第7話 少女は「つむぎ」になった
【速報】超常少女、ついに名前をもらう。
―― 「女の子」は、この日「つむぎ」になりました。――
秘密を知った栞ちゃん。
始まる三人だけのファッションショー。
そして最後に、
名前のなかった少女へ、
世界で一番最初の贈り物が届けられます。
夜。
望月茜の部屋。
真っ暗。
静かだった。
ものすごく。
しーん。
隣の部屋の人まで。
「……大丈夫かな」
そう思うくらい。
静かだった。
そして――
ぱちっ。
電気。
点く。
同時に。
音楽。
どーん!!
「ららららら~~~♪」
茜。
登場。
自作ランウェイ。
堂々と歩く。
服装。
古着のワンピース。
ジーンズの上から。
赤いハイヒール。
黄色いカーディガン。
青い花のサングラス。
そして。
魔女の帽子。
完璧だった。
本人の中では。
「るるるる~~~♪」
歌う。
半分だけ知ってる歌。
残り半分。
全部適当。
でも。
自信だけは百点満点。
歩く。
くるっ。
振り向く。
決めポーズ。
「どうっ!!」
拍手。
ぱちぱちぱち。
女の子だった。
次のモデル。
登場。
新品の服。
右足。
靴。
左足。
バレエシューズ。
本人は。
全然気にしていない。
歩く。
よち。
よち。
まだ少しぎこちない。
でも。
一生懸命。
髪。
緑。
偶然。
肩に掛けた小さなバッグと。
お揃いだった。
「ら~♪
る~♪
ららら~~♪」
歌う。
誰も知らない歌。
たぶん。
本人しか知らない。
いや。
本人も知らないかもしれない。
でも。
楽しそうだった。
ものすごく。
茜。
手拍子。
「かわいい~~!!」
「つぎーー!!」
「もう一回ーー!!」
完全に。
親バカだった。
まだ一日目なのに。
その時。
ぴんぽーん。
音楽。
止まる。
茜。
止まる。
女の子。
止まる。
二人。
玄関を見る。
沈黙。
数秒。
女の子。
ぺたん。
その場に座る。
靴。
ぽいっ。
もう履きたくなかった。
茜。
玄関へ向かう。
がちゃっ。
「ごめーん!」
「今大丈夫?」
雨宮栞だった。
いつもの笑顔。
……だった。
でも。
次の瞬間。
魔女の帽子。
赤いハイヒール。
花のサングラス。
全部見た。
止まる。
「……」
茜。
満面の笑み。
「しおりちゃーん!!」
「入って入って!!」
何も説明しなかった。
説明できなかった。
たぶん。
「おじゃましまーす」
栞。
部屋へ入る。
笑顔。
いつも通り。
だった。
その時。
とてとて。
小さな足音。
女の子だった。
緑色の髪。
桃色の瞳。
小さなバッグ。
裸足。
栞。
止まる。
「……」
女の子も。
止まる。
二人。
見つめ合う。
数秒。
茜。
口を開く。
『どうしよう』
『秘密だった』
『でも』
『しおりちゃんだし』
『いや』
『でも』
『あぁぁぁぁ』
頭の中。
大渋滞だった。
その時。
栞。
瞬きをする。
一回。
瞳。
ふっと。
色が薄くなる。
時間。
止まったみたいだった。
茜。
「あれ?」
栞を見る。
女の子を見る。
もう一回。
栞を見る。
「……?」
何が起きたのか。
全然分からない。
女の子。
栞を見ていた。
じっと。
ものすごく真剣に。
「えっ」
茜。
女の子の肩を掴む。
ゆさゆさ。
軽く揺らす。
「ねぇ!」
「あなたでしょ!?」
「何したの!?」
その時。
声。
頭の中。
直接。
『大丈夫』
『痛くしてないよ』
小さな声。
優しかった。
聞き覚えがある。
「……え?」
茜。
固まる。
『私は』
『この人の心を見ただけ』
『いい人か』
『知りたかったから』
『あと』
『全部説明した』
「全部!?」
思わず叫ぶ。
栞。
ぱちっ。
もう一度。
瞬きをする。
瞳。
元に戻る。
「……そっか」
一言。
小さく笑った。
「そういうことなんだ」
全部。
理解した顔だった。
茜だけ。
何も理解していなかった。
「……なるほどね」
栞。
にこっ。
笑う。
茜。
「え?」
「え?」
「えぇ?」
置いていかれていた。
完全に。
頭の中。
一人だけ。
話についていけない。
「し、しおりちゃん?」
「大丈夫?」
「うん」
栞。
頷く。
普通に。
ものすごく普通に。
「全部分かったよ」
「全部ぅ!?」
茜。
びしっ。
女の子を指差す。
「この子!」
「心読むんだよ!?」
「うん」
「髪の色変わるんだよ!?」
「うん」
「家具飛ぶんだよ!?」
「うん」
「さっき人形だったんだよ!?」
「うん」
「えぇぇぇぇっ!?」
栞。
少し笑う。
「かわいいね」
女の子。
照れる。
頬。
ほんのり赤い。
茜。
『そこ!?』
心の中だけ。
叫んだ。
女の子。
栞を見る。
じーっ。
栞も見る。
じーっ。
沈黙。
数秒。
そして。
栞。
ゆっくりしゃがむ。
目線を合わせる。
「こんにちは」
優しかった。
声も。
笑顔も。
女の子。
少しだけ。
首を傾げる。
「こんにちは!」
元気いっぱい。
「私は雨宮栞」
「しおりちゃん?」
「うん」
「しおりちゃん!」
覚えた。
一発だった。
栞。
少し嬉しそう。
茜。
その様子を見る。
『あれ』
『仲良くなるの早くない?』
少しだけ。
羨ましかった。
「それでね」
栞。
部屋を見る。
帽子。
ヒール。
サングラス。
バッグ。
ランウェイ。
全部見る。
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒。
「……もしかして」
茜。
にやっ。
「うん!」
「ファッションショー!!」
栞。
また沈黙。
そして。
笑った。
「混ぜて」
即答だった。
茜。
「やったぁぁぁぁぁっ!!」
大歓声。
女の子。
何か分からない。
でも。
二人が笑った。
だから。
一緒に笑った。
理由なんて。
いらなかった。
音楽。
再開。
どーん!!
