第42話 今日一番の心配事は、全盛期に戻ることでした
【悲報】学校へ行く準備をしていたはずが、大人二人が高校生に戻りました。
――つむぎの能力で、茜と中瀬はまさかの17歳に。若返った。肌も戻った。体力も戻った。そしてなぜか精神年齢まで戻った。なお、生後三週間の五歳児が一番落ち着いていました。――
中瀬の部屋から。
妙なうなり声が聞こえていた。
「う゛~~~~……」
「う゛~~~~……」
「う゛~~~~……」
ちょっと心配になる音。
でも――
ただ。
茜が。
眠いだけだった。
「なんでこんな時間に起きなきゃいけないのぉぉ……!?」
午前5時46分。
火曜日。
つむぎ。
茜の隣に立っている。
……が。
魂は。
明らかに。
そこにいない。
たぶん。
どこかで浮遊しながら。
まだ寝ている。
茜。
ベッドの前。
立ったまま。
ぶつぶつ。
中瀬。
いつも通りの落ち着きで。
学校の鞄を準備中。
「早めに起きた方がいいですよ」
「遅刻する心配もありませんし」
「…………」
茜。
午前6時前に起こされた人間だけができる顔。
「…………」
つむぎ。
そもそも魂がいない。
中瀬。
最後に。
「俺は目覚ましで起きましたけど」
「……私だって」
「自分の“目覚まし”で起きる予定だったもん」
意味深。
昨夜。
自分で宣言した。
“天然の目覚まし”。
それを。
ちゃんと覚えている人の発言。
中瀬。
「ああ」
「見ました」
純粋。
そして。
ちょっと腹立つ。
中瀬式ユーモア。
「ほ、本当だって!」
「私だってちゃんと眠れてなかったし!」
「絶対起きられたもん!」
「ああ」
「見ました」
中瀬。
数時間前の二人を思い出す。
「よく眠れてませんでしたよね」
「…………」
茜。
反論。
終了。
ぷくっ。
頬だけ。
膨らませる。
そして。
つむぎを見る。
中瀬の学校の。
体操服。
それを着て。
立ったまま寝ている。
「つむぎちゃん」
「嫌なのは分かるけど、起きないと」
「ん……」
「うん……」
寝言。
茜。
くすっ。
中瀬は。
コーヒーを淹れに。
キッチンへ。
茜。
つむぎの顔を覗き込む。
「つむぎちゃん」
「今回のミッションには」
「あなたがものすっっっごく重要なの、分かってる?」
「…………」
睡眠中。
「つまりね……」
茜。
もっと近づく。
耳元。
そして。
「が・っ・こ・う」
「!!」
ぱちっ!!
つむぎ。
目。
覚醒。
「学校!!」
「そう!」
「学校行くために準備しなきゃ!」
その瞬間。
つむぎ。
すたすた。
キッチンへ。
「おはようございます、中瀬さん!!!」
「おはよう、つむぎちゃん」
つむぎ。
中瀬のシャツを見る。
「……」
濡れている。
「ふふっ」
「中瀬さん、シャツによだれついてます」
「ん」
「短パンにもついてる」
中瀬。
見せる。
つまり。
犯人。
つむぎ。
「やっ!!」
「そんなわけない!!」
「私、口開けて寝ないもん!!」
証拠を目の前にして。
容疑者、全面否認。
「そうだね」
中瀬。
エスプレッソを飲み終える。
「俺もそう思いたかったよ」
「…………」
そして。
「ヨォォォォチ!!」
つむぎ。
椅子の上。
どんっ!!
「椅子の上から降り――」
「誰が最初!?!?」
完全無視。
本題。
その声を。
洗面所で聞いた茜。
「んぐっ!?」
歯磨き粉で。
危うく。
むせる。
中瀬。
コーヒーカップの中を見る。
「……」
茜。
「……」
つむぎ。
「二人とも楽しみじゃないの!?」
「ほら!」
「若くならないといけないんでしょ!?」
つむぎ。
超。
楽しそう。
少し考える。
そして。
以前の茜と。
同じ技を使う。
「わ・か・も・の」
「……」
茜。
反応。
「…………」
「若者!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
洗面所から。
突然。
出現。
歯ブラシ。
口。
「そうだったぁぁぁ!!」
「つむぎちゃん!!」
「私を若くしてぇぇぇぇぇ!!」
つむぎ。
「…………」
一瞬。
茜を見る。
ちょっと。
引く。
「ヨチ!」
「じゃあ試してみる!」
椅子から降りる。
中瀬。
ぴくっ。
“試す”。
その言葉。
なぜか。
ものすごく。
嫌な予感。
「茜さん!」
「動かないで!」
「えっ!?」
「ちょ、ちょっと待って!」
「まだ歯磨き終わってな――」
つむぎ。
集中。
想像する。
いや。
正確には――
茜の。
“若かった時間”。
その時間と。
その頃の姿を。
現在へ。
引っ張ってくる。
「……っ」
全員。
少し。
気持ち悪い。
ぐにゃっ。
世界が。
ほんの少し。
揺れたような。
そして――
ぷっ!!
下から。
上へ。
一瞬。
「も、望月!?」
「……!?」
茜。
まだ。
気づいていない。
でも。
鏡を見る。
「…………」
目。
見開く。
「…………」
そして。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
鏡へ。
猛ダッシュ。
「み、見て!!」
「見て見て見て!!」
「肌ぁぁぁぁぁ!!!!!」
顔。
ぺたぺた。
「うそ!!」
「たるんでない!!」
「えっ、待って!!」
「クマ!!」
「この頃のクマに文句言ってた私、何様だったの!?!?」
そのまま。
二人の前へ。
どんっ!!
