第45話 二人を乗せるだけのはずだった。
【全国緊急ニュース!!】善意の送迎が集団便乗事件に発展!? 被害者・中瀬、怒りの重量オーバー宣言!!
――二人を学校へ送るだけだった。ところが乗客は勝手に増殖! スケボーは便乗! 謎の女子は潜入! 全員で命がけの急カーブを突破した末、最後に待っていたのは……自転車の後片づけ!?――
みんなが走り回る、その真ん中。
突然、一人の男子が現れた。
「よっ、若者!」
二人を乗せて自転車をこぐ中瀬の、隣を走っていた。
『若者……』
中瀬は、気に入った。
顔には、出さなかった。
「何ですか?」
「ねえ、ねえ!乗せてくれない!?」
「……」
中瀬が、嫌そうに男子を見た。
「嫌です」
「いいじゃん!!同じ学校ってだけで、もう仲間だろ!!」
「でも、もう走れて――」
「乗るぞ――」
「ダメです――!!」
男子が、乗ろうとした。
全速力の、自転車へ。
すでに二人、乗っているのに。
結果。
無理だった。
でも。
諦めなかった。
「ああ、分かった……女の子しか乗せないんだな……」
「!!」
無視するつもりだった。
でも。
その一撃は、無視できなかった。
「ち、違っ――!」
男子は、まだ隣を走っていた。
「俺、軽いから!!」
「そういう問題ではありません」
つむぎが、見た。
男子を。
中瀬を。
『任せて』
中瀬は、その目を知っていた。
「ダメです」
つむぎの、小さな力が働いた。
「つむぎちゃん」
「これで、軽くなった!」
「一番の問題は、そこではありません」
そして、男子。
「本当!?ありがとーーー!!」
乗った。
中瀬に、友達ができた。
不本意に。
「いやあ、助かった。チョコ、おごるよ」
男子が、言った。
女の子を喜ばせるような口調で。
つむぎの目が、輝いた。
「そのチョコは、私にちょうだい」
茜が、言った。
チョコに、嫉妬していた。
男子は、機会を逃さなかった。
「慌てないで。みんなの分、あるから……」
女の子たちの心をつかもうとする、あの目。
中瀬が、目をそらした。
呆れて。
『若者……』
その時。
「よお、中瀬くん、だよな!?」
「!?」
中瀬が、驚いた。
「今日、名簿で名前見た!!転入生だろ!?」
「どうして叫んでるんですか」
男子を、見た。
「すぐ隣にいるでしょう」
「うわあ、冷たい!」
その男子は、スケートボードに乗っていた。
「よお、ヤナギハラくん!!相変わらず、人を利用してるな!」
みんなが知っている秘密を、教えるような口調だった。
「おい――!」
ヤナギハラは、傷ついた。
事実だったけれど。
「気をつけろよ!!そいつ、借りたもの返さないから!!」
スケートボードの男子が、大声で言った。
ただ、困らせるために。
「お前が言うか!自転車につかまって、楽してるくせに――!」
ん?