「らららら~~~♪」
茜。
大はしゃぎ。
「しおりちゃん!」
「これ着て!!」
古着。
どさっ。
山になる。
栞。
一枚取る。
少し考える。
「これかわいい」
「でしょーー!!」
数分後。
栞。
登場。
白いワンピース。
少し大きめ。
でも。
よく似合っていた。
茜。
両手。
頬に当てる。
「かわいぃぃぃぃ!!」
拍手。
ぱちぱちぱち。
つむぎ。
一緒に拍手。
ものすごく楽しそう。
「つぎー!!」
今度は。
栞。
司会。
「次のモデルさんどうぞー」
「はーい!」
つむぎ。
とて。
とて。
歩く。
途中。
少し転ぶ。
ころん。
でも。
笑う。
また立つ。
また歩く。
茜。
胸を押さえる。
「かわいすぎる……」
親バカ。
重症だった。
栞。
小さく笑う。
「完全にお母さんだね」
「えへへ」
否定しなかった。
そのまま。
二時間。
遊んだ。
服。
何回も着替える。
帽子。
交換する。
バッグ。
持ち替える。
サングラス。
三人で掛ける。
つむぎ。
赤いハイヒール。
履いてみる。
大きい。
ぶかぶか。
一歩。
歩く。
ぐらっ。
「あっ」
ころん。
尻もち。
「だいじょうぶ!?」
茜。
飛んでくる。
つむぎ。
笑う。
「へいき!」
また挑戦。
今度は。
帽子だけ。
よく似合っていた。
三人。
笑う。
ものすごく。
時間。
あっという間だった。
気付けば。
床。
服だらけ。
帽子。
バッグ。
アクセサリー。
全部。
散らかっていた。
三人。
ソファ。
ごろん。
並んで座る。
つむぎ。
真ん中。
足。
ぶらぶら。
茜。
缶ビール。
ぷしゅっ。
栞も。
一本。
乾杯。
こつん。
小さな音。
「今日は楽しかったね」
「うん!」
茜。
満面の笑み。
「こんなに笑ったの久しぶり!」
栞。
その横顔を見る。
少しだけ。
安心した。
本当に。
その時。
栞。
立ち上がる。
「そろそろ帰るね」
茜。
「えぇぇぇぇ!?」
ものすごく残念そう。
「もう少しいようよ!」
「今日は様子を見に来ただけだから」
「……」
茜。
思い出す。
「あ」
「そうだった」
沈黙。
数秒。
そして。
急に顔を上げる。
「そういえば!!」
「なんで私がクビになったって知ってたの!?」
栞。
さらっと答える。
「この辺歩いてたら」
「転んで」
「老人ホームに入っちゃって」
「そこで聞いた」
沈黙。
茜。
真顔。
「……」
「うん」
「しおりちゃんだもんね」
納得した。
変なところだけ。
ものすごく。
「でも」
栞。
つむぎを見る。
にこっ。
「この子が全部教えてくれたよ?」
茜。
固まる。
「…………」
「え?」
「全部」
「教えてくれた」
「…………」
風。
しーん。
茜。
ゆっくり。
つむぎを見る。
つむぎ。
にこっ。
笑顔。
悪気。
ゼロ。
「もちすき」
「しおりちゃん」
「いい人だったよ!」
茜。
顔。
真っ赤。
「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「全部話したのぉぉぉ!?」
つむぎ。
こてん。
首を傾げる。
「だめだった?」
「だめじゃないけどぉぉぉ!!」
「心の準備がぁぁぁ!!」
栞。
笑う。
止まらない。
本当に。
笑い過ぎだった。
しばらくして。
栞。
玄関へ向かう。
「じゃあ」
「私は帰るね」
茜。
しょんぼり。
「もう帰っちゃうの?」
「うん」
「今日は顔を見に来ただけだから」
つむぎ。
とてとて。
栞のところへ。
「しおりちゃん」
「また来る?」
栞。
しゃがむ。
目線を合わせる。
「もちろん」
「また遊ぼうね」
「うん!」
つむぎ。
満面の笑み。
その時。
髪。
少しずつ。
茶色になる。
眠そうだった。
ものすごく。
栞。
気付く。
「あれ?」
「髪の色」
茜。
頷く。
「眠い時は茶色なの」
「へぇ」
「かわいい」
つむぎ。
照れる。
少しだけ。
栞。
靴を履く。
玄関。
あと一歩。
その時。
茜。
思い出した。
「そうだ!!」
「しおりちゃん!!」
「一番すごいの」
「まだ見てない!!」
栞。
振り返る。
