第28話 社長は今日もご機嫌。
【緊急速報】「二番目でよかった」――中瀬、突然の意味深発言!?
― つむぎちゃんの極秘マニュアル作成中、望月秋音の感情だけが最後に大渋滞!! ―
「すごいね!」
「秋音ちゃん!」
「本当にありがとう!」
栞。
とても。
感謝していた。
本当に。
とても。
秋音が淹れた。
お茶に。
ちなみに。
そのお茶は。
決して。
完璧ではなかった。
「あ、あはは……!」
「そんな!」
「大したことじゃ……!」
秋音。
照れる。
栞。
立ち上がる。
帰る準備。
「あれ?」
「しおりちゃん!」
「もう帰るの?」
「うん!」
「今日はありがとう。」
「お邪魔しました。」
栞。
みんなへ。
ぺこり。
丁寧に。
お辞儀。
つむぎも。
よちよち。
玄関まで。
歩いていく。
両手を広げて。
「やー!」
栞。
ふふっと笑う。
そのまま。
つむぎを抱っこ。
ぎゅっ。
「またね。」
「つむぎちゃん。」
その頃。
秋音。
ふと。
思い出す。
「あっ!」
「そういえば!」
「しおりちゃん!」
「今日来た理由って!」
「スーパーのことだけ!?」
中瀬。
心の中。
(……。)
(いや。)
(来なかったら。)
(たぶん。)
(死んでた。)
栞。
少し考える。
「うーん。」
「そう言われると。」
「それだけかも!」
にこっ。
笑う。
「秋音ちゃんが。」
「元気かどうか。」
「見たかったの。」
それから。
部屋を見回す。
秋音を見る。
中瀬を見る。
つむぎを見る。
安心したように。
笑った。
「うん!」
「元気そう!」
「よかった!」
「またね!」
「秋音ちゃん!」
「う、うん!」
「またね!!」
ぱたん。
ドアが閉まる。
玄関。
静かになる。
中瀬。
ぽつり。
「……。」
「家まで。」
「送った方が。」
「よくなかったですか。」
秋音。
首を振る。
「大丈夫!」
「しおりちゃん。」
「見た目より。」
「ずっと。」
「たくましいから!」
中瀬。
「……。」
(強いのか。)
そう。
思った。
その頃。
つむぎ。
ソファ。
体育座り。
目。
きらきら。
頭の中。
勝手に。
想像。
――夜道。
悪者。
現れる。
栞。
静かに。
立ち止まる。
風。
ふわっ。
髪が揺れる。
次の瞬間。
一瞬で。
全員。
倒れる。
完璧。
かっこいい。
まるで。
映画。
「やー!」
大興奮。
……。
実際。
画面の中では。
『ピポとゼラチン星』。
忍者の女の子が。
悪者を。
倒していた。
全部。
テレビだった。
中瀬。
立ち上がる。
「さて。」
「続きを……」
机を見る。
固まる。
「……。」
「え?」
ノート。
開いたまま。
そこには。
秋音が。
さっき。
考えながら。
書き込んだ。
メモ。
中瀬。
ゆっくり。
ノートを持つ。
秋音を見る。
「望月さん。」
「ページの使い方には。」
「あれだけ。」
「こだわるのに。」
秋音。
胸を張る。
「うん!」
中瀬。
ノートを。
見せる。
「この字は。」
「どうなんですか。」
静寂。
秋音。
「…………」
「きれい。」
真顔。
言い切った。
中瀬。
即答。
「違います。」
「僕の。」
「一番字が下手な生徒でも。」
「ここまでじゃ。」
「ありませんでした。」
秋音。
停止。
心。
深く。
傷付く。
「ひどい!!」
「私への!」
「人格否定だよ!!」
「だから。」
「先生じゃなくて。」
「よかったです。」
秋音。
「!!」
頭の中。
突然。
ありえない。
想像。
(せ、先生……!?)
(だ、だめ!!)
(先生なんて!!)
(絶対好きになっちゃうじゃん!!)
真っ赤。
限界。
「中瀬ぇぇぇぇぇ!!!」
ぱぁん!!
