第35話 わたしだけの帽子
【緊急速報】つむぎちゃんにも、“見ればすぐ分かるもの”を!?
― 茜の思い出のバッグから始まった、小さくて特別な“自分らしさ”探し!! ―
命からがら。
ようやく。
茜のアパート。
軽トラック。
降りる。
つむぎ。
ふらっ。
「む、胸焼けがするぅ……」
ほとんど。
助けを求める声だった。
茜も。
ふらふら。
「ま、待ってぇ……」
「お部屋に行こう……」
「お茶飲めば……」
「きっと治る……」
お茶。
万能。
……たぶん。
「うん……」
つむぎ。
こくり。
鉄の階段。
一段ずつ。
よいしょ。
よいしょ。
二人とも。
半分。
魂が抜けていた。
ようやく。
部屋の中。
茜。
両手を広げる。
「よ、ようこそー!」
「つむぎちゃん!」
「ゆっくりしてってねぇー!!」
「うん……!」
「ありがとう……!」
元気はない。
でも。
ちゃんと笑っていた。
茜。
すぐにキッチンへ。
「お茶いれるね!」
「つむぎちゃん!」
「何のお茶が好き!?」
つむぎ。
きょとん。
「えっと……」
「分かんない」
「飲んだことないから」
茜。
ぴたり。
止まる。
一秒。
二秒。
三秒。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
「お茶飲んだことないの!?」
「五歳なのに!?」
つむぎ。
人差し指。
ぴっ。
「正確には」
「五歳じゃないよ?」
「そこじゃなぁぁぁい!!」
茜。
頭。
がしっ。
「よぉぉぉし!!」
「今度!」
「すっっっごく美味しいお店に連れてく!!」
「紅茶がね!」
「最高なの!!」
「ブルーベリーのスコーンもあるし!」
「いちごソースも!」
「もうねぇぇぇ――」
スプーン。
くるっ。
茜も。
くるっ。
くるくる。
くるくる。
完全に。
夢の中。
「甘くて!」
「ふわふわで!」
「幸せでぇぇぇ――」
「茜さん」
「見せたいものって?」
「……」
現実。
帰還。
「……あっ。」
「そうだった。」
「えへへ……」
「待ってて!」
そのまま。
どたどたどたどた!!
寝室へ。
がたんっ!
ごろんっ!
どさっ!
ばたばたばたっ!!
つむぎ。
びくっ。
椅子の上で。
小さくなる。
「だ、大丈夫かな……」
数秒後。
「つむぎちゃぁぁぁん!!」
茜。
満面の笑み。
両手で。
大事そうに。
抱えていた。
「見て見て見てぇぇぇ!!」
「これぇぇぇ!!」
茜。
大事そうに。
抱えていたものを。
そっと。
つむぎの前へ。
「わぁ……!」
つむぎ。
目が。
きらきら。
「かわいいぃ……!!」
茜。
えへんっ。
胸を張る。
「でしょー!!」
「これね!」
「私が学校に持って行ってたバッグなの!」
つむぎ。
じーっ。
ぬいぐるみ。
みたい。
両手。
肩に。
ぎゅっ。
足には。
ひも。
背中から。
ぶらーん。
まるで。
「抱っこしてるみたい……!」
「そうなのぉ!!」
茜。
嬉しそう。
「これ背負って歩くとね!」
「みんな振り返るんだよ!」
つむぎ。
ぱちぱち。
「すごい……!」
「とってもかわいい!」
少し考える。
「でも……」
「中瀬さん」
「学校では」
「みんな同じって」
「言ってたよ?」
茜。
こくり。
「うん!」
「学校のバッグは別!」
「これはね!」
「サブバッグ!」
「一緒に持って行ってたの!」
「なるほど……!」
つむぎ。
納得。
そして。
もう一度。
バッグを見る。
「やっぱり」
「かわいい……」
「茜さん」
「おしゃれ……!」
「……!」
茜。
固まる。
次の瞬間。
じわぁ……
「うぅぅぅ……」
「ありがとうぉぉぉ……!!」
感動。
限界。
そのまま。
てててっ。
つむぎの隣へ。
耳元。
こそこそ。
「今度ね……」
「中瀬くんが」
『茜さん変です』って言ったら……
「今のこと」
「そのまま言って?」
つむぎ。
くすっ。
「うん!」
約束。
一つ。
その時。
つむぎ。
ふと。
キッチンを見る。
「あれ……?」
首。
こてん。
「茜さん」
「あのやかん……」
「お魚さん?」
茜。
ぱぁぁっ!
