第33話 青春リスタート!
【緊急速報】大人二人、高校生に戻ります!?
― つむぎちゃんの学校生活のため、中瀬と茜までまさかの生徒デビュー!! ―
つむぎは。
じっと。
動かなかった。
それだけで。
もう。
十分すぎるほど。
何かがおかしかった。
中瀬は。
気づいた。
茜のそばへ。
少しだけ。
顔を寄せる。
声を。
落とす。
「つむぎちゃん。」
「もう二分くらい。」
「静かすぎないか……?」
「ちょっと。」
「変だと思わな――」
「えっ!?」
「つむぎが何!?」
「全然聞こえなかった!!」
茜。
まだ。
舌を。
少しだけ。
出したまま。
紙に。
何かを。
書いていた。
夢中だった。
中瀬が。
わざわざ。
声を潜めていたことにも。
まったく。
気づいていない。
中瀬。
深く。
息を吐く。
そして。
つむぎの方へ。
歩いていった。
近づく。
それでも。
つむぎは。
瞬きすら。
しなかった。
床を。
見つめている。
でも。
本当に。
見ているわけではない。
心だけ。
どこか。
別の場所にいた。
一方。
茜は。
満足そうだった。
完璧に。
描けたらしい。
宇宙人の形をした。
ナメクジ。
あるいは。
ナメクジの形をした。
宇宙人。
どちらなのか。
誰にも。
分からなかった。
そもそも。
何を描いたのかすら。
怪しかった。
中瀬は。
つむぎの肩へ。
そっと。
腕を回した。
つむぎ。
ぱちっ。
瞬きをする。
すぐに。
何でもないふり。
いつも通りのふり。
「な、な、中瀬さん。」
「つむぎちゃん。」
「どうした?」
「何か。」
「悩んでいるように見えるが。」
「わ、わ、私がですか!?」
「そ、そんなこと。」
「全然ないですよ。」
「あはは……」
つむぎ。
小さく。
笑った。
誤魔化すための。
笑いだった。
「……」
中瀬は。
笑わなかった。
つむぎ。
むぅ。
口を尖らせる。
騙せなかった。
その顔だった。
「望月さんの。」
「悪い癖が。」
「うつったな。」
中瀬は。
そう言って。
コーヒーを。
ひと口。
「ひどい習慣がある人に。」
「言われたくありません!」
コーヒーの香りが。
届いた瞬間。
つむぎ。
鼻を。
両手で。
塞いだ。
「くだらん。」
中瀬は。
それだけ返して。
茜の方へ。
歩いていく。
つむぎの表情が。
少しだけ。
柔らかくなった。
ソファから。
ぴょんっ。
飛び降りる。
そして。
中瀬の後を。
ついていった。
茜は。
集中していた。
ものすごく。
集中していた。
三コマ漫画を。
描いている。
出来栄えとは。
まったく。
釣り合っていない。
凄まじい。
情熱だった。
「茜さん……」
「これは。」
「何ですか?」
「えっ!?」
「見れば分かるでしょ!?」
茜。
得意げに。
三コマ漫画を。
見せつける。
「いいえ。」
「見ても。」
「まったく分かりません。」
茜。
むっ。
顔をしかめる。
「最近。」
「いっぱい叩いたから。」
「今日は。」
「お休みにしてあげる。」
「ありがとうございます。」
中瀬は。
煙草を。
消しに行った。
そして。
戻ってくる。
その頃には。
二人で。
並んで。
漫画の続きを。
描いていた。
(ああ……)
(本当に。)
(望月さんの悪い癖が。)
(うつったんだな……)
中瀬。
こほん。
喉を鳴らす。
「そういえば。」
「さっき。」
「もう一つ。」
「話そうと思っていたことがある。」
二人。
同時に。
顔を上げる。
「今週のために。」
「少し。」
「準備をしておいた。」
二人の目が。
大きくなる。
「中瀬さんが。」
「何か準備したんですか!?」
つむぎ。
本気で。
驚いていた。
ただし。
ほんの少し。
疑ってもいた。
「えっ。」
「中瀬くんって。」
「何か気にすることあるの?」
茜。
さらに。
追い打ち。
「……ひどいな。」
「助けようとしただけなのに。」
中瀬。
背を向ける。
新しい煙草を。
取りに行こうとする。
その瞬間。
二人。
顔色が変わった。
後悔。
一瞬。
そして。
だっ!!
