13話
扉を開けると、教室にはすでに二十人ほど集まっていた。
同じ理科一類で、初修外国語にフランス語を選んだ学生たちだ。
前方の席で配布資料を読んでいる者もいれば、近くに座った相手と早くも話し始めている者もいる。全員が初対面のはずなのに、高校時代からの友人を見つけたのかと思うほど自然に笑っている二人組までいた。
入るのが遅すぎたわけではない。
早く来た者同士で、先に関係が始まっていただけだ。
『空いている席の中では、右側の後ろから三列目が適切です』
『何を基準に選んだの?』
『黒板と教員の位置を確認しやすく、周囲との会話も始めやすい位置です。窓からの反射も現在の時間帯なら問題ありません』
『大学の席まで最適化しなくていいよ』
『では、好みで選んでください』
言われた場所を見る。
確かに、前すぎず後ろすぎず、隣には話しかけやすそうな男子学生が座っていた。
自分の好みで選んだ結果、ジンと同じ場所になった。
「ここ、空いてる?」
「空いてるよ。どうぞ」
椅子へ座ると、相手は机の上に置いていた資料を少し自分の側へ寄せた。
短めに整えた髪に、細い銀縁の眼鏡。服装は無地のシャツに黒いパンツと簡素だが、靴だけは鮮やかな青だった。
「俺、益井亮太。理一で、フランス語」
「佐村和希。僕も同じ」
「この教室にいる時点で分かるか、そりゃ」
「確かに」
「出身は?」
「埼玉。今はこの近くで一人暮らししてる」
「もう引っ越したんだ。俺は千葉から通う予定なんだけど、朝が早すぎて早くも後悔してる」
話し方に妙な力が入っていない。
初対面の相手へ好かれようとするより、自分が話しやすいように話している。僕には、そのくらいの人間のほうが付き合いやすかった。
亮太と高校や通学時間について話していると、教室の前方から女子学生がこちらへ歩いてきた。
「ここの席、使ってもいい?」
亮太の前にある空席を指している。
「もちろん。俺たちも今来たところ」
「ありがとう」
肩より少し長い髪を耳へかけ、鞄を椅子の横へ置く。
目元の柔らかい、可愛らしい顔立ちだった。淡い色のブラウスと細身のデニムを合わせ、小さなピアスだけを着けている。服の形も色も、本人の雰囲気によく合っていた。
「生沢玲奈。神奈川から来ました」
「益井亮太。こっちは佐村和希」
「よろしく。二人は前から知り合い?」
「今知り合ったばかり」
亮太が答えると、玲奈は少し笑った。
「それにしては、もう仲よさそうだったから」
「益井が話しやすいんだよ」
「佐村も話しやすいよ。最初に隣へ来たのが、無言の人じゃなくて助かった」
「本人を前にして、比べる相手を作らないでくれる?」
「褒めてるんだからいいだろ」
「なら、受け取っておくよ」
三人で話しているうちに、残っていた席も埋まっていった。
やがて教員が入り、今後の日程や履修登録についての説明が始まる。高校と違い、渡された時間割どおりに教室へ行くだけでは済まない。必修科目以外は自分で選び、希望者が多ければ抽選になる授業もある。
説明を聞きながら、前方から回ってきた名簿へ名前を記入した。
『今までに紹介された人の名前、全部覚えてる?』
『はい。顔、座席、発言内容も関連づけて保持しています』
『僕も名前くらいは覚えてるよ』
『承知しています』
『張り合ってるわけじゃないからね』
『私も競争していません』
相棒になっても、こちらの軽口へ都合よく合わせてくれるわけではない。
午前の説明が終わると、教員から昼食を兼ねてクラス内で交流するよう勧められた。
命令ではないが、初日に一人で帰るのも惜しい。
「二人とも、昼どうする?」
玲奈が鞄を持ちながら振り返った。
「学食を見てみようと思ってる」
「僕も」
「なら三人で行くか。俺、大学の学食って一度行ってみたかったんだよな」
「高校にも食堂なかった?」