平手打ち。
中瀬。
横へ。
ぐらっ。
「……。」
「またですか。」
ぽつり。
つぶやいた。
「じゃあ。」
「続きを書きましょう。」
秋音。
腕を組む。
さっき。
叩いたことを。
少しだけ。
後悔。
でも。
少しだけ。
後悔してない。
「はい……。」
中瀬。
頬をさする。
ちょうど。
平手打ちが。
命中した場所。
秋音。
その様子を見て。
ほんの少し。
心配になる。
「……。」
「中瀬くん。」
「大丈夫……?」
少しだけ。
身を乗り出す。
頬を。
見ようとする。
その時。
中瀬。
くるっ。
振り向く。
近い。
近すぎる。
「冗談です。」
秋音。
停止。
その顔。
その距離。
全然。
どきどき。
しなかった。
むしろ。
腹が立った。
「……。」
「えい。」
ごんっ!!
下から。
あごへ。
きれいな。
アッパー。
中瀬。
もう一度。
飛んだ。
リビング。
今日も。
平和だった。
……たぶん。
その頃。
つむぎ。
ソファ。
さっきまでとは。
まったく違う。
姿勢。
どっしり。
偉そうに。
座っていた。
いつの間にか。
サングラス。
装備。
さらに。
ポップコーンまで。
食べている。
もちろん。
誰も。
用意していない。
どこから。
出てきたのか。
誰も。
知らない。
つむぎ。
二人を見る。
正確には。
大声ばかり出している。
秋音だけを。
見ていた。
その目は。
完全に。
組長だった。
(……。)
(困りましたね。)
(番組に。)
(集中できません。)
(教育が。)
(必要でしょうか。)
完全に。
裏社会の。
ボス。
だった。
でも。
その威厳は。
五秒も。
続かない。
かじっ。
また。
中瀬の高いペンを。
かじり始めた。
社長。
退勤。
「よし!」
「今度は!」
「私が書く!」
秋音。
ノートを。
取り返す。
中瀬。
床から。
ゆっくり。
起き上がる。
「……痛い。」
ぼそっ。
秋音。
すぐ。
反応。
「だから!」
「痛いって言ってるの!」
「もう!」
「二度と!」
「心配なんか――」
「はいはい。」
いつの間にか。
中瀬。
秋音の後ろ。
椅子へ。
手を添える。
秋音。
気配で。
気付く。
(……。)
(近い。)
(また。)
(近い。)
熊。
そんな言葉が。
頭をよぎる。
(く、熊さんみたい……。)
中瀬。
静かだった。
さっきの。
言葉。
『もう心配しない。』
何度も。
聞いてきた。
でも。
本当に。
一番。
傷付いているのは。
そんな言葉を。
無理に口にしている。
秋音自身だと。
もう。
分かっていた。
だから。
何も。
言わない。
否定もしない。
ただ。
いつも通り。
隣にいるだけ。
「さて。」
「次は。」
「何を書きますか。」
秋音。
耳まで。
真っ赤。
(ち、近い近い近い!!)
(落ち着いて!!)
「え、えっと!」
「つ、次!」
「何書こうか!」
「年齢……。」
中瀬。
ノートを見る。
「最初に会った時。」
「つむぎちゃんは。」
「二歳でしたよね。」
秋音。
「う、うん!」
「でも!」
「毎週。」
「二歳ずつ。」
「成長してるわけじゃないし……。」
「待ってください。」
中瀬。
姿勢を正す。
何か。
気付いた。
「つむぎちゃんは。」
「生まれて。」
「まだ二週間です。」
「体だけ。」
「五歳になっても。」
「経験まで。」
「五歳になるわけじゃない。」
秋音。
はっとする。
「そうだ!」
「五歳なのは!」
「理解する力だけ!」
「経験は!」
「まだ二週間!」
「そうですね。」
中瀬。
うなずく。
「つまり。」
「能力を使い続けたら……」
秋音。
同時に。
続ける。
「今月中に!」
「もっと成長しちゃう!?」
静寂。
二人。
同じ。
考え。
そのまま。
続いて。
秋音。
固まる。
「……。」
「え?」
「ということは。」
「私も。」
「早く年取るの!?」
中瀬。
「……。」
(戻った。)
(普通だったのは。)
(ここまでか。)
秋音。
大混乱。
「やだぁぁぁ!!」
「もし!」
「ずっと一緒にいたら!」
「私まで!」
「早く!」
「おばあちゃんに!!」
「なりたくなーーい!!」
家中。
走り回る。
中瀬。
冷静。
「三十五歳くらいまでは。」
「十分若いですよ。」
秋音。
