第20話 なんでここ!?
【緊急速報】ただ車を取りに行くだけだったのに!?
― 望月アカネ、自分でも理解できないままナカセの家へ到着!! ―
ナカセと二人きりのドライブ。
緊張。
沈黙。
そして、
心の中だけ大騒ぎ。
「仕事が恋しい。」
その何気ない一言に、
アカネの心は大混乱!?
歌って。
叫んで。
勝手に将来を想像して。
気づけば――
なぜかナカセの家に到着。
……え?
私、
帰る家を間違えました!?
中瀬。
車。
高級車だった。
きれい。
整理整頓。
いい匂い。
望月。
助手席。
座る。
背筋。
ぴんっ。
膝。
きっちり。
揃える。
両手。
膝の上。
前だけ。
見る。
ものすごく。
緊張していた。
中瀬。
エンジン。
かける。
静かに。
走り出す。
いつも通り。
急がない。
焦らない。
静か。
しーん。
沈黙。
望月。
耐えられない。
「……」
「道」
「覚えてます?」
中瀬。
「覚えてます」
即答。
「……」
「そっか」
また。
静か。
十秒。
十五秒。
望月。
もう一度。
勇気。
出す。
「今日は……」
「ごめんね」
「いっぱい」
迷惑かけちゃった」
中瀬。
少しだけ。
考える。
望月。
返事を待つ。
その間――
『あぁぁぁぁ!!』
『迷惑だった!?』
『私』
『変だった!?』
『寝顔』
『ひどかった!?』
『よだれ!?』
『いや』
『もっと最悪なのは……』
『寝言!!』
『もし』
『中瀬くんの夢』
『見てたら!?』
『声に出してたら!?』
『やぁぁぁぁぁ!!』
頭の中。
大爆発。
その時。
中瀬。
ぽつり。
「別に」
「迷惑じゃ」
「なかったですよ」
――爆発。
終了。
望月。
「はは……」
「よかったぁ……」
心から。
安心した。
沈黙。
また。
少しだけ。
続く。
その時。
中瀬。
前を見たまま。
ぽつり。
「……」
「仕事」
「恋しいですか?」
望月。
びくっ。
『えっ!?』
『中瀬くんが!?』
『話しかけてきた!?』
『うそぉぉぉ!?』
『しかも雑談!?』
『落ち着け私!!』
心臓。
ばくばく。
ものすごく。
「わ、私……」
少し。
考える。
老人ホーム。
思い出す。
毎日の騒ぎ。
おじいちゃん。
おばあちゃん。
笑い声。
走り回る毎日。
全部。
浮かんだ。
「……」
「恋しい」
小さく。
答えた。
沈黙。
五秒。
その一言だけが。
少しだけ。
重かった。
望月。
はっ。
我に返る。
「あっ!!」
「ち、違うの!!」
両手。
ぶんぶん。
振る。
「向こうの方が」
「いいって意味じゃなくて!!」
「その……!」
「私はただ――」
中瀬。
少しだけ。
肩の力。
抜ける。
「……」
「私もです」
望月。
ぴたっ。
止まる。
「え?」
中瀬。
静かに。
続ける。
「私も」
仕事は。
恋しいですよ」
『!!!!!!』
望月。
頭の中。
大歓声。
『やばいやばいやばい!!』
『今の!!』
『ちゃんと覚えて!!』
『中瀬くん情報!!』
『初めて!!』
『好きなこと話してくれたぁぁぁ!!』
一字一句。
絶対。
忘れないと。
決めた。
望月。
じーーーっ。
中瀬を見る。
ものすごく。
真剣な顔。
『覚えた』
『完璧』
『中瀬くんは』
『仕事が好き』
『よし』
『メモしたい』
心の中だけ。
何度も。
復唱する。
中瀬。
視線は。
前。
運転。
そのまま。
でも。
気付いていた。
「……」
「その顔」
「何ですか?」
望月。
びくっ。
「え?」
中瀬。
少しだけ。
首をかしげる。
「……」
「トイレですか?」
沈黙。
一秒。
二秒。
望月。
真っ赤。
「なっ――」
「ちがぁぁぁう!!」
ぽかっ!