「気付いたぁぁぁ!?」
「そうなの!!」
「宮本さんと!」
「一緒に作ったの!!」
つむぎ。
にこっ。
「そうなんだ。」
「すごく好き。」
その一言だけで。
茜。
今日。
何度目かの。
感動。
「えへへ……」
照れ笑い。
お湯。
とぽとぽ。
湯気。
ふわり。
部屋の中。
少しずつ。
あったかくなっていく。
「……」
つむぎ。
口を。
小さく。
すぼめる。
きょろ。
きょろ。
部屋の中を。
見回す。
「……?」
茜。
手を止める。
「どうしたの?」
「もしかして……」
「あのナメクジさん?」
「また何かしたの!?」
「やっつけてくる!!」
「ち、違うよ!」
つむぎ。
ぶんぶん。
両手を振る。
「ナメクジさんは」
「関係ないの」
ほっ。
茜。
胸をなで下ろす。
……いや。
安心するところ。
そこじゃない。
つむぎ。
膝の上。
指先を。
もじもじ。
少しだけ。
恥ずかしそう。
「わたしもね……」
「茜さんみたいに」
「なりたいなって」
茜。
きょとん。
「え?」
つむぎ。
バッグを見る。
「このバッグを見たら」
「"茜さんだ"って」
「すぐ分かるでしょ?」
「だから……」
「わたしも」
「そんなものが」
「欲しいなぁって」
部屋が。
静かになる。
やかんのお湯だけが。
ことこと。
優しく。
音を立てていた。
茜。
何も言わない。
ただ。
つむぎの話を。
聞いていた。
最後まで。
ちゃんと。
つむぎ。
少しだけ。
目を伏せる。
「政府に戻ったら……」
「もう」
「学校には」
「来られないかもしれない」
「だから」
「ひとつくらい……」
「わたしだけのもの」
「欲しいなって」
言い終える。
少しだけ。
笑う。
でも。
その笑顔は。
少しだけ。
寂しかった。
茜。
そっと。
目を閉じる。
ふぅ。
小さく。
息を吐く。
前髪が。
ふわり。
風に揺れた。
そして。
優しく。
笑う。
「……もちろん。」
つむぎ。
ぱちっ。
顔を上げる。
「実はね。」
「見せたかったものは」
「まだあるんだ。」
そう言って。
茜。
もう一度。
部屋の奥へ。
今度は。
走らない。
ゆっくり。
ゆっくり。
歩いていく。
茜。
部屋から。
戻ってくる。
両手には。
一つの袋。
白い。
可愛らしい。
大事に。
大事に。
抱えていた。
つむぎ。
じっと見る。
「つむぎちゃん。」
茜。
優しく笑う。
「学校ね。」
「楽しいことばっかりじゃ」
「なかったんだ。」
「変わってるって」
「いっぱい言われたし。」
「変な子って。」
「笑われたこともある。」
少しだけ。
照れ笑い。
「えへへ。」
「でもね。」
「私は。」
「私のままでいた。」
「だから。」
「ちゃんと。」
「楽しかった。」
つむぎ。
静かに。
聞いていた。
一言も。
聞き逃さないように。
茜。
袋を見つめる。
「だからね。」
「つむぎちゃんにも。」
「つむぎちゃんだけの」
「しるしを。」
「持っていてほしい。」
つむぎ。
目を。
まんまるにする。
「え……?」
茜。
袋を。
そっと。
差し出した。
「これ。」
「つむぎちゃんへの」
「プレゼント。」
「…………!!」
つむぎ。
両手で。
受け取る。
大事そうに。
ぎゅっ。
少しだけ。
震えていた。
「ほらほら。」
茜。
くすっと笑う。
「そんなに緊張しなくても。」
「開けてみて?」
つむぎ。
こくん。
ゆっくり。
袋を開く。
かさっ。
白い布。
ふわり。
少しずつ。
姿を見せる。
丸い帽子。
そして。
大きな。
うさぎの耳。
ぴょこん。
「……!」
つむぎ。
止まる。
時間も。
止まる。
瞳だけが。
ゆっくり。
揺れた。
帽子を。
胸に抱く。
何かを。
思い出すように。
大切そうに。
そっと。
抱きしめた。
「つ、つむぎちゃん?」
茜。
少しだけ。
慌てる。
「えっ。」
「えっ。」
「も、もしかして……」
「気に入らなかった……?」
つむぎ。
ふるふる。
首を振る。
でも。
言葉が。
出ない。
「……」
「……」
やっと。
小さく。
息を吸って。
「だって……」
涙が。
ぽろり。
「わたし……」
「プレゼント」
「もらったの。」
「初めて……!」
茜。
「……!」
言葉を。
失った。
つむぎ。
帽子を抱えたまま。
涙をぬぐう。
でも。
笑顔だった。
とても。
とても。
嬉しそうな。
笑顔だった。
「ありがとう。」
「茜さん。」
「本当に。」
「ありがとう。」
読んでいただきありがとうございます!♡
もしよければ、ポイントを入れていただけると、とても励みになります~!
(´▽`)
キャラクターデザインやイラストはPixivにも投稿しています!
ぜひ遊びに来てください!
Pixiv:
https://www.pixiv.net/en/users/121622272
また次回もよろしくお願いします!♡




