(2-9)運命を信じますか?赤い糸を信じますか?
冬になると、信行は毎週上越方面のスキー場に滑りに行った。ある時、毎回立ち寄る肉屋のコロッケ売り場に寄ると、店のおばさんが、女性から手紙を預かり、その手紙を信行に渡した。手紙を書いたのは、石打駅で数回すれ違った女性だった。手紙の内容は、スキーを教えて欲しいと・・・そしてスキー場で待ちわせをする。その事がきっかけになり、2人は恋に落ちていった。ある時久美子は「私、農家の長女なの・・・」
深刻な表情で言った。
二重壱五郎に誘われ久美子はスキーに行くことになった。壱五郎の自宅は、新潟市内だったので、通り道の長岡に住む久美子の家に迎えに行った。車に荷物を積んでいる時、久美子の父の修造は家から出て来て、壱五郎に久美子の車を引き上げてくれたお礼を言った。
スキー場に向かう車の中で壱五郎は、父親の修造の印象を語った。
「久美子さんのお父さんは、優しそうな人だね」
「そうです。優しくて、逞しくて、そして、尊敬できる人よ」
久美子は、壱五郎が修造のことを褒めてくれたのが嬉しかった。
「お父さんを超える様な男性ではないと結婚相手にならないでしょ?」
「そんな事は無いです。そんなに理想は高くないから、わたしは・・・」
「それは安心です」
久美子は、上越国際スキー場で滑るのが初めてだった。壱五郎に案内して貰い、いろいろな斜面を滑った。久美子はスキー場の感想を言った。
「このスキー場のゲレンデは広大ですね」
「上国(上越国際スキー場の略称)は、この辺りでは、一番大きいスキー場です。でも、ゲレンデ間の移動に時間がかかるのが欠点ですけど」
2人が大沢ジャイアントコースを滑っていると、1人のスキーヤーが壱五郎を呼び止めた。
「二重先生!」
「おっ!田中君練習?」
壱五郎に声をかけたスキーヤーは、その後、久美子と恋に落ちる、田中信行だった。
スキー大会に続き、再び信行と久美子は遭遇したのだが、この時も信行は、久美子の事は印象に残らなかった。その理由は、ゴーグルをかけたり、帽子を被ってたりすると、素顔が分からないからだ。
だが、ゴーグルをかけた久美子と違い、信行は2回ともゴーグルを外していたので、信行の素顔が確認出来たのだ。
たび重なる偶然の出会いは、この2人を神様が引き寄せたのだろうか?それとも運命の出会いなのだろうか?。この時、壱五郎が居たのは、神様の悪戯なのだろうか?神様の悪戯としては、酷過ぎた。それは、偶然の出会いをさせたのは、二重壱五郎本人だったからだ。
信行は、SAJ(全日本スキー連盟)のバッジテストの1級に挑戦していたが、毎回、ロングターン種目で合格点が貰えず、不合格が続いていた。
「はい!ロングターンの練習です。毎回、ロングターンが駄目ですから」
「そうだね、あと少しが難しい。でも最後は、練習あるのみだからね」
信行は「頑張ります」と言い残し、斜面を滑り降りて行った。その後ろ姿を見ながら久美子は「お父さんの後ろ姿にそっくりだわ」とつぶやいた。
時は冬から春に移り。久美子と壱五郎は付き合いだした。付き合いだしたと言うより、壱五郎の猛アタックに久美子の心が少し動いたのだが、最後は久美子が付き合うのを止めた。
その理由は、結婚を意識しだした頃、二重壱五郎が突然。
「オヤジが市内に土地を買ってくれたので、その土地に家を建てて、久美子さんと一緒に住みたいな・・・」
プロポーズらしき事を言った。その時も久美子は、他の場所に嫁ぐ気持ちがない事を訴えるつもりで言った。
「私、農家の長女だから、家を出てお嫁には行けないわ。でも来てくれるなら・・・」
遠回しに「婿養子」に来てくれるなら結婚を前提にお付き合いを考えると伝えると。
「僕が婿に?それもありかな?」
二重壱五郎本人は、冗談で返事をしたのだが、久美子はその言葉に期待した。だがその期待は、すぐに崩れ去った。
ある日、二重壱五郎が整備工場の常務に昇進したと言った。
「僕は父親の片腕になって、もっと会社を大きくしたい!」
壱五郎が仕事のことを熱く夢を語り出すと、反対に久美子の心が離れて行った。そして、壱五郎が、新潟の整備工場を離れられないと分かった時、久美子は、壱五郎との交際を断った。
そんな久美子の態度は非情だと思えるが、心の底から壱五郎に好意を寄せていなかったので、細く芽ばえていた愛情の茎は簡単に折れてしまったのだ。
だが反対に、壱五郎の心の中は、久美子のことで溢れ、忘れる事など出来なかった。
続く・・・
この章のストーリー展開は、この物語の第1章から読んで頂くと、より理解出来ると思います。どうか、ご面倒をお掛けしますが、宜しくお願い致します。
注、この物語は、フェクションであり、名前等の名称は、作者の創作により書かれています。万が一、実在したり、現存したりした場合、ご連絡頂ければ、速やかに対処いたします。尚、地名等は、リアル性を持たせる為に実在の駅名、土地名を使用していますのでご了承ください)




