第39話 文房具って最高!!
【悲報】つむぎの学校準備、保護者のほうがはしゃいでいます。
――初めての制服。初めての文房具。初めてだらけのお買い物――なのに、なぜか一番危なっかしいのは茜でした。――
老人ホームの庭。
楽しい昼食会が始まってから。
もう。
二時間近く。
たっぷり食べた。
たっぷり喋った。
たっぷり笑った。
そして今。
茜とつむぎは。
芝生の上。
ごろん。
完全に。
寝転がっていた。
隣には。
おばあさんたちも。
ごろん。
平和だった。
ものすごく。
このまま。
夕方まで。
動かなくてもいいくらい。
でも。
茜。
空を見る。
少しだけ。
名残惜しそうに。
「ねえ……」
「私たち」
「そろそろ帰らないと」
その瞬間。
「あら!」
「もう帰っちゃうの?」
「もう少しいなさいよぉ!」
おばあさんたち。
一斉に。
引き止める。
茜。
胸が痛い。
ものすごく。
「ごめんなさぁぁぁい!!」
両手を合わせる。
「今週!」
「つむぎちゃんの学校用品!」
「買いに行かないといけないんです!」
「あら!」
「それは大事ねぇ!」
別のおばあさん。
つむぎを見る。
にこにこ。
「つむぎちゃん」
「学校、楽しみ?」
つむぎ。
むくっ。
起き上がる。
そして。
「はい!」
「つむぎ!」
「学校に行きます!」
自分のことを。
つむぎ。
と言った。
茜。
「……」
聞いた。
でも。
何も言わなかった。
むしろ。
ちょっと可愛いと思った。
かなり。
「いいわねぇ!」
「学校が終わったら」
「また遊びに来てね、つむぎちゃん!」
つむぎ。
すくっ。
立ち上がる。
姿勢。
ぴしっ。
「はい!!」
まるで。
任務を与えられた。
小さな兵士だった。
絶対に。
また来るつもりだった。
宮本。
手を振る。
「それじゃあ」
「またねぇ!」
「はーい!」
「またねー!!」
茜。
ぶんぶん。
つむぎも。
ぶんぶん。
二人。
老人ホームを出る。
受付を通る。
そして。
今日は。
ちゃんと。
玄関から出た。
普通に。
壁を越えない。
素晴らしい成長だった。
軽トラック。
乗り込む。
茜。
ハンドルを握る。
「よぉぉぉし!」
「つむぎちゃん!」
「お買い物行くよー!!」
「はい……」
返事。
弱い。
ものすごく。
茜。
横を見る。
つむぎ。
ぐったり。
お腹。
いっぱい。
目。
半分。
閉じている。
「みんな……」
「いっぱい食べさせてきた……」
つむぎ。
遠い目。
思い出す。
ご飯。
おかず。
もう一皿。
お菓子。
「これも食べなさい」
「こっちも美味しいわよ」
「もっと食べられるでしょ?」
止まらなかった。
「茜さん……」
「もう……」
「息できないかも……」
茜。
拳。
ぐっ。
「頑張って!」
「つむぎちゃぁぁぁん!!」
「うぅ……」
そして。
軽トラック。
発進。
ぶぉぉぉん!!
相変わらず。
勢いだけは。
すごかった。
しばらくして。
到着。
二人。
店の入口。
並んで立つ。
「……」
「……」
見上げる。
大きい。
広い。
そして。
カラフル。
文房具。
ノート。
筆箱。
バッグ。
学校用品。
棚。
棚。
棚。
奥まで。
ずらぁぁぁぁっ。
つむぎ。
目。
きらきら。
「すごい……」
その隣。
茜。
別の意味で。
目。
きらきら。
いや。
少し怖かった。
「……」
「中瀬くん」
「ちゃんとお金」
残してるかな……」
ほぼ。
同時だった。
つむぎ。
茜を見る。
茜。
つむぎを見る。
「……」
一秒。
そして。
茜。
拳を上げる。
「よぉぉぉし!!」
「行くよ、つむぎちゃん!!」
「お金のことは!」
「あとで中瀬くんが何とかする!!」
「はい!」
何も。
解決していなかった。
でも。
二人は。
元気よく。
店の中へ。
突撃した。
店内。
二人。
歩き始める。
いや。
茜が。
つむぎを引っ張っていた。
ぐいぐい。
「そうだ!」
茜。
急に止まる。
「つむぎちゃん!」
「先に制服!」
「サイズ見に行かない?」
「ん……」
つむぎ。
自分のお腹を見る。
ぽんぽん。
まだ。
いっぱい。
ものすごく。
「今より……」
「一つ小さいサイズがいいと思う」
茜。
つむぎのお腹を見る。
そして。
ぷっ。
笑った。
「大丈夫だよ!」
「つむぎちゃんなら」
「たぶん一番小さいサイズで――」
歩き出す。
その時。
ぴたっ。
止まった。
「……待って」
つむぎ。
「ん?」
「待って」
「待って待って待って」
「……?」
茜。
きょろ。
きょろきょろ。
周りを見る。
右。
左。
後ろ。
誰も。
聞いていない。
確認。
そして。
つむぎに。
こそこそ。
近づく。
「つむぎちゃん……」
小さな声。
「私たち」
「どうやって若くなるの?」
「ん……」
つむぎ。
考える。
ものすごく。
真剣に。
「まだ」
「よく分からない」
「たぶん……」
「二人の時間を」
「若い時まで戻すか……」
「昔の写真を見て」
「その時の姿に変えるか……」
茜。
「……」
顔。
少し。
引きつる。