二人。
見る。
つむぎ。
一発成功。
それに。
びっくり。
中瀬は――
茜を見る。
そして。
「……」
「高校二年の時から」
「結構老けてたんですね」
「かわいそう」
「…………」
茜。
想定。
していなかった。
その攻撃。
「なんですってぇぇぇ!?!?」
「このジジイ!!」
「嫉妬でしょ!!」
まだ。
口に。
歯ブラシ。
中瀬。
逃走。
両手。
ポケット。
口笛。
煙草。
口。
まったく。
反省なし。
「ヨォォォチ!!」
つむぎ。
椅子から叫ぶ。
「中瀬くん!!」
「次!!」
「え?」
「じっとしてて!!」
つむぎ。
わくわく。
次の結果が。
楽しみで仕方ない。
中瀬。
その瞬間。
腹の奥。
少し。
冷える。
「……」
昔。
学校。
終わりきらなかった過去。
あまり。
良くない記憶。
その重さが。
ほんの少しだけ。
戻ってくる。
つむぎ。
同じように。
集中。
そして――
ぐにゃっ。
中瀬の姿が。
変わった。
一気に。
若くなる。
「……」
「……」
つむぎ。
中瀬を見る。
中瀬。
つむぎの反応を見る。
洗面所から。
茜。
つむぎを見る。
そして。
中瀬を見る。
二人が。
見つめ合っている。
「…………」
「…………」
「…………」
気まずい。
ものすごく。
気まずい。
沈黙。
中瀬。
自分を見る。
確認。
そして――
「……よかった」
肩。
ふっ。
力が抜ける。
空気も。
少しだけ。
ほどける。
「普通だ」
「……」
茜。
「“よ、よかった”!?」
今度は。
口の中に。
歯磨き粉はない。
ただし。
シャツに。
ついている。
なぜなら。
茜だから。
「それに!」
「“普通”ってどういう意味――!?」
その横。
つむぎ。
目。
きらっ。
「中瀬さん!!」
「昔、宇宙人だったの!?!?」
「…………」
中瀬。
深呼吸。
煙草。
捨てる。
コーヒー。
飲む。
「もう」
「どうでもいいことです」
「…………」
茜。
つむぎ。
同時に。
イラッ。
「なんで途中まで言って終わるの!?」
「き、気になる!!」
中瀬。
もう一口。
「もうどうでもいいことです」
「…………」
同じ答え。
当然。
同じ結果。
「だから何なのぉぉぉ!?!?」
二人。
再び。
怒る。
そして。
茜。
中瀬。
「……」
まだ。
お互いの目を。
ちゃんと。
見られない。
そもそも。
この。
急激すぎる変化にも。
慣れていない。
今。
同じ年齢。
同じ学校。
同じ家。
「……」
「……」
二人。
同時に。
「まあ、とにかく――」
「わ、私お腹すいた!!」
茜。
逃走。
キッチンへ。
「誰か食べる!?」
「俺はコーヒー」
中瀬。
いつも通り。
つむぎ。
その間。
念力。
すいっ。
物。
整列。
パン。
トースターへ。
ぽんっ。
「ヨチ!」
「ご飯食べよー!!」
中瀬。
茜の横へ。
コーヒーを取りに来る。
茜。
お茶。
ごくっ。
「つむぎちゃん」
「めちゃくちゃ楽しそうだね――!」
そう言いながら。
横を見る。
近い。
中瀬も。
見る。
「……」
「……」
妙な空気。
「……っ」
茜。
「な、何よ!」
中瀬。
視線を逸らす。
茜。
両拳。
ぐっ。
謎の。
勇気ポーズ。
「ほ、ほら!」
「私、中身は前と同じだからね!?」
中瀬。
カップを選びながら。
茜を見ずに。
「俺も」
「中身は同じです……」
間。
そして。
「“からね”!?」
今度は。
見る。
茜の言い方。
完全再現。
「……」
「なによぉぉぉ!?!?」
バシッ!!
茜。
叩く。
そして。
気づく。
「……」
拳を見る。
「……え?」
もう一回。
ぐっ。
「…………」
目。
輝く。
「私、力強くなってる!!」
中瀬。
「……」
逃げる。
即。
生存を試みる。
茜。
「アハハハハハハハハ!!」
「これで終わりよ、中瀬くぅぅぅん!!!!」
「俺」
「何もしてないんですけど」
「私を頭おかしいって言ってる!?」
「それ」
「望月さんが言いましたよね」
「えええええい!!」
追う。
逃げる。
追う。
逃げる。
そして。
その横。
五歳児。
なお。
生後。
三週間。
姿勢。
良し。
パン。
もぐもぐ。
牛乳。
ごくごく。
椅子の上。
足。
ぶらぶら。
そして。
大人二人。
現在。
十七歳。
キッチンを。
全力で。
追いかけっこ。
つむぎ。
それを。
静かに。
見ている。
まるで。
もう全部見慣れました。
そんな顔。
パン。
もう一口。
もぐっ。
そして。
『学校。』
『今日。』
そう思って。
つむぎは。
にこっ。
笑った。
ここまで読んでくださってありがとうございます!♡
(´▽`)
少しでも楽しんでいただけたら、下の☆から評価していただけると嬉しいです!
ブックマークも、続きを書く励みになります~!
キャラクターデザインやイラストは、Pixivにも投稿しています!
よかったら、ぜひのぞいてみてくださいね♡
Pixiv:
https://www.pixiv.net/en/users/121622272
それでは、また次のお話で!♡