助手席から。
腕。
軽く叩く。
もちろん。
痛くない。
中瀬。
「?」
本当に。
分からない。
望月。
ぷいっ。
窓の外。
向く。
「もう!」
「この!」
「鈍感!」
「おバカ!」
「……」
ぶつぶつ。
小さな声。
中瀬。
聞こえなかった。
「何か言いました?」
望月。
さらに。
顔。
赤くなる。
「何でもない!!」
外。
見る。
絶対。
もう。
顔は見ない。
そう決めた。
三秒後。
ちらっ。
見た。
『あぁぁぁぁ!!』
『また見ちゃったぁぁぁ!!』
心の中。
今日。
何回目か分からない。
一人反省会。
開催。
それから――
車の中。
望月。
ラジオ。
ぽちっ。
つける。
音楽。
流れる。
「!」
知ってる曲。
「これ!」
「好き!」
嬉しそう。
ものすごく。
そして。
歌う。
全力で。
「~~~~♪」
「~~~~♪」
音程。
どこかへ。
旅に出ていた。
リズム。
自由。
ものすごく。
自由。
望月。
楽しそう。
それだけは。
本物だった。
二曲目。
「この曲も!」
歌う。
全力。
三曲目。
「懐かしい!」
また歌う。
中瀬。
運転。
そのまま。
表情。
変わらない。
でも。
心の中。
『……』
『音楽って』
『こんなに』
『自由だったかな』
少しだけ。
考えた。
望月。
気付かない。
最後まで。
熱唱。
完全に。
一人ライブだった。
目的地。
到着。
望月。
エンジンを切る前に。
にこっ。
「楽しかった!」
中瀬。
「……」
「そうですか」
それだけだった。
たぶん。
少しだけ。
耳は。
疲れていた。
到着。
望月。
軽トラック。
乗る。
キー。
回す。
ぶるるん。
一発。
かかった。
「よかったぁ……」
思わず。
安心する。
中瀬。
窓を開ける。
軽く。
手を振る。
「それじゃ」
「望月さん」
「また明日」
望月。
にこっ。
「はい!」
「また明日!」
中瀬。
先に。
走り出す。
望月。
その後ろ。
軽トラック。
発進。
もちろん。
帰る方向は。
別々。
そのはずだった。
望月。
運転しながら。
『あぁぁぁぁ!!』
『私のバカぁぁぁ!!』
頭の中。
また。
大騒ぎ。
『なんで』
『あんなに』
『意識してるの!?』
『落ち着け!!』
『落ち着け私!!』
大きく。
深呼吸。
ひとつ。
「よし!」
気合い。
入れる。
「もう!」
「考えない!」
「中瀬くんのことなんて!」
ぐっ。
拳。
握る。
「嫌なところ!」
「思い出そう!」
「えっと……」
考える。
「タバコ吸う」
「無愛想」
「ちょっとおじさん」
「……」
沈黙。
一秒。
二秒。
『……』
『あれ?』
『意外と』
『悪くない?』
「……」
「いやいやいや!!」
「違うぅぅぅ!!」
「望月茜ぇぇぇ!!」
一人で。
全力。
ツッコミを入れた。
考え事。
続く。
ものすごく。
真剣に。
「……」
『でも』
『もし』
『つむぎちゃんが』
『ちゃんと』
『普通の生活ができたら』
『海にも行けたら』
『あのおじさんに』
『私たちでも』
『育てられるって』
『証明できる』
望月。
ぱあっ。
笑顔。
「できる!」
「絶対できる!」
二秒。
嬉しかった。
本当に。
でも。
その笑顔。
少しずつ。
消える。
「……」
『そしたら』
『つむぎちゃん』
『もう』
『帰っちゃうのかな』
『……』
『中瀬くんも』
『また』
『一人』
『私は』
『老人ホーム』
『いつもの毎日』
「……」
「やだ」
ぽつり。
小さな声。
「やだぁぁぁぁぁ!!」
急ブレーキ。
きぃぃっ!!
