第46話 教室を間違えた気がする。
【衝撃スクープ】ここ、本当に教室ですか!? 転校生三人が目撃した、常識崩壊の朝!!
――誰もいない教室が一瞬で満席! 先生は踏まれ、茜は窓へ、つむぎは先生の頭上へ! そして始まる、何事もなかったかのような自己紹介。三人の学校生活、前途多難すぎる!!――
茜は自転車を置いて、学校の入口へ走って戻った。
そこで、中瀬とつむぎが靴を履き替えているのを見つけた。
「ああ、よかった!先生、怒らないかも!!」
「……」
中瀬が、茜を見た。
あの、責めるような目で。
『言い訳を作ってるんですか?』
はっきり、そう言っていた。
「ち、違っ!そ、そうじゃ――」
「じゃあね、中瀬くん、つむぎちゃん!!」
クロセが、みんなへ手を振った。
「そっちの子も!あとで、ちゃんと自己紹介しようね!」
茜を見て、言った。
「あ、うん!またね」
「じゃあな、中瀬くん!」
ヤナギハラも、ナルセと一緒に別れを告げた。
「またね」
中瀬は、何も言わなかった。
手を振っただけ。
あっさりと。
「中瀬くん!新しい友達には、もっと優しくしないと!!」
茜が、説教しようとした。
「『新しい友達』に盗まれたと思った人が、言うんですか」
「やっ!き、聞いてたの!?」
「早く行きましょう」
茜が、中瀬の後を追った。
つむぎは、壁に貼られた部活のポスターを見るだけで楽しそうだった。
「つむぎちゃん、行こう!」
「はーーい!!」
三人は、職員室へ向かった。
中瀬が、ドアを開けようとした。
その瞬間。
驚いた。
同じタイミングで、先生が開けた。
「おっと……!」
先生は、中瀬の顔へ近づいた。
何かを、確かめるみたいに。
「ん……あははは、中瀬さん!」
肩を、ぽんっと叩いた。
中瀬が、一回転した。
そのくらい、力が強かった。
「どうも、クゼさん」
元気のない声だった。
「こちらはクゼさんです。この学校で、一緒に働いていました。今は……まあ、しばらく私も生徒になります」
いつもの、気の乗らない調子だった。
「ずいぶん省略したね!僕たち、一緒に――」
「もう十分です。クゼ先生」
「……はい」
クゼは、その圧を感じた。
黙った。
「さて、可愛い生徒諸君」
中瀬を、わざと苛立たせる口調だった。
「教室へ案内して、みんなに紹介するよ」
「ヨチ!!」
茜が、元気になった。
先生が、気づく。
「ああ……君が望月さんだね?」
「やっ!は、はい、そうです」
「中瀬とあれだけ長く暮らしてるわりには、元気そうだね」
「えへへ……」
「それから、君……」
教室へ向かう廊下で、クゼがつむぎを見た。
「想像していたより、ずっと可愛いね。それに……小さいね……」
「えへへ……」
つむぎが、首の後ろへ手をやった。
少し、照れていた。
「賢そうだし、学校でもうまくやっていけるよ。優しくしていれば、きっとみんなも歓迎してくれるから!」
「はい!!」
つむぎは、ものすごく嬉しそうに答えた。
教室の前で、止まった。
「ここだよ。入ろうか?」
「ヨーーーチ……」
茜が、小さく呟いた。
緊張していた。
つむぎが、頭の中で話しかけた。
『茜さん、今、お腹が痛くなるのって普通?』
茜が、笑った。
頭の中で、返す。
『うん。緊張してるだけ。大丈夫だよ』
『ヨーーーチ……』
クゼが、ドアを開けた。
そして。
「えええ!?み、みんなどこ!?」
「……あら」
茜が、呟いた。
「……いつものことですね」
中瀬が、失望した目でクゼを見た。
つむぎには、何が起きているのか、よく見えなかった。
「ど、どういう――ぎゃあああ!!」
「先生、失礼します!!」
「ごめんなさーーい!!」
突然。
生徒の、雪崩。
「何が――!?」
クゼが、押し流されていた。
押しつぶされていた。
「通りまーーす!」
「すぐです、すぐ!!」
「クゼ先生、ごめんなさい!!」
中瀬は、予測していた。
窓際へ退避していた。
安全だった。
茜は、生徒たちの中へ入ってしまった。
勢いで、今は窓の外にぶら下がっていた。
つむぎは、無事だった。
クゼ先生の頭に、登っていた。
クゼが、目を開けた。
ふらふらだった。
「……」
教室は、静かだった。
全員が、先生を見ていた。
何もなかったみたいに。
席に座って。
無傷で。
生まれた時から、そこにいたみたいに。
その時。
髪を染めた女子生徒が、先生の前へ現れた。
目立つメイク。
派手な格好。
手には、消しゴム。
「何を――」
「何も言わないで。これを見てください」
集中した声だった。
先生も、すぐに集中した。
「これだけを見て……そう、いいですよ……」