「あったけど、大学の学食とは違うだろ。何となく自由な味がしそうじゃん」
「料理の味は、自由になっても変わらないと思うよ」
「佐村って、思ったより夢がないな」
「大学の学食に何を期待してるんだよ」
教室を出る頃には、同じ方向へ向かう学生が十人近くに増えていた。
全員で一つのテーブルを囲めるわけではないため、食堂へ着くと自然に小さな集まりへ分かれる。僕は亮太、玲奈と、途中で加わった男子学生二人と同じ席についた。
話題は受験から出身高校、住んでいる場所、選ぶ予定のサークルへ移っていく。
僕がセンター試験の直前に志望校を変えたことは話さなかった。
尋ねられれば隠すほどのことでもないが、自分から披露すれば、東大へ受かった話より十一日で成績を上げた方法へ関心が集まる。初対面の相手へ、説明に困る話題をわざわざ提供する必要はない。
「佐村君は、何かサークル決めてるの?」
「映像制作系を一度見に行こうと思ってる。まだ入るとは決めてないけど」
玲奈が箸を止めた。
「わたしも気になってた。新歓の上映会が土曜日にあるところ?」
「たぶん同じだと思う。短編映画とミュージックビデオを流すところだよね」
「そう、それ。一人で行くか迷ってたんだよね」
「なら、一緒に行く?」
別に特別な誘いではない。
同じクラスで、同じ催しに興味を持っている。それなら別々に行く理由もなかった。
「行く。知ってる人がいるなら安心だし」
「益井は?」
「俺は運動系を見る予定。高校でバスケをやってたから、続けるか迷ってる」
「映像に出る側なら歓迎されるかもしれないよ」
「それ、俺に演技をしろってこと?」
「背が高いから、画面には映えそう」
玲奈にそう言われ、亮太は満更でもなさそうな顔をした。
食事を終えて建物を出たところで、地図を持った外国人の男性から英語で呼び止められた。
探している建物の名前は聞き取れたが、僕も正確な場所までは知らない。
『ジン、場所は?』
『この道を直進し、二つ目の角を左です。現在地から徒歩で約三分です』
教えてもらった道順を英語で説明する。
男性は一度聞き返したものの、僕が目印になる建物を加えると理解し、礼を言って歩いていった。
「佐村君、英語話せるんだ」
「日常会話なら困らないくらい」
「聞き返されても、すぐ別の言い方が出てくるのすごいね。わたしなら最初の文章をもう一度ゆっくり言って終わると思う」
「通じなかった文章を遅くしても、通じないことはあるからね」
平静に答えたが、頭の中ではジンから別の評価が返っていた。
『三つ目の文で、前置詞の選択に不自然さがありました。また、二つの母音に日本語話者特有の傾向があります』
『今は褒められてるところなんだけど』
『玲奈さんの評価を否定してはいません』
『あとで直して』
『承知しました』
高校までの英語でも、言いたいことを伝えるだけなら困らなかった。
ただ、知っている文章を組み立てて話すのと、考えたことがそのまま英語になるのは違う。世界のどこへ行っても言葉に困らない状態を作れるなら、早めに身につけておいたほうがいい。
『夏までに、考えたことがそのまま英語で出るようにできる?』
『現在の語彙と文法理解であれば可能です。毎日、会話と発音の訓練を行うことを推奨します』
『一日どのくらい?』
『三十分を基準にします。移動中にも実施できます』
『じゃあ、今日からお願い』
『承知しました。先ほどの道案内から修正しますか?』
『今じゃなくて、帰ってからにして』
玲奈たちと話している最中に、頭の中で英語の発音練習まで始めるほど器用ではない。
入学式より一週間早く、大学の授業が始まった。
最初のフランス語では、アルファベットの読み方と簡単な挨拶から教わった。
英語と同じ文字を使っているのに、音は大きく異なる。教員が一度発音した単語をジンは正確に記録し、口の開き方や舌の位置まで僕へ説明できた。
