(3-10)横滑りは大切な技術
久美子と信行がリフトを降りて直ぐにリフトが止まった。2人がこの日の最後の乗客だった。
信行は、練習最後の仕上げをしながらゲレンデを降りると言った。今日の練習バリエーションの横滑りをしながらゲレンデの端まで滑った。久美子も同じように後を追った。
お昼頃も横滑りの練習をしたのだが、上越地方特有の湿雪だったため、雪面抵抗が多くスキーが引っかかり、上手に横滑りが出来なかった。夕方近くになり、気温が下がり、スキーがよく滑る様になった。2本のスキーにしっかり乗って行くと簡単に横滑りが出来た。
久美子は信行に表情を崩しながら興奮気味に言った。
「出来た!出来ました。お昼に出来なかった横滑りが」
「お昼頃の抵抗が多い雪質の中、外向傾姿勢を意識した練習の成果が出たのです。
お昼は上手く出来ず、後傾姿勢や上体が伸びきり、その結果、斜滑降になり暴走をくり返しましたよね。あの時、久美子さんは落ち込んでましたが、僕は、この時間になると、きっと出来ると思ってました。
横滑りは、外向傾姿勢、股関節の柔軟性等々、スキー技術の根幹をなすものです。数年前まで横滑りやプルークボーゲンが否定されていて、多くのスキーヤーはスキーをずらすのが苦手でした」
久美子に対して、横滑りが出来る様になると予想をしていたと言った。次にバッジテストとの話をした。
「実は、僕が挑戦しているバッジテストの1級に横滑り種目が加わり、僕も初めての受験の時、横滑り種目で合格点を貰えなかったのです」
「バッチテスト?」
「バッジテストは、SAJ(全日本スキー連盟)の級別テストです。合格するとバッジを授与されるので「バッジテスト」と呼ばれてます。5級~1級まであります。1級は上級者の証です。僕は、数年前から1級を受けているのですが、あと一歩の壁が乗り越えられないのです」
「厳しいテストなのですね・・・」
「本当に鬼の様なテストです。でもバッジテストの上には、テクニカル検定、クラウン検定があります」
「テクニカル検定?」
「テクニカルに合格したスキーヤーは、師匠と呼ばれ、クラウンに合格したスキーヤーは、神とか宇宙人と呼ばれます。半分冗談ですが半分は、憧れと尊敬を込めて呼びます」
2人がゲレンデの端で話し込んでいると、ゲレンデ上部に赤いウエアを着たスキーヤーが2人を見ている。
「あっ!パトロールだ。最後のゲレンデ点検をしているのです。僕達が降りないとパトロールの仕事が終わりません。急いで下山しましょう」
丸山食堂に戻り、2人は椅子に腰を下ろした。スキー靴を脱ぐと、心地よい疲労感が全身を包んだ。
「今日は楽しかったです」
「ごめんね。僕の滑りを見て貰い、時間を潰してしまいました・・・」
「そんなことないです。滑りを客観的に見れました。滑りの違いも何となく理解出来ましたし、バリエーション練習も勉強になりました。そうそう!プルーク、え~っと!プルークなんでしたっけ?」
「ボーゲンだよ・・・」
「そのボーゲンは凄くよい練習になりました。あと横?・・斜滑降?」
「横滑りと斜滑降です」
久美子は なにも覚えていない事が恥ずかしくなり、笑うしかなかった。
つづく・・
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