第37話 壁から入ってくる元職員は、ほぼ不審者です
【悲報】プライバシーを教えた本人、老人ホームの壁を越える。
――メイク、盗み聞き、カップ麺、そして無断侵入。つむぎは今日も、茜さんから大切なことを学んでいます。――
つむぎ。
待っていた。
ベッドの上。
ちょこん。
足。
ぶらぶら。
ぶらぶら。
茜。
まだ。
メイク中。
鏡の前。
真剣。
ものすごく。
真剣。
つむぎ。
待つ。
まだ待つ。
さらに。
待つ。
「……」
長かった。
かなり。
つむぎ。
ついに。
立ち上がる。
待つことを。
やめた。
別に。
怒ってはいない。
ただ。
暇だった。
ものすごく。
部屋の中。
歩き始める。
そこら中。
茜の服。
いっぱい。
普通じゃない。
かなり。
色。
派手。
形。
不思議。
でも。
全部。
ちゃんと。
茜っぽかった。
つむぎ。
一つずつ。
そーっと。
見る。
触る。
また見る。
机の上。
アクセサリー。
いっぱい。
その中には。
明らかに。
手作りっぽいものも。
いくつか。
あった。
つむぎ。
一つ。
見つける。
猿。
ギター。
じゃーん。
ロックだった。
ものすごく。
「茜さん。」
「これ。」
「茜さんが作ったの?」
指。
びしっ。
ロックな猿。
茜。
振り返る。
手には。
アイメイク用のブラシ。
片目。
まだ途中。
「ん?」
見る。
「あっ!」
「あはは!」
「それ!」
「私が作ったやつ!!」
つむぎ。
目。
きらっ。
「すごい!」
「じゃあ。」
「ずっと前に作ったんだね。」
少し考える。
「学校の時?」
「そうそう!」
「部活で暇だった時に!」
「たぶん!」
つむぎ。
猿を見る。
じーっ。
「そんなに昔なら。」
「きっと。」
「すごく丈夫――」
「試さないで!!」
「……」
沈黙。
茜。
止まる。
自分の言葉を。
考える。
そして。
少しだけ。
恥ずかしくなる。
「……」
「い、いや。」
「違う。」
「試してみようか。」
「本当に丈夫かどうか。」
「ね?」
笑顔。
ひきっ。
つむぎ。
素直。
「うん。」
「ごめんなさい。」
「いや。」
「こっちこそ……」
危なかった。
猿が。
つむぎ。
また。
部屋を見る。
「これ。」
「全部。」
「学校の時に作ったの?」
茜。
鏡へ戻る。
「うーん。」
「ほとんどはね!」
「学生の頃。」
「いろいろ作ってたから。」
ブラシ。
すっ。
すっ。
「今は。」
「そこまで作らないかなぁ。」
つむぎ。
部屋。
見る。
もう一回。
見る。
作品。
いっぱい。
本当に。
いっぱい。
「でも。」
「家にも。」
「いっぱいあるよ?」
「……」
茜。
手。
止まる。
「あ。」
「確かに。」
少し考える。
「あー!」
「最近だったら。」
「老人ホームのみんなと!」
「いくつか作ったなぁ……」
声。
少しだけ。
静かになる。
鏡越し。
天井を見る。
「……」
「会いたいなぁ。」
ぽつり。
本当に。
寂しそうだった。
つむぎ。
茜を見る。
「……」
何も言わない。
また。
ベッドへ。
ぽすん。
座る。
足。
ぶらぶら。
少しだけ。
待つ。
そして。
「茜さん。」
「まだかかる?」
「かからない!!」
即答。
「かかりません!!」
「お客様!!」
「もうすぐ終わります!!」
「うん。」
「……」
「……」
静か。
また。
静か。
つむぎ。
ぶらぶら。
茜。
ぬりぬり。
ぶらぶら。
ぬりぬり。
そして突然――
「やっ!!」
「!!!」
つむぎ。
びくぅっ!!
