(3-8)待ち合わせ。
ーーー出会い前日ーーー
久美子は、スキーウエアを着て、ドレッサーの前に立ち、モデルの真似をして、クルリと回転したり、鏡に向かって笑ったり、スキーを滑る格好をした。
「こっちのターンが駄目なのよね。スキーが揃えられないから内スキーを持ち上げてしまうの・・・」
「それは君が下手だからよ」
「どうすれば直るの?」
「練習あるのみだよ」
「練習って?」
「それは明日、信行さんが教えてくれるよ」
一人芝居をしながら久美子はある事が気になった。それは、明日会った時、いきなり「信行さん」と呼んで良いのか?「常識的には田中さんだよね・・・」久美子は考えた末、納得した。
信行に好意を持ったのは、久美子の方だった。一度目の出会いは、二重壱五郎に誘われ、スキー大会に参加した時、スキー教師の二重が、スキー学校の生徒で常連の信行にスキー大会のコースと大会の概要を久美子に説明して貰いたいと頼んだ。
次は二重と久美子が上越国際スキー場に滑りに来た時、たまたま滑りに来ていた信行は、ゲレンデに居た二重に話し掛けた時だった。
信行の事を久美子は、スキー大会の時、ゲレンデを案内してくれた人だと気が付いたが、信行はまったく気が付かなかった。
二重との話が終わり、信行はその場を去った。滑って行く信行の後ろ姿が久美子の父、修造にそっくりだったので、久美子の心の中に残ったのだ。そして、石打駅の待合室で信行を見つけた。
男女を結ぶ赤い糸が本当に存在するとしたなら、今回は、久美子が勝手に信行の小指に赤い糸を結び付け、そして、強引に引き寄せたのだ。
世間ではこの事を「ひと目惚れ」と言う。今回は「久美子のひと目後ろ姿惚れ」男女の縁は、一方が気づかない内に接近する。
ーーー待ち合わせ当日ーーー
久美子は8時頃、食堂に到着した。食堂は開店前だったが、田中信行と待ち合わせをしていると言うと、食堂のオヤジさんは、ストーブに火を入れてくれた。
しばらくすると信行が店内に入って来た。久美子は、慌てて立ち上がり、信行に向かってお辞儀をした。言葉を掛けたのは、信行だった。
「西郷さんですか?」
「はい、今日は無理なお願いをして申し訳ないです。ご迷惑でしたか?」
「いえ・・・手紙を頂いて嬉しかったです。早速滑りに行きましょうか。直ぐに着替えをします」
信行は急ぎ足で奥の部屋に入り、着替えをした。久美子はすでにスキーウエアだった。
二人はゲレンデに出て、リフトに乗った。信行は久美子に話し掛けた。
「手紙に書かれていた住所は、長岡市でしたが長岡は新潟市の方ですか?」
「長岡は、新潟市の手前です」
「有名な浦佐スキー場の近くですか?」
(注2015年時点、浦佐スキーは閉鎖中)
久美子は「浦佐と新潟市の中間ぐらいかしら」答えた。
「ぢゃ~ぁ、スキーがお上手なのでは?」
信行の問いかけに久美子は笑いながら返事をした。
「都会の方は、雪国に住んでいる人が全部スキーが上手だと思っているみたいですが、スキーをしない人の方が多数ですし、私みたいに下手なスキーヤーの方が多いのです。その証拠を今お見せしますわ」
久美子は、少し自嘲気味に笑った。
続く・・・
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