(2-6) 信行の恋敵 二重壱五郎(にじゅういちごろう)
冬になると、信行は毎週上越方面のスキー場に滑りに行った。ある時、毎回立ち寄る肉屋のコロッケ売り場に寄ると、店のおばさんが、女性から手紙を預かり、その手紙を信行に渡した。手紙を書いたのは、石打駅で数回すれ違った女性だった。手紙の内容は、スキーを教えて欲しいと・・・そしてスキー場で待ちわせをする。その事がきっかけになり、2人は恋に落ちていった。ある時久美子は「私、農家の長女なの・・・」
深刻な表情で言った。
---解説---
二重壱五郎は(にじゅういちごろう)、久美子の元彼だった。一時は、二重壱五郎を結婚の対象として真剣に考えたが、二重壱五郎は、新潟を絶対に離れないと言った.西郷家の婿に入って貰う事を望んでいる久美子の心は離れて行った。だが、壱五郎は、久美子の事を諦められなかった。
話を2人の出会いに戻そう。
久美子と壱五郎の初めての出会いは、田中信行と石駅待合室ので出会う一年前の冬だった。
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壱五郎は、上越方面で開校しているSAJ公認のスキー学校で、スキーを教えていた。本業は、父親が経営する自動車整備会社で働いていたので、土曜日、日曜日の非常勤講師だった。
二重壱五郎がスキー学校の仕事を終え、新潟に向かって雪道を走っていると、白い車が道路の側溝にタイヤを落し、傾いて停まっていた。その車の持ち主が久美子だった。
壱五郎は車を停め、外に出ると、スタックした車の状況を確認したあと。
「溝にタイヤが落ちてますね。JAFかレッカーを呼びました?」
「それが連絡方法が分からなくて困っています」
「ワイヤーロープを持っているので、今、車を引き出してあげます。僕の車は四輪駆動ですから大丈夫ですよ」
「助かります。宜しくお願い致します」
壱五郎は、トランクからワイヤロープを取り出し、手慣れた手つきでバンパーの下側に付いている牽引フックにワイヤロープを繋げた。
「車を引っ張りますので、貴女は、ハンドルを右に半分ほど回して、両手でハンドルを握って、しっかり固定をしてください!」
的確な指示を出したあと、壱五郎は四輪駆動車に乗り込み、車をゆっくり動かし、ワイヤーロープのたるみを無くした。そしてタイミングを見計らい、一気にアクセルを踏むと、いとも簡単に車を側溝から引きだした。側溝からタイヤが出たことを確認すると、壱五郎は、手早くワイヤロープをフックから外してトランクに収めた。
「これで大丈夫です。お気をつけて!」
「あっ!お礼をしたいので、連絡先を教えていただけませんか?」
「そんなのは必要ないです、困っている時はお互い様ですよ」
「でも・・・」
壱五郎は、そのまま立ち去った。久美子は、家に帰ると、父の修造に、ことのてん末を話した。
「それはお礼をしなくては駄目だね」
律儀な性格の修造は、車の特徴だとか、何か手掛かりはないのか?と久美子に聞いた。
「あっ!そう言えば、車のリアガラスに「ふたえ自動車整備工場株式会社」のステッカーが貼ってあったわ」
「ふたえ自動車?」
「漢字の二に重なるって書いてふたえでは?」
「漢字の二と重なる?それは二重だよ。二重自動車整備工場だよ。新潟市では名の通った会社だ。二重自動車さんに聞けば車の持ち主を見つけ出せる可能性があるから、早速、工場の電話番号を調べなさい」
「はい!」
久美子は、NTTの電話案内に電話を掛けた。
「お父さん!二重自動車整備工場は、新潟市内や三条市、上越市に在ったわ。系列店みたいなので、最初に本社に掛けてみるわ」
修造はうなずき、車の特長を的確に説明するのだよ。とアドバイスをした。
続く
注、この物語は、フェクションであり、名前等の名称は、作者の創作により書かれています。万が一、実在したり、現存したりした場合、ご連絡頂ければ、速やかに対処いたします。尚、地名等は、リアル性を持たせる為に実在の駅名、土地名を使用していますのでご了承ください)