肩。
跳ねる。
本気で。
びっくりした。
茜。
「あっ!!」
「ご、ごめん!!」
「つむぎちゃん!!」
振り返る。
申し訳なさそう。
「退屈だよね……?」
「ずっと待たせちゃって……」
つむぎ。
首。
ふるふる。
「ううん。」
「大丈夫。」
「今。」
隣の人たちの話。」
聞いてるから。」
「……」
茜。
固まる。
ブラシ。
止まる。
「え?」
一秒。
理解。
二秒。
大理解。
「ダメぇぇぇぇぇぇぇ!!」
茜。
飛んできた。
ほぼ。
飛んできた。
「な、なんで!?」
「だって!!」
「みんなには!!」
「プライバシーってものが!!」
「あるの!!」
茜。
壁。
指差す。
とん。
とん。
「これ!!」
「壁!!」
「か・べ!!」
「プライバシーの印!!」
つむぎ。
壁を見る。
じーっ。
「か……」
「べ……」
「壁?」
「そう。」
「壁。」
ものすごく。
大事そうに言った。
つむぎ。
考える。
「あ。」
「ドアも。」
「……」
茜。
止まる。
「……」
「ドアも。」
つむぎ。
少し。
得意げ。
覚えていた。
その瞬間。
茜。
目。
見開く。
「それで思い出したぁぁぁ!!」
「?」
「何?」
「スマホ!!」
「私のスマホどこ!?」
机。
見る。
ない。
ベッド。
ない。
服の下。
ばさっ。
ない。
別の服。
ばさっ。
もっと。
散らかる。
「ここにあったのにぃぃぃ……!」
つむぎ。
静かに。
見守る。
部屋。
さらに。
ひどくなる。
そして。
「あった!!」
「よーち!!」
発見。
スマホ。
無事。
部屋。
重傷。
茜。
気にしない。
番号。
押す。
一人。
中瀬俊介。
被害者候補。
通話。
開始。
スピーカー。
オン。
ぷるるる。
ぷるるる。
がちゃ。
『何で――』
「中瀬くん!!」
最後まで。
言わせない。
いつものことだった。
「私とつむぎちゃんの!」
「お昼ごはん!」
「買わなくていいからね!!」
『……』
沈黙。
長い。
ものすごく。
そして。
『残念ですね。』
『ちょうど。』
『カップ麺を買いに行こうと思っていました。』
一拍。
『牛肉味。』
『もしくは。』
『お好みなら鶏肉味でも――』
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」
茜。
顔。
真っ赤。
「な、なんでそうなるのぉぉぉ!!」
横。
つむぎ。
ぽつり。
「本当なら。」
「鶏肉がいい。」
「つむぎちゃぁぁぁん!?」
電話の向こう。
少しの間。
そして。
『いい趣味です。』
中瀬。
認めた。
「認めないで!!」
数秒後。
中瀬。
普通に戻る。
『分かりました。』
『私は適当に。』
『こちらで食べます。』
茜。
「まだ外にいるの?」
『はい。』
『学校に寄って。』
『書類を調整してきます。』
『そのあと。』
『ドアも取りに行きます。』
その瞬間。
つむぎ。
口元。
にやっ。
「ドア……」
小さな声。
妙に。
楽しそう。
茜。
聞こえなかったことにする。
「よーち!」
「じゃあね、中瀬く――」
『待ってください。』
『二人で何を――』
ぴっ。
通話終了。
「……」
つむぎ。
スマホを見る。
茜を見る。
また。
スマホを見る。
そして。
顔。
少しだけ。
お母さん。
みたいになる。
「電話。」
「切った。」
「お話してたのに。」
「よくないよ。」
「……」
茜。
むっ。
「いいの!」
「中瀬くん!」
「質問多いから!!」
つむぎ。
「……」
口。
むぅ。
納得。
していなかった。
全然。
茜。
鏡へ戻る。
最後の仕上げ。
でも。
ちらっ。
つむぎを見る。
「……」
まだ。
あの顔。
目。
少し遠い。
首。
こてん。
耳。
何かを。