先生は、口を開けかけていた。
見入っていた。
「これから、さっきのことを全部忘れて――」
「いたっ!」
茜が、窓から落ちた。
先生は、催眠にかからなかった。
「……くそ」
教室全体が、がっかりして振り向いた。
中瀬が、深く息を吸った。
クゼの横を通った。
失望した顔で。
また。
つむぎは、茜を助けた。
そっと力を操って。
配管に、ぶら下がらせた。
全部、無言で。
目立たない操作で。
それから、先生の頭を離れた。
床へ、飛び降りる。
中瀬とつむぎは、自己紹介の準備ができていた。
茜は、壁の配管を登ろうとして苦しんでいた。
「諦めてください。下へ降りて、階段から上がればいいでしょう」
中瀬は、視線すら変えずに言った。
そこで、気づいた。
茜がいたのは。
二階だった。
「……分かった」
茜は、落ち着いて滑り降りた。
手を、払う。
そして、入口の一つへ歩いていった。
クゼが、深呼吸した。
生徒を、一人ずつ見た。
一人ずつ、疑う目で。
催眠をかけようとした女子生徒は、ドア側の一番前に座っていた。
口笛を吹いて。
普通のふりをして。
「さて……新しい生徒の紹介は、少し待って――」
どんっ。
ドアから、大きな音。
クゼが、驚いた。
中瀬は、動かなかった。
つむぎは、横目で覗いた。
「ク、ク、ク、クゼ先生、説明させてください!」
ミズシロだった。
「こ、ここへ来る途中、もう少しで強盗に遭うところで――!」
「な、何だって、ミズシロちゃん!?だ、大丈夫!?」
「ま、まだすごく怖くて……職員室で両親に電話しました。もう大丈夫だと思います」
その間に。
そっと。
本当に、そっと。
ナルセが、もう一つのドアから入った。
自分の席へ座る。
ドア側の列。
一番後ろ。
先生は、気づかなかった。
でも。
中瀬は、上から下まで見た。
責めるような目で。
ナルセが、気づいた。
唇で、しーっ。
黙っていてほしかった。
中瀬は、真顔で見ていた。
ミズシロの後ろから、茜が現れた。
干からびて。
疲れ果てて。
「し、失礼します、先生……」
ミズシロを、見た。
「やっ!こ、ここにいたの!?」
「ああ……望月ちゃん……」
ミズシロが、また鼻元へ手をやった。
控えめに。
冷たく。
「先生、座ってもいいですか!?その、新しい生徒さんの紹介を邪魔したくないので!」
「どうぞ!」
ミズシロが、席へ向かった。
「やっとだ!さて、みんな。新しい生徒を紹介します」
先生が、中瀬を示した。
「自己紹介をどうぞ」
「中瀬俊介です。よろしくお願いします」
「クビになった先生と、同じ名前!!」
一人の女子生徒が、勢いよく立った。
「あ、あ、あの先生のこと、何か知ってる!?元気なのか、知りたいんです!」
「知りません。興味も――」
「話し方まで似てる!お願い――」
クゼが、咳払いした。
中瀬の秘密を、守るために。
「ありがとう、中瀬くん。次は……」
つむぎを、示す。
「こんにちは!つむぎです!みなさんと会えて、嬉しいです!!」
頭を、下げた。
大げさに。
素早く。
みんなも、お辞儀をした。
「それでは……」
先生が、茜を示した。
「ヨチ!望月茜です!みなさんと仲良くなれたら嬉しいです!!よろしくお願いします!」
茜も、お辞儀をした。
この場には、大げさなくらいに。
みんなも、同じように頭を下げた。
「ああ、では座ってください」
先生は、とてもほっとしていた。
空いている、三つの席を指さす。
中瀬は、ナルセを見ながら歩いた。
その前の席を、選んだ。
真剣な目で、見ていた。
ナルセは、目を逸らした。
中瀬が知っている秘密に、緊張していた。
中瀬が、さらに見た。
そして。
座る時に。
穏やかに、笑った。
ナルセが、深く息を吐いた。
安心して。
茜は、震えながら自分の席へ向かった。
周りは、男子ばかりだった。
つむぎは、ぴょんぴょん進んだ。
みんなへ、手を振りながら。
真ん中の列。
一番後ろへ。
でも。
「先生!」
ミズシロが、手を上げた。
「つむぎちゃんを、私の列の一番後ろに座らせるのは、気になります」
「列は、君のものじゃ――」
「私と、席を替えてもいいですか!?」
「え、ええ。とりあえず……あとで、考えます」
「はい!」
ミズシロが、立ち上がった。
つむぎを見る。
「つむぎちゃん、替わろう!」
「はーーい……ありがとう!!」
二人が、席を替えた。
ミズシロは、今度は茜に近くなった。
茜は、窓側の列。
真ん中の席。
そして。
まだ、始まったばかりだった。
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