第4話 中瀬先生、父親になる
【最新ニュース】髪がピンク色になっただけで大パニック!?
―超能力を持つ女の子と同居生活、初日からもう限界。―
政府から預かった超常少女。
最初のミッションは――
「家まで連れて帰るだけ」。
……のはずだった。
しかし。
髪が突然、真っピンク。
「どうしよう!?」
「何が起きるの!?」
「説明書は!?」
もちろん――
そんなものは存在しない。
さらに、
空腹で暴走(?)する少女。
猛ダッシュでスーパーへ向かう教師。
そして、
方向音痴すぎる保護者。
「家、どこ?」
まさかのスタート地点に逆戻り。
ようやく始まった共同生活。
その第一歩から、
すでに前途多難です。
駅には、夕方特有の空気が流れていた。
帰る人。来る人。
誰も、ほかの誰にも注意を払っていなかった。
ただし、出口へ向かう三人には、少し目が向いたかもしれない。
小さなカードを読んでいる、スーツ姿の男性。
その集中力は、駅という場所に似合っていなかった。
バランスを取ろうと、ふらふら歩く女性。
そして、その女性の肩に座り、小さな足を揺らす子ども。
世界で最高の移動手段を発見したような、満足そうな顔だった。
茜が少しつまずくたびに――心配になるほど頻繁だった――女の子は小さく笑い、髪をさらに強く握った。
助けにはならなかった。
茜は右へ揺れた。
左へ揺れた。
体勢を立て直そうとした。
また揺れた。
女の子は、その一秒一秒を楽しんでいた。
「まだ、何が書いてあるか教えてくれてませんよね」
茜の声には、まともに話す余力すら残っていなかった。
中瀬はカードから目を上げなかった。
「まだ、よく分からなくて」
「……」
茜は中瀬を見た。
「でも、中瀬くん、先生だったんじゃないんですか!?」
中瀬がびくっとした。
その勢いで、女の子も茜の肩から滑り落ちそうになった。
「どうして教師だと分かったんですか?」
中瀬が茜を見た。
茜は、鑑定でもするような自然さで、上から下まで眺めた。
「見れば分かりません? 私の歴史の先生も、そんな格好でした」
「歴史は教えていません」
「数学」
女の子が、足を揺らしながら、あっさりと言った。
「ええ……数学です」
「数学の先生っぽい顔もしてますね……!」
茜が何かに気づいた。
小さく跳ねた。
女の子が、飛びかけた。
「中瀬くん……」
近づいて、声を落とした。
あまり小声になっていない内緒話だった。
「この子、心が読めるんでしょうか?」
中瀬が答えるより先に。
「待って!」
なぜか、茜の手が中瀬の顔へ向かった。
あとで本人に聞いても、理由は説明できなかっただろう。
中瀬は反射的に避けた。
「ねえ」
茜が上を見た。
「今、この人、何て言おうとしてた?」
女の子は下を見た。
足を揺らした。
頬を少し持ち上げて、笑った。
「『この人とこの子、どっちがもっと変なんだろう』って」
二人が同時に振り向いた。
茜と女の子の、合わせ技の視線。
――どういうこと!?