聞いている。
茜。
好奇心。
負ける。
「……」
「何の話してるの?」
プライバシー。
さっき。
教えたばかりだった。
五分も。
経っていない。
たぶん。
つむぎ。
普通に答える。
「みんなで。」
「お昼ごはん作るって。」
「へぇ。」
一秒。
「でも。」
「隣って。」
「夫婦二人だけじゃなかった?」
つむぎ。
首を振る。
「隣じゃないよ。」
「高橋さん。」
「……」
茜。
止まる。
「高橋さん?」
「うん。」
「老人ホームの。」
「……」
一秒。
二秒。
「老人ホームぅぅぅぅ!?」
「うん。」
「みんなでお昼ごはん!?」
「うん。」
茜。
目。
きらっ。
「…………」
「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?」
何か。
始まった。
絶対に。
良くない何かが。
始まった。
茜。
立ち上がる。
勢い。
すごい。
「よーち!!」
「行くよ!!」
「つむぎちゃん!!」
「うん。」
まだ。
座っていた。
つむぎ。
茜。
顔。
しゅっ。
メイクキープスプレー。
ぷしゅぅぅぅ。
完了。
バッグ。
掴む。
じゃらじゃら。
キーホルダー。
いっぱい。
香水。
しゅっ。
しゅっ。
そして。
つむぎ。
ひょいっ。
「え?」
「行くよぉぉぉ!!」
「う、うん……」
そのまま。
運ばれた。
つむぎ。
普通に。
受け入れた。
慣れてきていた。
たぶん。
二人。
階段。
降りる。
外。
到着。
その数分後。
つむぎ。
止まる。
「……」
目の前。
茜。
何をしているのか。
分からない。
いや。
分かった。
でも。
分かりたくなかった。
工事の残り。
木材。
ブロック。
その上。
茜。
よじ登る。
老人ホーム。
外壁。
高さ。
約二メートル。
「茜さん。」
「それ。」
「していいの?」
茜。
上を見る。
「もちろん!!」
「だって!!」
「あの人たち!!」
「私を呼ばずに――」
ぐらっ。
「おっと!!」
片足。
滑る。
でも。
まだ。
登る。
「お昼ごはんなんてぇぇぇ!!」
「ひどすぎるぅぅぅ!!」
つむぎ。
下から。
じーっ。
見守る。
もう。
止めない。
茜。
ついに。
壁の上。
「よーち!!」
「つむぎちゃん!!」
「次は――」
足。
つるっ。
「やぁぁぁぁぁぁ!!」
落ちた。
反対側へ。
どさっ。
「……」
数秒。
沈黙。
壁の向こうから。
茜の声。
「だ、大丈夫!!」
「つむぎちゃん!!」
「飛んでおいで!!」
「私が受け止め――」
ひゅっ。
「……」
つむぎ。
もう。
隣にいた。
茜。
固まる。
「……」
つむぎ。
にこっ。
「来たよ。」
「……」
茜。
数秒。
考える。
「ずっと。」
「それ。」
できたの?」
つむぎ。
こくん。
「うん。」
「……」
茜。
壁を見る。
工事の残りを見る。
自分を見る。
そして。
つむぎを見る。
「なんで。」
「もっと早く。」
「言ってくれなかったの……?」
つむぎ。
少し考える。
「茜さんが。」
「中に入りたいのか。」
「ケガしたいのか。」
「分からなかったから。」
「……」
「……」
「途中で。」
「中に入りたいんだって。」
「分かった。」
茜。
撃沈。
完全に。
「そう……」
つむぎ。
にこっ。
悪気。
ゼロ。
茜。
深呼吸。
「よーち!!」
「行こう!!」
復活。
早い。
ものすごく。
二人。
庭へ。
茜。
先頭。
ずんずん。
少し。
怒っている。
つむぎ。
後ろ。
てててっ。
新しい帽子。
ぴょこぴょこ。
本人。
ものすごく。
嬉しそう。
今日。
会いたい人がいた。
佐伯さん。
今度こそ。
ちゃんと。
話せそうな気がした。
そう思っていた。
その時――
ガラッ!!