ヤナギハラが、自分の手を見た。
茜が、書いていた。
『チョコ一個の借り』
小さな星まで、描いた。
「な、何してるの!?」
「私の思い込みじゃなくて、本当にチョコをおごってもらえるっていう証拠」
「やれやれ……」
「おお、もう借りを作ってる!あはは!」
「黙ってろ、ナルセ!!」
「よっ、ナルセさん!」
「うわああ、びっくりした!!」
スケートボードの後ろに、男子が現れた。
突然。
「……また変なのが」
中瀬が、呟いた。
敗北した声で。
「ぎゃあああ!!」
今度は、茜が驚いた。
スケートボードに相乗りした、その男子を見て。
「く、く、クロセくん!?」
「ん?」
クロセが、不思議そうに見た。
「俺、君のこと知ってたっけ?」
『やああ、知ってるわけないでしょ!!』
『この子が知ってるのは、老人ホームでおばあさんの世話をしてる、大人の望月さんだけ!!』
「あ、あの、う、うちのお姉ちゃんが、前に君のこと話してて……あはは……」
「お姉ちゃん?」
「おお、女の子にぐいぐい行ってる!」
ヤナギハラが、からかった。
「ち、違うだろ、ヤナギハラ!」
「あ、そ、そういうのじゃないから!!」
茜は、自分が起こした言い争いを収めようとしていた。
「……うわ」
中瀬が、言った。
大きな声で。
中瀬が、こんなことを大きな声で言うことはない。
その理由を。
全員が、見た。
「ぎゃあああ!!」
「カーブ、気をつけろーーー!!」
つむぎが、膝を抱えた。
小さな、丸になった。
巨大で。
強烈な。
カーブ。
思い切り、曲がった。
スケートボードが、飛びかけた。
全員が、命懸けで中瀬につかまった。
中瀬は、その一回で吐きそうになった。
全部が、スローモーションになった。
大勢が、ものすごい勢いで曲がる。
驚いて、ぶつかられる人。
走る位置から、はみ出す人。
その中に。
四人乗りの自転車。
二人乗りのスケートボード。
目に浮かぶ絶望が、すべてを物語っていた。
そこへ。
すぐそばに、一人の女子。
時間が、普通の速さへ戻った。
「ふう。避けられてよかった」
「やっ!」
茜が、驚いた。
すぐ目の前に、いた。
「ミズシロさん……」
「その顔には、もう騙されないからな!!」
クロセが、たまっていたものを吐き出すように言った。
「えっ!?ど、どうしてそこにいるの!?」
「素早く車輪のところにペグをつけて、そこへ飛び乗ったんだよ」
クロセが、あまり驚きもせずに説明した。
「乗せてもらうために」
ミズシロが、唇を尖らせた。
横を、向く。
その説明に、がっかりしたように。
「そう言うと、私がずるい人みたいじゃない……」
「その通りだろ――!」
ナルセが、心底腹立たしそうに言った。
「……うるさい人たちですね」
中瀬が、呟いた。
「それにしても……」
後ろを、見た。
自分に便乗した、人の数。
「重いんですけど、あなたたち!!」
「ごめんね」
全員が、同じ声で言った。
同じ、可愛い顔で。
反省は。
していなかった。
到着した。
中瀬は、限界だった。
つむぎが、かごから降りた。
全員が、気づいた。
「うわ、ちっさ!」
ヤナギハラが、隠そうともせずに言った。
「初めまして!つむぎです!」
可愛く。
人懐っこく。
つむぎが、自己紹介した。
みんなが、それぞれの場所から降りる前に。
「よっ、つむぎちゃん!」
「うわあ、つむぎちゃん、よろしく!俺はヤナ――」
チャイムが、鳴った。
「やば。自己紹介は、あとで」
まだ自転車に乗っているミズシロが、茜と向き合った。
二人が、目を合わせる。
ミズシロが、そっと自分の鼻に触れた。
微笑む。
茜は、つられて片目を閉じた。
「何組?」
ミズシロが、優しく聞いた。
「ま、まだ分からない……」
「どうして、そんな感じなの?」
茜が少し距離を取っていることに、気づいていた。
「あなたには、気をつけないといけないって分かったから。へへ……」
茜は、横を見ながら言った。
疑わしそうな目で。
「賢いね……」
ミズシロの目は、優しかった。
小さな笑顔には、危険の気配があった。
自転車から、降りる。
歩き出した。
茜が、言った。
「財布、返して」
疲れた声。
分かりきったことを、指摘するみたいに。
「!!」
ミズシロが、驚いて振り向いた。
でも。
「もう、持ってるよ」
やったことに似合わないほど、優しい声だった。
「えっ!?」
茜が、確かめた。
『あれ……?』
『取られたのは分かったのに、返されたのは見えなかった……』
『何なの、この子……!』
茜も、自転車から降りた。
「最後の人が、自転車を置いてきてください」
中瀬が、言った。
もう、みんなと前にいた。
振り向きもせず、茜へ手を振って。
「!!」
茜が、衝撃を受けた。
「……こうなる運命なのね」
やりたくない人の、声だった。
でも。
置きに行った。
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