中瀬へ。
飛びついた。
「お願い!!」
「言って言って言って!!」
「中瀬くん!!」
「さっきのは。」
「本気じゃなかったんです!!」
「ねっ!?」
「茜さん!!」
「そう!!」
「本気じゃない!!」
「だから!!」
「おねがぁぁぁぁぁい!!」
中瀬。
びくっ。
少し。
身を引いた。
命に関わる。
もっと酷い何かを。
されるのではないかと。
一瞬。
本気で。
警戒した。
だから。
話すことにした。
「分かった。」
「俺の計画は。」
「綿密に。」
「練り上げられ。」
「緻密に。」
「構築され――」
「そこ。」
「飛ばして。」
茜。
腕組み。
つむぎ。
こくこく。
頷く。
「……分かった。」
中瀬。
少しだけ。
傷ついた。
「要するに。」
「一石二鳥になるように。」
「知り合いの同僚へ。」
「話を通しておいた。」
一拍。
置く。
「火曜日から。」
「金曜日まで。」
「俺たちは。」
「学校へ行く。」
……
……
「……え?」
中瀬は。
二人が。
黙った理由を。
理解できなかった。
でも。
次の瞬間――
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
静寂。
一秒も。
続かなかった。
二人。
同時に。
大爆発。
「だから言ったでしょ!!」
「中瀬くんなら分かってくれるって!!」
茜。
大はしゃぎ。
つむぎは。
何も言わない。
でも。
髪。
ぱぁっ。
一瞬で。
鮮やかな緑。
それだけで。
全部。
伝わった。
「ありがとうございます!!」
「中瀬さん!!」
「すっごく!!」
「楽しみです!!」
「……待って。」
茜。
ぴたり。
止まる。
くるっ。
中瀬を見る。
真正面。
中瀬も。
コーヒーを飲む手が。
止まった。
「ん?」
「今。」
「俺たちって。」
「言った?」
「言った。」
「俺たち?」
「俺・た・ち?」
「それ以外に。」
「何がある。」
「わ、私たちも!?」
「学校に行くの!?」
茜。
宇宙と。
正面衝突。
全身。
ぶるぶる。
頭。
風船みたいに。
膨らみそう。
顔には。
はっきり。
書いてあった。
『人生で一番幸せです。』
でも。
中瀬は。
少しだけ。
待ったをかける。
「期待しすぎるな。」
「……どういうこと?」
「せ、先生!?」
「違う。」
「用務員さん!?」
「違う。」
「じゃあ――」
「生徒だ。」
……
茜。
爆発。
寸前。
でも。
中瀬は。
まだ。
話が終わっていなかった。
「つむぎちゃんが。」
「能力を使って。」
「俺たちを。」
「若返らせる。」
「何歳!?」
「分からん。」
「きゃぁぁぁぁ!!」
「一年生の私も可愛かったし!!」
「でも二年生も最高だったし!!」
「あっ!!」
「あの頃も――」
「だから。」
「分からん。」
「空いてるクラスに。」
「入れてもらうだけだ。」
「つまんなーい。」
「とにかく。」
「つむぎちゃんは。」
「しばらく。」
「学校生活を送れる。」
「その間。」
「能力で。」
「俺たちも。」
「若いままでいる。」
「私は。」
「今でも若い。」
「……まあ。」
「それなりに。」
……
……
「それと。」
「俺たちも。」
「近くで。」
「能力を見ていられる。」
中瀬。
最後の。
コーヒーを。
飲み干す。
その瞬間。
茜。
限界突破。
「聞いた!?」
「つむぎちゃん!!」
「学校!!」
「学校だよ!!」
「は、はい!!」
「わ、私……」
「ちゃんと。」
「できるかな……?」
「できる!!」
「絶対できる!!」
「学校ってね!!」
「最高なんだから!!」
「友達ができて!!」
「いろんな人と話して!!」
「電車に乗って!!」
「海にも行って!!」
「すっごく!!」
「楽しいんだから!!」
「ほ、本当に!?」
「ほんと!!」
「絶対!!」
「行こうね!!」
「うん!!」
中瀬。
深く。
息を吐く。
「……まだ。」
「どっちが子どもなのか。」
「分からないな。」
二人を見る。
茜は。
もう。
学校で何をするか。
楽しそうに。
話し始めていた。
それを聞く。
つむぎ。
目を。
きらきら。
輝かせる。
学校。
そんな場所が。
あるんだ。
そんな顔だった。
中瀬。
静かに。
目を細める。
(……俺たちとは。)
(一緒にならないといい。)
(一度しかない。)
(学校生活だから。)
心の中で。
そっと。
願った。
息を吐く。
カップを。
流しへ。
ことん。
時計を見る。
「そろそろ。」
「買い物に行ってくる。」
「食材と。」
「ドアも。」
「取りに行かないとな。」
……
……
二人。
ぴゅ~♪
口笛。
何も知りません。
そんな顔。
「行ってくる。」
「はーい!」
「いってらっしゃぁぁい!!」
中瀬。
朝とは思えない。
疲労感を抱えたまま。
家を出る。
車へ。
乗り込む。
エンジン。
かける。
でも。
すぐには。
発進しなかった。
一秒。
ぼんやり。
前を見る。
(……心配なのは。)
(つむぎちゃんの能力より。)
(望月さんが。)
(何をやらかすかだな……。)
バック。
ゆっくり。
駐車場を出る。
(しかも。)
(あの。)
(ナメクジ宇宙人までいる。)
少しだけ。
笑った。
(……ほんと。)
(俺の人生。)
(二週間で。)
(ずいぶん変わった。)
(まだ。)
(夢でも見てるのか……?)
車は。
ゆっくり。
走り去っていった。
家の中。
その瞬間。
茜。
にやっ。
つむぎを見る。
その顔。
絶対。
何か企んでいる。
そういう顔だった。
つむぎ。
少しだけ。
身を乗り出す。
「つむぎちゃん。」
「はい!」
「準備はいい?」
「私が作った。」
「今日のスケジュール。」
「……え?」
「スケジュール?」
「そんなの。」
「作ってたんですか?」
茜。
にやにや。
止まらない。
「中瀬くんが。」
「出かけるって。」
「分かってたからね!!」
……
「やっぱり私。」
「超能力者には。」
「向いてないのかなぁ……。」
「向いてます。」
即答。
一秒も。
迷わない。
一切。
容赦もしない。
「……ひど。」
茜。
しょんぼり。
こうして。
放課後。
月曜日。
第二部。
開幕。
謎の。
スケジュール。
そして。
思ったことを。
全部。
そのまま口にする。
一人の。
小さな。
超能力少女。
今日も。
絶好調だった。
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