その目が、外科手術のような正確さで中瀬に突き刺さった。
中瀬は半歩下がった。
深呼吸した。
「分かりました。ひとまず、うちに来てください。私はスーパーで何か買ってきます」
茜は目を細めた。
「知らない二人を、家に入れていいんですか?」
中瀬が茜を見た。
「何か起きるかも、って怖くないんですか?」
中瀬は止まった。
考えた。
今日の朝からの出来事を、頭の中で再生した。
電車で顔に飛んできたバッグ。
倒れかけた受付の女性。
会議。
人形ではなかった人形。
色の変わる髪。
生後七日で、すでに文章を話す子ども。
「冷静に考えると、望月さん……」
茜は興味を示した。
「……近所全体を危険にさらしているかもしれません」
「……?」
女の子も、疑問符のような顔をした。
「いえ、もっと悪いかもしれません」
中瀬は、極めて重大な結論に近づいているような声で続けた。
「駅の近くに住んでいますから、何百人もの人が危険に――」
「もういいです!」
茜が、控えめに取り乱した。
「心配しないで! 何も起きませんから!」
中瀬は、心の底から疑っていた。
「ねえ、あなたもそう思うでしょ――」
茜が上を見た。
女の子の髪が、桃色だった。
鮮やかな桃色。
疑いようのない桃色。
三十秒前には、なかった桃色。
「か、髪!」
「桃色ですね!」
「中瀬くん、説明書を見て!」
「説明書はありません!」
「桃色って何!?」
「空腹でしょうか!?」
「全部壊される!」
茜は完全に混乱していた。
女の子の髪を見た。
中瀬を見た。
また髪を見た。
そこでようやく、子ども本人をちゃんと見ることを思い出した。
女の子は笑っていた。
丸く、赤い頬。
笑いすぎて閉じた目。
何もしていないのに起こしてしまった混乱の真ん中で、完全に落ち着いていた。
「お腹すいた」
ただ情報を伝えるような、かわいらしい声だった。
「そ、そそ、そうだよね!」
「中瀬くんが、すっごくおいしいものを買ってきてくれるから! 早く行って!」
「行きます」
中瀬は、もう動いていた。
「望月さん! 家の鍵です」
投げた。
鍵が、空中に弧を描いた。
茜の手は、変な角度で間違った方向へ伸びた。
修正した。
もう一度修正した。
最後の最後で、どうにか指先に引っかけた。
中瀬は、もう走っていた。
人生で初めて、中瀬俊介が、スーパーへ急ぐ必死な父親のように走っていた。
茜は道路を渡ろうと向きを変えた。
止まった。
「ああ、困った……」
「どうしたの?」
肩の上から、女の子が尋ねた。
「中瀬くんの家、どこ!?」
二人は、しばらく黙った。
女の子も知りたかった。
「あ!」
茜が上を見た。
自分でもいい考えなのか分からない、思いつきだった。
「ねえ、この鍵が入る場所を探せる? ほら……前に、この鍵があった場所とか」
止まった。
――今のお願い、自分でも信じられない。
「うん!」
女の子は、はっきり分かるほど楽しそうになった。
このミッションが気に入ったのだった。
小さな手で鍵を受け取った。
二本の指で持った。
目を閉じた。
集中した。
ものすごく。
――その顔で、私の肩にうんちしないでね……。
茜は、慎重に見上げながら思った。
「見つけた!」
「あああ!」
茜は思わず女の子を抱き下ろし、軽くくるりと回した。
本当にうれしかった。
「えらい! できると思ってた!」
女の子の頬が、真っ赤になった。
深いところから、笑い声がこぼれた。
心から幸せなときに出る、あの笑いだった。
茜がまばたきをした。
近くから、女の子を見た。
――……大きくなってる?
間違いなく、少し重かった。
数分前より、少し大きかった。
――目の前で、育ってる。
口には出さなかった。
その考えを飲み込んだ。
「こっちだよ、もちすきさん!」
――名前、間違ってる。
――でも、かわいい。
それも言わなかった。
女の子は茜の腕から下り、地面に立った。
ずっとそうしてきたような自然さで、茜の手を取った。
茜は少し体を傾けて歩いた。
小さな手を握るために。
――まだ、髪が桃色だ……。
歩きながら、見下ろした。
――変だな。もしかして……本当にうれしいときの色?
答えのない疑問が、宙に浮かんだまま残った。
女の子は、望月茜を知らない通りへ案内していた。
突然、少し違って見えるようになった街の中で。
茜は、そのあとについていった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!♡
少しでも楽しんでいただけたら、下の☆から評価していただけると嬉しいです!
ブックマークも、続きを書く励みになります~!
(´▽`)
キャラクターデザインやイラストは、Pixivにも投稿しています!
よかったら、ぜひのぞいてみてくださいね♡
Pixiv:
https://www.pixiv.net/en/users/121622272
それでは、また次のお話で!♡