ぴたり。
止まる。
振り向く。
「若くないもん!!」
「中瀬くんだって!!」
「十分おじさんじゃん!!」
「この!」
「おじさん!!」
「バカ!!」
中瀬。
自分の顔。
そっと。
触る。
確認。
(……。)
(そんなに。)
(老けてますか。)
答え。
老けていない。
むしろ。
年齢より。
若く見える。
でも。
秋音は。
今。
勢いだけで。
生きていた。
七分後――
事件。
解決。
つむぎ。
テレビの前。
大騒ぎする秋音へ。
ていっ。
乾いた。
きれいな。
前蹴り。
命中。
秋音。
沈黙。
中瀬。
その一部始終を。
見届ける。
静かに。
つむぎへ。
ぺこり。
頭を下げた。
「助かりました。」
つむぎ。
満足。
中瀬。
秋音を。
ひょい。
椅子へ戻す。
何事も。
なかったように。
席へ着く。
「では。」
「続きを。」
何も。
起きていない。
そんな顔だった。
「そういえば。」
秋音。
ふと。
大臣が。
言っていたことを。
思い出す。
「ねぇ。」
「もしかして。」
「あの大臣って。」
「私たちより。」
「もっと。」
「知ってること。」
「あるのかな。」
中瀬。
考える。
でも。
答えは。
もう決まっていた。
「あるでしょうね。」
「それは。」
「前から。」
「思っていました。」
秋音。
首をかしげる。
「どうして?」
中瀬。
ノートへ。
目を落としたまま。
静かに。
話し始める。
「説明が。」
「うますぎました。」
「え?」
「それって。」
「いいことじゃないの?」
「いいえ。」
中瀬。
首を振る。
「学校でも。」
「よくあります。」
「何か問題を起こした生徒ほど。」
「事前に。」
「説明を。」
「きちんと準備してくる。」
「質問されそうなことも。」
「先回りして。」
「全部。」
「話してしまうんです。」
秋音。
ぱち。
ぱち。
何度も。
瞬きをする。
(すごい……。)
(中瀬くんって……。)
中瀬。
続ける。
「大臣の話は。」
「間違ってはいません。」
「でも。」
「目的は。」
「それだけじゃない。」
「一か月という期間にも。」
「理由があるはずです。」
「彼らは。」
「僕たちが。」
「何か答えを見つけることを。」
「期待している。」
「もしかすると。」
「自分たちでも。」
「分からないことが。」
「あるのかもしれません。」
静かだった。
秋音は。
話の内容よりも。
別のことを。
考えていた。
(すごい……。)
(中瀬くん。)
(本当に。)
(すごい……。)
中瀬。
視線を感じる。
顔を上げる。
「……。」
「望月さん?」
秋音。
びくっ。
「あっ!!」
「ご、ごめん!!」
「あはは……。」
「ちゃんと!」
「聞いてたよ!!」
「……。」
「それで?」
中瀬。
小さく。
息を吐く。
「今は。」
「このマニュアルを。」
「続けましょう。」
ノートを。
閉じない。
まだ。
書くことは。
たくさんある。
そして。
リビングを見る。
つむぎ。
また。
いつの間にか。
サングラス。
社長。
復活。
腕組み。
偉そう。
「……。」
中瀬。
少しだけ。
笑う。
「この子が。」
「どう育つのか。」
「ちゃんと。」
「見届けましょう。」
「どんな能力があっても。」
「政府にも。」
「理解できなくても。」
「この子の成長だけは。」
「止めさせません。」
秋音。
その横顔を。
見つめる。
胸の奥が。
少しだけ。
あたたかくなる。
(中瀬くん……。)
その時。
中瀬。
ふと。
秋音を見る。
「望月さん。」
「はい?」
「やっぱり。」
「二番目の方が。」
「よかったですね。」
秋音。
停止。
頭の中。
真っ白。
一秒。
二秒。
三秒。
感情だけが。
大渋滞。
何一つ。
言葉にならない。
中瀬は。
もう。
ノートへ。
視線を戻していた。
まるで。
何でもない。
一言だったように。
リビングでは。
つむぎ。
中瀬の。
高いペンを。
今日も。
幸せそうに。
かじっていた。
『ピポとゼラチン星』も。
ちょうど。
一話。
終わったところだった。
読んでいただき、本当にありがとうございます~!!♡♡
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