車。
止まる。
ごんっ。
危うく。
ハンドルに。
頭。
ぶつけるところだった。
「いったぁ……」
前を見る。
「……」
「え?」
見覚えのある家。
見覚えのある車。
見覚えのある玄関。
「…………」
『なんで?』
『なんで!?』
『ここ!?』
『えぇぇぇぇぇ!?』
気付けば。
中瀬の家。
だった。
「うそぉぉぉぉ!!」
その時。
玄関。
がちゃっ。
開く。
中瀬。
出てくる。
望月。
「!!」
『終わった』
『私』
『終わったぁぁぁぁ!!』
ゆっくり。
シートへ。
ずるずる。
沈んでいった。
中瀬。
軽く。
首をかしげる。
望月の車へ。
歩いてくる。
一歩。
また一歩。
望月。
『来る』
『来る』
『来るぅぅぅ!!』
シート。
ずるっ。
もう少し。
沈む。
窓。
少しずつ。
閉める。
うぃぃぃん。
中瀬。
車の横。
到着。
望月。
目だけ。
見える。
じーーっ。
見つめ合う。
数秒。
「……」
『怒ってる?』
『絶対怒ってる』
『私』
『終わった』
コンコン。
窓。
叩く。
望月。
動かない。
完全停止。
コンコン。
もう一回。
深呼吸。
ひとつ。
ゆっくり。
身体を起こす。
ぎこちない笑顔。
「は、はは……」
「こんばんは」
中瀬。
「こんばんは」
普通だった。
いつも通り。
望月。
少しだけ。
安心する。
次の瞬間。
中瀬。
ぽつり。
「今日は」
「うちに泊まるんですか?」
望月。
「えっ!?」
顔。
真っ赤。
「ち、ち、ちが――」
その時。
中瀬。
すっと。
手を伸ばす。
望月の口。
軽く。
ふさぐ。
「んむっ!?」
望月。
固まる。
心臓。
今日一番。
速かった。
中瀬。
小さな声。
「……」
「静かに」
望月。
ぱちぱち。
瞬き。
「?」
中瀬。
少しだけ。
笑う。
「冗談です」
「まだ」
八時にも。
なってませんから」
望月。
「…………」
『笑った』
『今』
『笑った?』
『えぇぇぇぇぇ!?』
頭の中。
今日。
何度目か分からない。
大爆発だった。
望月。
口。
やっと。
動く。
「わ、私……」
「あの……」
「その……」
中瀬。
首をかしげる。
「それで?」
「どうして」
「ここに?」
望月。
目。
泳ぐ。
「あっ!」
「考え事!」
「してて!」
「気づいたら!」
「ここで!」
「ははは……」
乾いた笑い。
ものすごく。
中瀬。
「……」
「二十分くらい」
「考え事ですか?」
望月。
「……」
「はい」
小さく。
認めた。
中瀬。
ため息。
ひとつ。
車のドア。
開ける。
「危ないですよ」
「降りてください」
望月。
ぺこっ。
頭。
下げる。
「ご、ごめんなさい……」
車。
降りる。
ふらっ。
少しだけ。
よろけた。
家の中。
入る。
テレビ。
まだ。
ついていた。
『ピポとゼリーのほし』
ちょうど。
流れている。
ソファ。
つむぎ。
ちょこん。
座る。
髪。
まだ少し。
濡れていた。
「……」
寝ていた。
ものすごく。
幸せそうに。
よだれ。
少しだけ。
たらり。
望月。
自然に。
抱き上げる。
片腕。
膝の下。
もう片方。
背中。
大事そうに。
そっと。
中瀬。
洗面所へ。
歩く。
途中。
止まる。
少し考える。
戻る。
「望月さん」
「お風呂」
「終わったら」
「呼んでください」
「片付けますから」
望月。
「は、はい!」
また。
顔。
真っ赤。
その夜。
中瀬。
リビング。
ソファで寝る。
望月とつむぎ。
中瀬の部屋。
つむぎ。
くまのぬいぐるみを抱いて。
すやすや。
髪。
もう。
茶色。
穏やかな寝顔。
望月。
その隣。
天井を見つめる。
「……」
考えない。
そう。
決めた。
でも。
無理だった。
全然。
無理だった。
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