変化したとか、カッコよく見えるとか」
久美子は、「カッコよく滑っている」が漠然としていて、首を傾げてしまった。
リフトに乗ると信行は、ゲレンデを滑るスキーヤーに指をさした。
「あのスキーヤーの印象は?」
「印象ですか?・・・強引に回転している、上体が安定しない・・・です」
「次は、先ほどのスキーヤーと比べてどうですか?」
「え~っと、先ほどのスキーヤーと違って、滑り方がカッコいいです・・・」
久美子が答えると、信行は微笑み「その印象で良いのでお願いします」と言った。
<<注、この部分は、某ナショナルデモの某先生が、夜のミーティングで語った話です。その話が印象に残ったので、物語に使わせて頂きました。>>
日本のトップスキーヤーの某デモは、他のスキーヤーの一歩先を考え、実践しているスキーヤーです。
僕はデモの講習に参加しました。夜のミーティングの時。
「革新的な滑りを研究してそれを実践していますが、その滑りは最初に見て貰うのはどなたですか?」
参加者の一人が質問すると、某デモは
「嫁に見て貰います」
ミーティングの参加者全員が「えっ?」驚いた。某デモは話を続けた。
「嫁がカッコ良くないと評価した滑りは、他でも評価されませんでした。でも、素敵でカッコよく滑ってると嫁が評価すると、その滑りは高い評価を受けます」
ミーティングに参加した全員が驚き、そして、心に響いた話でした。思い起こせば、数年前まで、某学者が提唱していた「ハイブリッドなんとか」は、カッコ良くなかった。
続く
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