庭へ続く。
ガラス戸。
勢いよく。
開いた。
「望月さぁぁぁぁん!!」
受付さん。
登場。
ものすごい勢い。
茜。
ぴたっ。
「……」
「こ、こんにちはぁ……」
笑顔。
不自然。
かなり。
さっきまで。
壁を越えていた人とは。
思えない。
受付さん。
目。
細い。
「どうして!!」
「ここにいるんですか!?」
茜。
びくっ。
「えっ。」
「なんで分かったの!?」
「カメラ。」
「ないよね!?」
「だからって!!」
「壁から入っていい理由には――」
受付さん。
止まる。
一拍。
そして。
指。
つむぎへ。
「その子が。」
「教えてくれました。」
「……」
茜。
ゆっくり。
つむぎを見る。
「つむぎちゃん……」
つむぎ。
もう。
そこにいない。
少し先。
老人ホームの皆さん。
集まっていた。
噂。
聞きつけた。
早かった。
ものすごく。
高橋。
両腕。
ぱあっ。
「まぁぁぁ!!」
「私たちの!!」
「お気に入りの超能力少女!!」
つむぎ。
ぱぁぁっ。
「一人だけ!!」
「唯一!!」
そのまま。
ぴょんっ。
高橋の腕へ。
「会いたかったぁぁぁ!!」
「わたしもー!!」
周り。
おばあさん。
さらに。
集まる。
完全に。
人気者。
一方。
庭の入口。
茜。
まだ。
受付さんと。
向き合っていた。
姿勢。
ぴしっ。
真面目な顔。
「今日は。」
「お昼ごはんに。」
来ました。」
受付さん。
即答。
「聞いてません。」
「……」
「……」
空気。
ぴりっ。
茜。
VS。
受付さん。
開戦。
勝つのは。
どっち。
その時。
後ろ。
宮本。
声。
「あらぁ。」
「いいじゃない。」
「参加させてあげましょうよ。」
藤原。
頷く。
「そうそう!」
「茜ちゃんも。」
「まだ家族みたいなものよ!」
「それに!」
「このかわいい子も!」
別の誰か。
「入れてあげて!」
「そうよ!」
「入れて!」
「入れて!」
「入れて!」
「入れて!」
「入れてぇぇぇ!!」
圧。
すごかった。
受付さん。
深く。
息を吐く。
「……」
「分かりました。」
「どうぞ。」
茜。
ぱあっ。
「やったぁぁぁ!!」
「ただし。」
受付さん。
指。
びしっ。
「次から。」
「ちゃんと。」
インターホン。」
「押してください。」
茜。
「……」
その時。
少し遠く。
つむぎ。
ぽつり。
「そうしたほうがいいよ。」
「さっき。」
受付さん。」
「バット持ってたから。」
「……」
茜。
止まる。
受付さん。
止まる。
「……」
「私を。」
「殴るつもりだったの!?」
「違います!!」
受付さん。
即答。
「泥棒だと思ったんです!!」
「でも!!」
「バット!!」
「使う気だったでしょ!?」
「防犯です!!」
「私!!」
「元職員!!」
「壁から入ってくる元職員は!!」
「ほぼ不審者です!!」
「ぐっ……」
正論。
だった。
かなり。
茜。
何も言えない。
そして。
しぶしぶ。
中へ。
受付さんの横。
通る。
その瞬間。
茜。
ちらっ。
見る。
受付さんも。
ちらっ。
見る。
一秒。
そして。
二人。
にこっ。
さっきまで。
戦っていた。
でも。
いつものことだった。
たぶん。
ガラス戸。
閉まる。
かちゃん。
その横。
受付。
壁。
一本の。
野球バット。
静かに。
立てかけてあった。
念のため。
もちろん。
念のため。
そして。
望月茜。
つむぎ。
二人は。
そのまま。
老人ホームの。
お昼ごはんへ。
突入した。
読んでいただき、本当にありがとうございます~!!♡♡
もしこの作品で少しでも笑顔になっていただけたら、★で応援していただけると、とっても嬉しいです!
皆さんからいただく評価は、
「もっともっと面白い作品を作りたい!」
と思える大切な励みになっています
(´▽`)
Pixivではキャラクターデザインやイラストも投稿しています!
Pixiv:
https://www.pixiv.net/en/users/121622272
また次回もよろしくお願いします~!!♡♡
(≧▽≦)