「ん?」
茜。
得意顔。
ものすごく。
「つむぎちゃん!」
「お友達どこ?」
つむぎ。
眠そうな目。
きょろ。
きょろ。
部屋を見る。
そして。
一点を指差す。
「あそこ」
何もない場所だった。
茜。
腕を組む。
どやっ。
「ほら!!」
「やっぱりいるんだよ!!」
栞。
その場所を見る。
少しだけ。
考える。
そして。
にこっ。
「こんばんは」
ぺこり。
頭を下げた。
茜。
停止。
「……」
「……え?」
つむぎ。
少し首を傾げる。
「しおりちゃん」
「もうちょっと右」
「あ」
栞。
半歩。
右へ。
もう一度。
ぺこり。
「こんばんは」
「初めまして」
茜。
「しおりちゃぁぁぁぁぁん!!」
「何してるのぉぉぉ!!」
「え?」
栞。
不思議そう。
「だって」
「挨拶した方がいいでしょ?」
「相手が見えなくても」
茜。
言葉を失う。
完全に。
つむぎ。
嬉しそう。
「お友達」
「喜んでるよ」
栞。
にこっ。
「よかった」
茜。
頭を抱える。
「この町」
「私以外」
「全員おかしい……」
違った。
一番おかしいのは。
たぶん。
本人だった。
栞。
帰っていった。
玄関。
ぱたん。
扉が閉まる。
部屋。
急に静かになる。
さっきまで。
あんなに賑やかだったのに。
少しだけ。
寂しかった。
茜。
部屋を片付ける。
帽子。
バッグ。
服。
元の場所へ。
一つずつ。
ゆっくり。
その間。
つむぎ。
ずっと。
茜の足に。
ぎゅっ。
抱きついていた。
眠そう。
ものすごく。
髪。
茶色。
目も。
とろん。
「よし」
片付け。
終わり。
茜。
その場に座る。
つむぎも。
そのまま。
隣へ。
ごろん。
沈黙。
一分くらい。
「……」
茜。
天井を見る。
ぽつり。
「そういえば」
つむぎを見る。
「あなた」
「名前は?」
つむぎ。
眠そうなまま。
首を傾げる。
「なまえ?」
「うん」
「あるでしょ?」
少し考える。
ものすごく考える。
そして。
「ない」
即答だった。
茜。
固まる。
「……え?」
「みんな」
「女の子って呼ぶ」
「それだけ」
沈黙。
長かった。
茜。
少しだけ。
寂しくなる。
「そっか」
小さく笑う。
優しく。
「じゃあ」
「私が付けてあげる」
つむぎ。
ぱちっ。
目が開く。
少しだけ。
眠気が飛ぶ。
髪。
ゆっくり。
桃色になる。
嬉しかった。
すごく。
「ほんと?」
「うん!」
茜。
腕を組む。
考える。
「うーん」
「うーーん」
「うーーーーーん」
つむぎ。
待つ。
わくわく。
ものすごく。
「決まった?」
「まだ!」
また考える。
三十秒。
一分。
そして。
茜。
ぱあっと笑う。
「決めた!!」
びしっ。
つむぎを指差す。
「今日から!」
「あなたは――」
少し間。
大事だった。
とても。
「つむぎ!!」
沈黙。
つむぎ。
瞬き。
一回。
二回。
「……つむぎ?」
「そう!」
「つむぎちゃん!!」
茜。
満面の笑み。
「どうかな?」
つむぎ。
小さく。
その名前を。
もう一度。
呟く。
「つむぎ……」
その瞬間。
笑った。
今までで。
一番。
嬉しそうに。
「好き!」
髪。
桃色。
きらきら。
部屋まで。
少し明るく見えた。
茜。
思わず笑う。
「よかったぁ」
つむぎ。
そのまま。
茜に。
ぎゅっ。
抱きつく。
「ありがとう」
小さな声。
とても。
温かかった。
茜。
優しく頭を撫でる。
「おやすみ」
「つむぎちゃん」
「……うん」
返事は。
小さかった。
もう。
半分眠っていた。
数秒後。
すぅ。
すぅ。
寝息。
穏やかだった。
ものすごく。
茜。
眠るつむぎを見る。
少しだけ笑う。
「よろしくね」
「つむぎちゃん」
その夜。
一人だった部屋は。
もう。
一人じゃなかった。
読んでいただきありがとうございます!♡
もしよければ、ポイントを入れていただけると、とても励みになります~!
(´▽`)
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また次回もよろしくお願いします!♡