『この発音で合ってる?』
『子音は適切です。母音を発音する際、唇を僅かに前へ出してください』
声に出す前に、頭の中で音を作り直す。
指名され、教員に続いて発音すると、一度で次へ進んだ。
隣に座っていた亮太は、同じ単語を三度繰り返している。
「佐村、もうフランス語やってた?」
「今日が初めてだよ」
「一発で通ったじゃん」
「耳はいいほうなんだ」
「俺の耳にも同じ音で聞こえてるはずなんだけど、口から出ると違うものになる」
「舌の位置が少し違うんじゃない?」
休み時間に、ジンから聞いた説明を簡単な言葉へ直して伝える。
亮太は半信半疑で試した後、次に指名されたときは二度目で教員から合格をもらった。
「本当に変わった。佐村、語学まで得意なのか」
「覚えるのが早いだけだよ。僕も知らない単語ばかりだし」
「早く覚えられることを、得意って言うんじゃないの?」
「そこは否定しないでおこうかな」
「自信あるな」
「褒められたところまで遠慮する必要ないし」
亮太が笑い、僕も教科書を閉じた。
授業が終わった後、玲奈と土曜日の予定を確認する。
上映会は午後二時から。現地で待ち合わせてもよかったが、初めて行く建物なので、正門近くで合流することになった。
その夜、クラスで作られた連絡用のグループに玲奈からメッセージが届いた。
《明日、二時の十分前でいい?》
《いいよ。正門に着いたら連絡する》
《了解。迷ったら助けて》
《僕も初めて行くんだけど》
《佐村君なら何とかしてくれそう》
随分と早く信用されたものだ。
『明日の建物までは案内できる?』
『現在地から経路を提示できます』
『なら、少なくとも迷わせる心配はないね』
『はい』
翌日の午後、玲奈と合流して上映会の会場へ向かった。
私服で会うのは二度目だが、今日は授業の日より少しだけ華やかだった。淡い青のワンピースに薄手のジャケットを合わせ、髪も緩く巻かれている。
「待った?」
「今来たところ」
「本当に?」
「二分前だから、今でいいだろ」
「そういうときは、本当でも十分待ったって言うものじゃない?」
「逆じゃないの? どうして待ってないのに増やすんだよ」
「女の子と待ち合わせするときの作法?」
「初めて聞いたけど」
「今教えたから、次からは使えるね」
玲奈は楽しそうに笑い、僕の隣へ並んだ。
会場は普段講義に使われている教室で、前方に大型スクリーンが設置されていた。
受付にいたのは、入学諸手続の日に僕へ映像制作の案内を渡した学生だった。今日は首から小型のカメラを下げている。
「あ、この前の新入生。来てくれたんだ」
「佐村です。この前は案内をありがとうございました」
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺は栗原航平。都内の私大に通ってる三年」
「生沢玲奈です。佐村君と同じクラスです」
「二人とも理一?」
「はい」
「今日は上映の後に編集体験もあるから、興味があったら残っていって」
名前と科類を受付の用紙へ記入し、サークルの紹介資料を受け取る。
栗原さんは受付をこなしながら、入ってくる新入生へ途切れることなく声をかけていた。
愛想がよいというより、人を緊張させないことに慣れている。
席へ着くと、照明が落とされた。
最初に上映されたのは、大学構内を舞台にした十二分ほどの短編映画だった。
遅刻しそうな学生が、落とし物の持ち主を探すうちに、授業へ行くこと自体を諦める話だ。大きな事件は起こらないが、会話の間と表情の変化が丁寧で、最後まで飽きずに見られた。
『どう?』
『映像と音声に平均〇・一八秒のずれがあります。三分十二秒の場面では、直前のカットとの光量差が大きく――』
『感想を聞いたんだけど』
『技術的評価ではありませんか?』
『面白いかどうか』
