(3-4)私、乙女になちゃったの?
帰りの列車の中で栄子が興奮した様子で、今日の富川先生って凄い人だったと言った。
その先生は、全日本スキー技術選手権大会で、毎回、上位に入っているスキーヤーで、SAJのデモンストレーターの日本のトップスキーヤーだと説明した。
栄子は、富川先生の様な美しい滑りを見たことが無いとウットリしながら言った。
「栄子ちゃん今日、習った内容は?」
「え~ぇっと骨盤のこうして・・・脛の向きがこうで・・スキーをたわまして」
「栄子ちゃんや私には難し過ぎるみたいね」
「でも、本当にカッコよかったわ、富川先生のお嫁さんになったら、毎日、無料で教えて貰えるのにな~」
栄子は、夢の様な事を語った。だが、今の久美子には、有名で凄い先生の滑りより、信行がコブ斜面を一心不乱に滑る姿に魅力を感じたし、コブから飛び出し、背中から転倒しても、直ぐにコブ斜面にトライして必死に滑る姿が感動的だった。そして尊敬の念を抱いた。
そんな久美子だったが、ゲレンデで信行に話しかけられなかった。それは、信行が滑っている時は、誰も寄せ付けない威圧的な雰囲気があり、久美子にはそれが神聖な姿に見えた。その領域は、冒せないと思った。遠くで見るしかなかった。
列車の車窓から、夕暮れの空を見て久美子は「あの人にスキーを教えて貰いたい・・・」その時、栄子が久美子の膝を「ポンッ!」と叩き。
「ねえっ!来週、富川先生のスペシャルレッスンが上国(上越国際スキー場)で開催されるのだけど、来ない?」
「栄子ちゃんは、参加するの?」
「うんっ!レッスンが終わって、直ぐに申し込んだよ。私、富川先生の事を思うと、胸が苦しくなるの滑る姿は、芸術作品なの芸術なの・・・」
「それって恋に憧れる乙女だわ(笑い)」
久美子は「栄子より乙女なのは、私かしら?」直ぐに「わたし、乙女チックな恋に憧れてないわ、私の気持ちは本物なんだから」
複雑に絡まる久美子の心は完全に理性を失っていた。そして、ゲレンデ滑る信行を思い出すと、心臓が「きゅっ」と縮む感覚に襲われた。
栄子に富川先生のスペシャルレッスンに誘われたが、断った理由は、来週も石打スキー場に滑りに行き、信行に会いたいと思ったからだ。
長岡駅に母の秋江が迎えに来ていた。車に乗った久美子は、無口だった。いつもと違う様子に母の秋江が。
「元気がないけど、スキー場で何かあったの?」
「あっ!ううんっ!何もないよ」
秋江に心の中を見透かされたようで、久美子は焦った。
家に着き、自分の部屋に戻ると、机の椅子に座った。しばらく瞑想したあと。
「よしっ!手紙を書くわ!覚悟しなさい!」
自分の覚悟なのか、読む方の覚悟なのか分からなかったが、手紙を書く決心をした。だがすぐに暗礁に乗り上げた。
「どうやって渡すの?直接?それは無理よ」
「待合室で手紙をわざと落として拾って貰う・・・それこそ馬鹿な考えだわ。あ~ぁ!どうしましょうか?」
久美子は、自分のばかばかしい考えに笑ってしまった。とりあえず信行に手紙を渡す方法は後回しにして、久美子は、引き出しからピンク色の便箋を取り出し、ペンを持った。
「え~ぇっと、拝啓・・・こんにちは!・・・よっ!・・・ハロ~ォ!・・お元気?おげんた?」
書きだしの部分からペンが進まなかった。その時、秋江が「お風呂に入りなさい」と階段の下から呼んだ。
第1章 1話~3話を読んで頂ければ、話の内容がもっと膨らみますので、是非、読んで下さい。 作者 南茶
続く・・
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