(2-4) 母の嗚咽・・・その1
冬になると、信行は毎週上越方面のスキー場に滑りに行った。ある時、毎回立ち寄る肉屋のコロッケ売り場に寄ると、店のおばさんが、女性から手紙を預かり、その手紙を信行に渡した。手紙を書いたのは、石打駅で数回すれ違った女性だった。手紙の内容は、スキーを教えて欲しいと・・・そしてスキー場で待ちわせをする。その事がきっかけになり、2人は恋に落ちていった。ある時久美子は「私、農家の長女なの・・・」
深刻な表情で言った。
「お母さん・・・お兄さんてどんな人だったの?」
「良い子だったよ・・・」
久美子の問いかけに秋江は作業の手を止め、仕分けをしていた野菜を見つめていた。そして秋江は意を決して語り出した。・・
「久美子・・・お母さんは、健一の事を思い出すと頭の中が狂いそうになるの・・」
「エッ?!」
その言葉に久美子は驚き、秋江を見つめた。。
そして、ポツリ、ポツリと話を続けた。
「あの事故が起こったのは、健一が5歳の時だった・・あの日、健一を連れて畑の手入れに行ったの・・・健一は、私の側で遊んでいた。しばらくして健一が近くにいないことに気がついたの。周りを見渡しても見つからなかった。健一はどこにもいなかったの・・・慌てた私は、必死に健一を探したけど、まるで神隠しにあったように消えてしまったわ・・」
ここまで話すと秋江は、涙を流し、言葉を詰まらせた。その時、作業小屋に親戚のトミ子が入って来た。
「トミ子叔母さん・・・」
「これ、旅行のお土産・・・」
久美子に旅行のお土産を渡した。
久美子が「ありがとう」とお礼を言うと、トミ子は軽くうなずき、言葉を詰まらせ泣いている秋江に・・
「秋江さん、それ以上話さなくて良いわ、私が久美子ちゃんに話すから・・」
トミ子は、秋江の変わりに健一が行方不明になった日の出来事を話し出した。
「久美子ちゃん達には健ちゃんが病気で死んだと教えて来たけど本当は、川で溺れて、死んだのよ・・」
「川で溺れて?」
「そう・・川で・・」
「あの日、秋江さんは、私の家に顔面蒼白で、泣きながら飛び込んで来たわ。どうしたのって聞くと、健ちゃんの姿が消えたって・・・・」
「私も驚き、あちこち連絡をしたけど、誰も健ちゃんを見かけなかったって・・」
「そのあと、村人総出で健ちゃんを探したけど、その日は、見つけられなかった。翌日に、酒匂川の下流で健ちゃんは発見されたの・・・」
「川で?」
「健ちゃんの変わり果てた遺体にしがみつき、秋江さんは狂った様に泣いていたわ・・」
「検死の結果、溺死だった。健ちゃんの小さな右手は、土筆をしっかり握っていたの」
「土筆を?」
「秋江さんの話では、健ちゃんが土筆を見つけて、秋江さんに見せた。その土筆を見て、いっぱい採って、お父さんのお酒のつまみにしましょうって・・・
「それで健ちゃんは、川の土手に生えている土筆を探しに行ったみたいなの。そして、足を滑らせて・・・」
トミ子の説明に秋江は我慢出来ず、嗚咽を漏らした。久美子も両手で顔を覆い、泣いた。
話すトミ子も涙声になり・・・
「秋江さんの苦労は健ちゃんが死んだ時から始まったの。でも、苦労の先にもっと酷い生き地獄が待ってたの・・・・」
続く・・・
(注、この物語は、フェクションであり、名前等の名称は、作者の創作により書かれています。万が一、実在したり、現存したりした場合、ご連絡頂ければ、速やかに対処いたします。尚、地名等は、リアル性を持たせる為に実在の駅名、土地名を使用していますのでご了承ください)