『私には主観的な娯楽性がありません。ただし、観客の反応と既存作品の傾向から、構成上の評価は可能です』
『じゃあ、それで』
『主人公が落とし物を返す動機の提示が弱いため、中盤の行動に説得力を欠いています。一方、結末で冒頭と同じ時計を映す構成は効果的です』
ジンの評価を聞いてから画面を見ると、作品の仕組みが少しだけ透けて見えた。
なぜこの場面で退屈を感じたのか。どうして最後の映像が記憶に残ったのか。
面白い、つまらないだけで終わっていた感想に理由が加わる。
続いて、軽音楽サークルの楽曲を使ったミュージックビデオと、大学祭の記録映像が上映された。
作品ごとに撮影した学生が前へ立ち、使用した機材や制作期間を説明する。高価なカメラを使った作品ばかりではなく、スマートフォンで撮影し、編集だけで雰囲気を作った映像もあった。
上映が終わると、教室の後方に用意されたノートパソコンを使い、希望者向けの編集体験が始まった。
三分ほどの素材から、三十秒の映像を作る。
使われているのは、駅前を歩く女性と、喫茶店で待つ男性の映像だった。台詞はなく、複数の角度から撮影された短い動画を自由に並べる。
「編集したことある?」
隣の席で、玲奈が画面を見ながら尋ねてくる。
「ない。玲奈は?」
「高校の文化祭で少しだけ。不要なところを切って、音楽をつけたくらいだけど」
「なら、僕より先輩だ」
「初めての人に負けたら嫌だな」
「勝負だったの?」
「今決めた」
「なら、手加減はしないよ」
『ジン。操作方法は分かる?』
『はい。現在使用しているソフトウェアの機能は把握しています』
『初めて見た人が、二人の関係を想像したくなる映像にしたい』
使用できる素材を一通り確認する。
女性が駅の時計を見る場面。男性が水へ手を伸ばし、触れずに戻す場面。扉が開くたびに顔を上げる場面。
『手ぶれと焦点のずれを基準にすると、使用に適した素材は全体の六割です』
『その中から、視線が自然につながるものを教えて』
ジンは映像の鮮明さや視線の方向、光のつながりから、候補をいくつか提示した。
僕は教えられた操作で素材を並べ、長さを調整していく。
『最後の女性の表情は、一・二秒で切り替えることを推奨します』
『もう少し残したい』
『それ以上保持すると、全体のテンポが低下します』
『待っていた相手を見つけたのか、別人だったのか、考える時間があったほうがいい』
『目的が余韻であれば、一・七秒まで許容できます』
『じゃあ、一・七秒』
すべて従う必要はない。
ジンは映像の特徴を正確に測れるが、僕が何を見せたいのかまで勝手に決めるわけではない。選択肢を作るのがジンで、選ぶのが僕だ。
三十秒の映像が完成した頃、栗原さんが後ろから画面を覗き込んだ。
「もうできた?」
「一応。再生してもいいですか?」
「見せて」
最初から再生する。
駅の時計。歩く女性。空いたままの向かいの椅子。扉へ目を向ける男性。
最後に女性が足を止め、何かを見つけたところで画面が暗くなる。
栗原さんは再生が終わっても、すぐには何も言わなかった。
「本当に編集は初めて?」
「今日初めてソフトに触りました」
「映像自体は作ったことある?」
「ないです」
「独学で勉強してたとか」
「興味を持ったのも最近です」
正確には数日前だ。
栗原さんはもう一度映像を再生した。
「操作が早いのもそうだけど、使うカットの選び方が初めてじゃないんだよな。何を見せたいか決めてから切ってる」
「素材を見たら、この二人が会えるのか気になったんですよね」
「元の設定では、二人は無関係なんだけどね」
「そうなんですか?」
「駅の女性と、喫茶店の男性を別々に撮った素材だから。でも、そう見えるようにつないだなら、それも編集だよ」
無関係だった二人が、映像の順番を変えただけで、互いを待っているように見える。
撮った後にも、物語は作れるらしい。
「佐村君、こっち分かる?」