「やばい」
心の中。
『学生時代……』
『可愛い写真』
『全然ない……』
かなり。
重大問題だった。
茜にとっては。
「で、でも!」
茜。
話題を変える。
「つむぎちゃんは?」
「自分の年齢」
「変えられないの?」
つむぎ。
首をかしげる。
「んー」
「できない」
「赤ちゃんだった時も」
「やってみたけど」
「できなかった」
「あっ!」
茜。
指を立てる。
「でも!」
「あの時は」
「力が足りなかっただけかも!」
つむぎ。
目。
ぱっ。
「確かに!」
「やってみる!」
すぅぅぅぅ。
つむぎ。
集中。
今。
ここで。
全力を出そうとする。
茜。
「待って待って待って!!」
肩。
がしっ。
止める。
「ここでやらないで!!」
「……?」
つむぎ。
きょとん。
なぜ。
分からない。
結局。
二人。
試着室。
中。
つむぎ。
むむむ。
集中。
頑張る。
もっと。
頑張る。
「んんんん……!」
茜。
待つ。
じーっ。
「……」
何も。
起きない。
しばらくして。
つむぎ。
しゅん。
肩を落とす。
「茜さん……」
「やっぱり」
「できないみたい……」
茜。
少しだけ。
考える。
そして。
にこっ。
「大丈夫!」
「そのままでも」
「二年生の教室にいるつむぎちゃん」
「絶対面白いから!」
つむぎ。
「……」
少しだけ。
緊張した。
学校。
教室。
知らない人たち。
でも。
ほんの少しだけ。
だった。
すぐに。
「よぉぉし!」
茜。
手を叩く。
「じゃあ!」
「買うもの決まったね!」
「はい」
つむぎ。
普通に。
頷いた。
そして。
制服。
試着開始。
数分後。
試着室。
しゃっ。
カーテン。
開く。
つむぎ。
制服姿。
ちょこん。
「……」
自分を見る。
鏡を見る。
もう一回。
自分を見る。
「好き!」
その瞬間。
茜。
両手。
口元。
目。
きらっきら。
「きゃああああああああ!!」
「つむぎちゃん!!」
「制服!」
「めちゃくちゃ可愛いぃぃぃぃぃ!!」
「お、お……」
つむぎ。
少し。
赤くなる。
「ありがとう……」
照れた。
かなり。
制服。
決定。
次。
文房具売り場。
二人。
歩く。
てくてく。
てく。
……てく。
だんだん。
遅くなる。
つむぎ。
ふらふら。
右。
左。
また右。
「あ、茜さん……」
「ん……?」
「暑い……」
顔。
真っ赤。
額。
汗。
いっぱい。
歩きすぎた。
食べすぎた。
そして。
店内。
暑かった。
かなり。
茜も。
同じだった。
髪。
少し。
ぺたっ。
「た、確かに……」
「暑いね、つむぎちゃん……」
二人。
もう。
限界寸前。
その時。
つむぎ。
突然。
天井を見る。
そして。
魂の叫び。
「海ぃぃぃぃぃぃ!!」
「いつ行くのぉぉぉぉぉ!!」
店内。
響いた。
かなり。
茜。
びくっ。
「もうすぐ!」
「もうすぐ行こうね!!」
つむぎ。
ぴたっ。
茜を見る。
そして。
思い出した。
約束。
「……」
「でも」
「ちゃんと外で」
「いい子にできたら」
「海に行くんだよね……」
もう。
答えを知っていた。
口。
むぅ。
完全に。
しょんぼり。
茜。
その顔を見る。
少しだけ。
困る。
「う、うん……」
「でも!」
「つむぎちゃん」
「すっごく頑張ってるよ!」
「だから」
「もうすぐ!」
「本当に!」
「もうすぐ行こうね……!」
声。
だんだん。
弱くなる。
茜も。
暑さに。
負けそうだった。
「約束するから……」
つむぎ。
「……」
まだ。
少しだけ。
むぅ。
茜。
最後の手段。
「ここ終わったら」
「アイス食べよう」
つむぎ。
耳。
ぴくっ。
「それか」
「前に話した」
「お茶のお店」
つむぎ。
顔。
ぱっ。
「よぉぉち……!」
「分かった!」
復活。
早かった。
ものすごく。
二人。
再び。
歩く。
そして。
茜。
突然。
止まる。
目。
見開く。
「あっ!!」
つむぎ。
「!?」
茜。
震える指。
前を指す。
「あ、あった……!」
「見つけた!!」
「見つけたよ、つむぎちゃん!!」
つむぎ。
前を見る。
そこには。
色。
色。
色。
ずらぁぁぁぁぁっ。
鉛筆。
色鉛筆。
ペン。
消しゴム。
ノート。
筆箱。
シール。
子ども向け。
文房具コーナー。
つむぎ。
目。
きらぁぁぁぁぁん。
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
「色鉛筆!!」
「ペンもある!!」
茜も。
きらぁぁぁぁぁん。
完全に。
同じ顔。
「買おう!!」
「いっぱい見よう!!」
「やったぁぁぁぁぁ!!」
「やったぁぁぁぁぁ!!」
二人。
走る。
全力。
文房具売り場へ。
一直線。
手には。
すでに。
大量の袋。
でも。
そんなこと。
どうでもよかった。
今の二人は。
完全に。
子どもだった。
いや。
最初から。
あまり変わらなかった。
たぶん。
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