玲奈に呼ばれ、隣の画面を見る。
音楽を映像の途中から始めたいが、切り替わる位置が合わないという。
ジンへ尋ねれば、最適な位置は一瞬で分かる。
ただ、答えだけを伝えても、玲奈が次に同じ操作をできるとは限らない。波形の見方と、音が強くなる直前で映像を切り替える方法を説明した。
「あ、合った。ありがとう」
「もう少し前にすると柔らかくなるし、今の位置なら勢いが出ると思う」
「じゃあ今のままにする。こっちのほうが好き」
「僕も合ってると思う」
玲奈は満足そうに、最初から再生し直した。
僕とは選ぶ映像も、音楽を入れる位置も違う。柔らかい色と音を好む玲奈の感覚が、三十秒の中へきちんと残っていた。
体験会が終わる頃には、栗原さんから来週の撮影へ誘われていた。
「軽音の小さなライブを撮るんだけど、見学に来ない? 今日みたいな体験じゃなくて、実際の現場を見られるよ」
「参加しても邪魔になりませんか?」
「最初は機材に触らず、見てるだけなら大丈夫。興味が続くかどうかは、その後で決めればいい」
「行きます」
答えるまでに迷う理由はなかった。
玲奈も少し考えた後、同じ撮影を見学することにした。
会場を出ると、午後の日差しが校舎の壁へ斜めに落ちていた。
「楽しかったね」
「うん。思ってたより、できることが多そうだった」
「佐村君は、初めてに見えなかったけど」
「教えてもらう相手がよかったんだよ」
「栗原先輩?」
「まあ、そんなところ」
頭の中から、すぐに声が返ってくる。
『私は栗原航平さんではありません』
『分かってるよ。説明できないんだから仕方ないだろ』
『私から教わったと明かさずとも、自分で調べたと答えることはできます』
『それだと、僕が予習してきたみたいになるでしょ』
『事実と比較すれば、その説明のほうが近いと判断します』
『じゃあ次からは、予習してきたことにするよ』
『虚偽になります』
『結局駄目なんじゃないか』
玲奈と駅へ向かう途中、来週の撮影時間を確認し、連絡先も個別に交換した。
クラスの連絡網だけでも困らないが、二人で参加する予定まで全員へ見せる必要はない。
改札の前で別れてから、数分後にメッセージが届いた。
《今日はありがとう。来週も一緒に行こうね》
《こちらこそ。時間が決まったら連絡する》
《分かった。佐村君がいるなら、編集も何とかなりそう》
期待されるのは悪くない。
初めて触れたソフトを使い、経験者と思われるレベルの映像を作れた。次は撮影現場へ入り、カメラや照明、音声の扱いも見られる。
広告、ミュージックビデオ、イベント撮影。上映会で見ただけでも、映像が使われる場所はいくつもある。
『学生のうちから、外部の仕事へ参加する道もあるよね』
『はい。制作実績を作れば、アルバイト、インターン、外部案件へ参加できる可能性があります』
『その先に、広告会社やテレビ局、芸能事務所との接点もある』
『映像制作会社に限らず、広告代理店、配信事業者、イベント運営会社から関係を作ることも可能です』
大学へ入ったばかりの僕が、芸能界へ正面から近づこうとすれば不自然になる。
映像を作れる学生として現場に入るなら、話は変わる。
表に立つ必要はない。
撮影する側、編集する側、企画を持ち込む側。名前を広く知られなくても、関係者として中へ入る道はいくらでもある。
『じゃあ、入ろうかな』
『上映会へ参加する前から、その可能性は高いと判断していました』
『僕のことが分かってきた?』
『一月八日以降の行動から、和希が関心を持ちやすい対象は予測できます』
『そこは相棒だからって言えば、少し格好いいのに』
『相棒であることと、予測の根拠は両立します』
前よりは近い。
気の利いた言葉を言えるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうだった。




